第150話 制裁!

「このアマぁああああああああ!!」


  曳替ひきがえはカーシャの胸ぐらを掴んだ。


「きゃああ!!」


「こうなったらおまえが人質だ!!」


 カーシャを羽交い締めにする。


「クハハハ! この部屋は完全防音だからなぁああ!! 叫んだって助けなんてこないぞぉおお!!」


「こ、こんなことをしてもあなたが不利になるだけですよ」


「こうでもしないと突破口が開けんのさ!!」


  曳替ひきがえは携帯をかけた。

 繋げたのは片井ダンジョン探索事務所である。


「はい。専務の二ノ宮です」


「ふん! 随分と電話に出るのが早いじゃないか。状況はわかっているだろうな?」


「ええ。私のパソコンにはそちらの映像が映っていますからね」


 局長室の映像はモスキートカメラによって撮影されている。


「通報はしてないだろうな? もしも、しているならこの女の首の骨をへし折るぞ」


「……そんなことしてないわよ」


「ふん! どうだかな。この部屋のパソコンから外の状況が見れるのは知っているか? 警察が見えたら速攻で 須賀乃小路すがのこうじを殺すからな!!」


「目的をいいなさい」


「決まっているだろう。録画の停止。映像の削除だよ」


「……そんなことをしてなんになるの?」


「ふん。証拠さえなければなんとでもなるんだよ!! さぁ映像を消せ!!」


「…………」


  曳替ひきがえは勝利を確信したようにニヤリと笑う。


「電話ではよくわからん。映像を消したらモスキートカメラの赤ランプを点滅させろ。私の要求に従えないならNOとして2回。映像を消した場合はYESで3回の点滅だ」


 モスキートカメラはゆっくりと点滅した。


「1回……」


 再び点滅する。


「2回……。さぁ、どうする二ノ宮?」


 無常にも、ランプは点滅をした。


「3回ぃいいいいいいいい!! ギャハハハハ!! 終わったなぁああ 須賀乃小路すがのこうじぃいいい !! 私の作戦は大成功だよぉおお!! 小娘の浅知恵がぁあああああ!! 私に脅しをかけるとは100万年早いんだよぉおおおおおおお!!」


 カーシャは余裕で微笑んだ。


「あなたは目が悪いのかしら? よく観た方がいいわよ」


「なにぃいい!?」


 カメラは連続で点滅を続ける。

 4回、5回……8回、9回。


「に、二ノ宮ぁあああああああああああ! これがどういうことかわかってんだろうなぁああああ!!」


 携帯電話は既に通話が切れていた。

 鳴り響くのはツーツーという音だけ。


「舐めるなよぉおおおお!! こうなったら貴様を犯してやるからなぁあああ!! 警察が来るまで何分だぁあ!? 10分か? 15分? それまでの間に 須賀乃小路すがのこうじ カーシャ! おまえを犯して一生消えない傷を背負わせてやるぅうううう!!」


「そんな時間ないと思うけどね」


「クハハハ! 強がりを言っても無駄さ! 私は終わったんだ!! もうこうなったら怖いもんなしさ!! 最期は貴様を犯して盛大に散るとしよう!!」




バダン!!




 と、勢いよく開けられたのは局長室の扉。



「いい加減にしろ!!  曳替ひきがえ!!」



 現れたのは 須木梨すきなし環境大臣だった。


「だ、だ、大臣がどうしてここに!?」


「モスキートカメラの映像は私の携帯にも飛んでいたんだ!! 部屋の外で待機しながら一部始終を見せさてもらったぁああ!!」


「そ、そんなぁあああ!!」


  須木梨すきなし 曳替ひきがえの胸ぐらを掴んだかと思うと、脚をかけて勢いよく倒した。



「正当防衛、大外刈りぃいいいいいいいい!!」



バシィイイイイイイイイイイイイイン!!



  曳替ひきがえは体を床に打ち付けられる。


「ぐはぁあああああッ!!」


「私は華奢な体だがね。こう見えて学生の頃は柔道で県大会3位の実力なのさ」


  須木梨すきなしはすぐにカーシャを気に掛けた。


須賀乃小路すがのこうじくん。怪我はないか?」


「はい。ありがとうございます」


「うむ」


  須木梨すきなしは床で寝そべる 曳替ひきがえの胸ぐらを掴んで持ち上げた。


「よくも、私の部下に手を出したな」


「あが……あがが……」


「ん? なんだ? て、抵抗するか 曳替ひきがえ!!」


「あが……あがが……」


「やめろ 曳替ひきがえ抵抗するな!!」


 まるで人形と1人芝居をするように、 須木梨すきなし 曳替ひきがえの体を揺らす。

 そして、


「正当防衛、体落としぃいいいいいい!!」



バシィイイイイイイイイイイイイインッ!!



 再び、 曳替ひきがえの体は柔道の技によって打ち付けられた。

 もう、 曳替ひきがえは白目を向いている。

 しかし、 須木梨すきなしは、そんな彼の体を持ち上げて揺らした。


「や、やめろ!  曳替ひきがえ!! き、貴様、まだ抵抗するか!!」


 再び柔道の技が炸裂する。


「正当防衛、背負い投げぇえええええ!!」



バシィイイイイイイイイイイイイインッ!!



 そして、このパターンは続く。


「ま、まだ抵抗するのか! しつこい奴だ 曳替ひきがえ!! 正当防衛、巴投げぇええええ!!」


バシィイイイイイイイイイイイイインッ!!


「正当防衛、肩車ぁああああああああ!!」


バシィイイイイイイイイイイイイインッ!!


「正当防衛、払い腰ぃいいいいいいッ!!」


バシィイイイイイイイイイイイイインッ!!


 これらの映像はモスキートカメラによって記録がされている。

 よって、後々の 曳替ひきがえの証言によって正当防衛が成立するようにしている 須木梨すきなしの計算なのだ。

  曳替ひきがえが事前に見せていた悪態のことを考えれば正当防衛は十分に成立するだろう。

 本当は1回目の大外刈りで戦意は喪失していたのだが、これだけでは気が収まらない 須木梨すきなしは追加の攻撃方法を考えた。

 それがこれらの茶番である。相手が襲って来ているのであれば正当防衛は成立する。不本意な追加攻撃は過剰防衛によって裁判で不利益になる可能性があるのだ。

 それらを考慮して、 曳替ひきがえが襲って来ている体裁を事前に演出しているのである。

  須木梨すきなしらしい隙の無い行動といえよう。


 しかし、 曳替ひきがえの首が取れそうなくらいグラングランしている姿に、カーシャはちょっとだけ笑顔が引き攣っていた。


「だ、大臣……。流石にもうそろそろ私の気も晴れましたよ」


「そ、そうか。学生の頃を思い出して血が騒いだよ。ははは」




 暫くして、 曳替ひきがえが気がつくと、眼前には仁王立ちをしたカーシャと 須木梨すきなしの姿が。


「ひぃいいいいいいいいいいッ!!」


「気が付いたか悪党! よくも、今まで私を騙してくれたな」


「だ、大臣、違うんです!! こ、これには訳が……」


「言い訳を考えるんじゃない! 貴様はもう逃げられん。まさか、防犯カメラを改造して、犯罪の証拠を隠滅しようとするとはな。貴様はそうやって、悪事を隠しては局の仕事をしていたんだな?」


「そ、それは……」


「まったく……。貴様の悪事を見つけられなかった自分が腹立たしいよ」


「あうぅうう……」


  須木梨すきなしはカーシャに向かって深々と頭を下げた。


須賀乃小路すがのこうじくん。すまん! こんな悪党をのさばらしてしまったのは私の職務怠慢だ。君には怖い思いをさせてしまった。本当にすまん」


「いえ。大丈夫ですよ。これから改善していけばいいですしね」


「なんて前向きな……」


「えへへ。もう終わったことですから」


  須木梨すきなし 曳替ひきがえを睨みつける。


曳替ひきがえよ。あとは警察に通報して、おまえの身柄を引き取ってもらえば終了だな」


「ひぃいいい! そ、それだけは! 警察だけは勘弁してください!! お願いします!! 警察だけはぁあああッ!!」


  曳替ひきがえは土下座をした。



────


曳替ひきがえのざまぁは続く!



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