第149話 カエル退治

  曳替ひきがえはニヤニヤと笑った。

 エラの張った四角い顔はその邪悪な笑みで歪んだ。


「あなたには1300億円を稼ぎ出す責務がある。22歳のなんの実績もないあなたがだ。ククク。 翼山車よくだしは年間500億円も稼いでいましたからねぇ。環境省の錬金術師。まぁ、私ならば、がんばれば同額を稼ぐことが可能でしょう。つまりは2年半で捻出が可能なのです」


「……それだけわかってくれていれば話が早い」


「ククク。つまりは私の力が必要ということだ。この2人きりになっているのはそういうことでしょう? ククク」


「…………」


「丁度いい機会だから、言ってしまいましょうか。ここの防犯カメラはね。私が改造して、映像をすり替えれるようにしたんです。もちろん、今はすり替えていますよ。だから、一切の証拠が残らない」


「証拠改竄……。裁判事案になった時は、完全に違法ですね」


「クハハハ! 今は違法じゃないぞ? 私物を改造しただけの話だからな。それに、このことはあなたと私しか知らない事案さ。わかるかね。局の仕事というのは、こうやって積み上げていくもんなのさ」


「グレーな仕事ですね」


「ハハハ! グレーだろうとバレなければ違法ではないのさ。それに、証拠が残らないのは良いことだぞ。なにかと便利だからねぇええ。クフフフ」


「あなたという人間がよくわかります」


「おいおい。大臣を垂らしこんだメス猫が随分とデカい口を叩くじゃないか。んん? そんな態度では私は協力せんぞ?」


「あなたの協力?」


「そうだ。クフフフ。1300億円の捻出には私の力は必要不可欠。 翼山車よくだしの錬金術は私の中で今も生きているのさ」


「人に言えないグレーな仕事をすることがですか?」


「フン。綺麗事で金が増えれば問題はないさ。そんな仕事は無能な証拠だよ。私は 翼山車よくだしよりも狡猾さ。バレなければ犯罪ではないのだよ」


「無能というより道義心の欠如かと」


「黙れメス猫。股を開くしか能のない貴様に言われたくはない」


「随分と酷い言われようですね」


「事実の提示だ。クフフ……。しかしな。私はそのメス猫の体に興味があるのだよ。罠にかかってやってもいい」


「罠?」


 カーシャは蔑むような視線を送る。


「クフフ。おまえは美しい……。黒髪のハーフエルフ。アクアマリンのような輝く瞳。透き通るような白い肌……。加えてモデルのようなスリムな体だ。テレビに出ているアイドルよりも明らかにレベルが高い。男ならば一度は抱いてみたい女さ」


「最低ですね」


「フン! 気が強いのも気に入ったぞ。おまえは最高のメス猫だ。ベッドではどんな鳴き声を聞かせてくれんだぁあ? グフフフゥウウ」


  曳替ひきがえはカーシャの腕を掴む。


「さぁ、来い!」


「やめてください!」


「クフフフ! この部屋にベッドはないがソファーでいいだろう。貴様をヒィヒィ鳴かせてやる!」


「私を犯すつもりですか?」


「ギャハハハ! バカがぁあ!! この展開でまぁだわかってないのかぁああ? 貴様だって期待してんだろうがよぉおお! 2人きりになったのはそういうことだろうがよぉおおお!!」


「バカはどっちでしょうね? 2人きりになったのはあなたの悪行を引き出すためですよ」


「クハッ! バーーーーカ! んなもん、なんの証拠も残っとらんわぁあああ!! 防犯カメラにはなにごともない局長室が映っているんだよぉおおお!! おまえの裸は私だけが堪能するのさぁああああああああ!! ギャハハハ! 加えて、この部屋は完全防音だからなぁあああああ!! 叫んだって誰も助けに来んからなぁああああ!! 観念しろぉおお!! このメス猫がぁあああああああああああああ!! ヒィーヒィー言わせてやるぅううう!! 私の肉棒でヒィーヒィー言わせてやるぅううううううううううう!!」


 カーシャは部屋の天井を指差す。


「あなたの先輩もお世話になった」


「ギャハハハハ……ハ?」


「本当にどうしようもない人たちですね」


「な、なんだと? 今、なんて言った?? それに、どこを指しているんだ?」


「モスキートカメラ」


「は!? な、なに!?」


「モスキートカメラを飛ばしていると言ったんです」


 このカメラは 翼山車よくだしが魔の国に転移した時に大活躍したのだ。


「なにぃいいい!? ど、どこだ!?」


「ここからじゃ見えませんよ。もっと近づかないと。蚊ほどの小さなドローンカメラ。画質はコウモリカメラより落ちますけどね。顔や声は本人を特定できるくらいには鮮明に映りますよ。 翼山車よくだしが魔の国に飛ばされた時、配信されていたでしょう?」


「なにぃいいい!? き、貴様ぁあああ!? 盗撮していたのかぁああああ!?」


「盗撮だなんて人聞きの悪い。証拠を押さえていると言っていただけないでしょうか?」


「ふ、ふざけるなぁああああああ!! 今直ぐに撮影をやめろぉおおおおおお!!」


「あーー無駄ですよぉ。モスキートカメラの映像は片井ダンジョン探索事務所のパソコンに飛ばされていますからね」


「な、な、な、なんだとぉおおおお!?」


 カーシャはにこやかに手を振った。


「紗代子さん観てますかーー?」


 すると、天井の一部が赤い点滅を見せる。


「あ、今の点滅見えました? 紗代子さんからの合図です。彼女のパソコンにモスキートカメラの映像が映っているんですよ」


「……さ、さ、紗代子?」


「紗代子さん……。あ、二ノ宮さんですよ。二ノ宮 紗代子。片井ダンジョン探索事務所の専務をされている女性です」


「あの女かぁああああああああああああああああああああああ!?」


 かつて、彼がオメガツリーからドロップしたSS級アイテムを騙し取ろうとして失敗したことがあった。

 それは紗代子が書類の不備を見つけたからである。

 100枚以上も法律のことが書かれた大量の情報の中から、一瞬にして見つけられてしまったのだ。

 法律の不備。

 いや、彼が仕込んだ『グレーな仕掛け』と言った方が的確だろうか。

 素人が絶対に見抜くことができない法律のトリック。

 オメガツリーが落とした3つの超激レアアイテム。その全てを騙し取ろうとした作戦。

 その弱点を一瞬にして見抜いたのが、二ノ宮 紗代子という女なのである。

 

「大人しくした方が身のためですよ。私の合図でこの動画はネットの海に放り込まれますから」


 カーシャは軽快にウインクをした。


「ね。紗代子さん」


 モスキートカメラは、『OK!』とばかりに赤く点滅するのだった。


────

ざまぁは続く!

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