第157話 新しい防御魔法
俺たちは凄まじい勢いで落下していた。
ダンジョンの壁には光苔が生えていて視界はいい。
ゆえに、落下している実感が非常によくわかる。
もしも、これが暗闇の中だったらよくわからない感覚のまま死を待つことになっていただろう。
下を見れば400メートルくらいだろうか。うっすらとした明かりの中にぼんやりと床が見える。
このまま叩きつけられれば骨までも粉砕されて即死は免れない。
だから、新しい技を使おう。
俺が使う防御魔法の射程距離は50メートル。
その範囲なら
しかし、この魔法壁は硬いんだ。
衝撃を吸収するようにはできていない。
よって、着地の瞬間に発生させたとしても、ダンジョンの床とそう変わりはないだろう。
今までの俺ならば即死事案だったのだがな。
ここに来るまでも、個人的なトレーニングは続けていた。
主に
ある時に面白いことがわかった。
それは、
──俺は、魔法壁を100枚以上も発生させてヘトヘトになっていた。
そんな時に出す魔法壁は魔力を捻り出すようにして出すんだ。
すると不思議なことが起こった。
おや?
いつものように
それはハンペンのように弾性があって、ブヨンブヨンとしていた。
こんなことは始めてだな。
魔法壁が出せるようになってから10年が経つ。
しかし、柔らかい魔法壁なんて一度も発生させたことがなかった。
どうしてこうなったんだ?
考えられるのは
女性は男性に比べて体が柔らかい傾向がある。
その原理は不確定だが、理由の1つに出産の影響で骨盤が動きやすいことが関係しているらしい。
つまりは、女の格好をしていることが、俺の魔法壁に影響を与えたのだ。
もちろん、硬い魔法壁だって出せる。
でも、意識を少しだけ変えることでブヨンブヨンの魔法壁を発生させることができたのだ。
これは使える。
この柔らかさはいい。
女のように柔らかく……。
──そして、現在。
もう地面に衝突するまで100メートルを切っているだろう。
さぁ、新しい技を使ってみせようか。
おっと、その前にみんなの視線は重要だな。
もしも、魔法壁を出している姿が見られたら俺の正体がバレてしまうよ。
みんなは様々な形で死を悟っていた。
目を瞑る者。天を仰ぐ者。泣く者。
とても、俺の姿に目を配る余裕はなさそうだ。
アービド先生だって、スマホに映る家族の写真を見つめている。
んじゃあ、いってみますか。
全員を落下という攻撃から防ぐ。
「
地面に発生させた俺の魔法壁は、落下している全員を拾った。
ズボォオオオオオオオオオオオオ〜〜。
それはクッションのように柔らかく。
みんなの体を包み込む。
そして、その弾性によって何度も体を跳ね上げた。
ボヨーーン。ボヨーーン。ボヨーーン。
「ちょ! な、なんですのこれ!?」
うん。
上手くいった。
俺の魔法壁は落下の威力を見事に吸収したぞ。
みんな驚いているけど、怪我はないみたいだな。
アービド先生は眉を寄せた。
「誰がこんな魔法を使ったんだ!?」
やれやれ。
俺です、とは言えないよな。
俺はエイテルの陰に身を潜める。
「
「ああ」
俺が
「おかしいな? 生徒が魔法壁を張ってないとすると、さっきのクッションはダンジョントラップか? しかし、探索者を助けるトラップなんて聞いたことはないが??」
そんな都合のいいトラップはないさ。
罠の類はダンジョンボスの思念によって生成されるというからな。
ボスは探索者を殺すことが使命だ。だから、助けるなんてあり得ない。
「うーーん。まぁ、いい。みんな無事か?」
アービド先生は生徒の無事を確保するとスマホから救助の連絡をした。
さて、救助を待つ間は動かずにやり過ごすのが鉄則か。
生徒たちの実力は様々だ。
各国の天才児が集められたとはいえ、まだ15歳。
最低等級でB級だ。一般人ならばその等級だけでも十分なんだがな。未知のダンジョンを進むのは危険が高すぎるだろう。
「みんな野営の準備をしろ」
そうなるよな。
的確な判断だ。
「かったるいですわ」
はい?
「ダンジョンボスを倒せばダンジョンは消滅しますわ。このまま奥に進みましょう」
「デザイア・フィネッテ! そんなことができるわけがないだろう!」
「できますわ。
はぁーー。
行動力のあるバカが一番面倒臭いな。
「アービド先生は
「し、しかし……。生徒の身の安全が一番だ」
「だったら、野営なんてやめてダンジョンボスを倒したらいいじゃありませんか。寝込みをモンスターに襲われたらおしまいですわよ」
おいおい。
理論がめちゃくちゃだな。
アービド先生にはがんばって欲しいが、解雇を盾に取られてるとそうもいかないのか。
さっき、先生が見てるスマホの写真をチラッと見たけどさ。先生ん家は貧乏そうだもんな。教師の収入が唯一の家族の支えって感じだよ。
「さぁ! 野営の準備なんかやめてボスルームに向かいましょう!」
「……み、みんな。デザイアのいうとおりにしてくれ。できる限り、私が防御魔法でフォローはするつもりだ」
「ブヒョヒョヒョ。フォローなんていりませんわ。
「お、おいデザイア。大きな声で笑うのはやめないか! モンスターが寄ってきてしまうぞ!!」
「ブヒョヒョ! なにをそんなにビクついていますの? B級モンスターなんて
いや、ここまで深く潜ったからな。
モンスターのランクは未知数だ。
先生のいうとおりに慎重に進むのが正解なんだがな。
「ブヒョヒョヒョォオオオオオ!!」
ああ……。
あんな高笑い。
モンスターに襲ってくれと言ってるようなもんだっての。
それは一瞬の出来事だった。
俺の前髪が揺れたかと思うと、デザイアは吹っ飛ばされていた。
ダンジョンの壁にベチャアと衝突する。
「あぎゃあぁッ!!」
強烈なモンスターの攻撃だ。
先生が防御魔法を付与していなかったら即死事案だったよ。
とはいえ、彼女の全身は複雑骨折。あのダメージじゃあ再起不能だろう。
デザイアの奴、この怪我で文句を言いそうだけどさ。先生の魔法がなかったら即死だったんだからな。むしろ感謝する事案だからな。
さて、たった一撃でここまでのダメージを与えるモンスターはどんな奴だ?
「み、みんな円陣を組め! ス、ス、スピードスターワイバーンだ!!」
ああ、暗奏の時に遭遇した、とんでもなく素早いモンスターだな。翼竜タイプの怪物だ。
そいつが3匹か。
討伐には、S級探索者が10人以上は必要なS級モンスターだな。
対する俺たちの戦力。S級探索者はアービド先生が1人。他はA級以下の若者だけ。
こりゃ、普通だったら全滅パターンだな。
まぁ、そんなことにはさせないけどさ。
────
次回。
デザイアのざまぁはまだまだありますのでご安心ください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます