第147話 真王と衣怜
俺は、
明日からはオーストラリアである。
しばらく会えないと思うと寂しさはひとしおだ。
俺は彼女の頭を優しくなでた。
そういえば、あいつはこのビルに通い詰めてんな……。
「俺の母親……。変な人だろ?」
「ふふふ。古奈美さんは優しい人だよ。色々と気を遣ってくれるしね」
「外面はいいのかもな」
「このビルに来る時はね。必ずお土産を買い込んで来てくれるの。私や会社の人に向けてね。冷淡な感じだけど、話せば気さくで感じがいいの。誠実な人なのね。だから、みんなは古奈美さんのことが大好きよ」
そういうのは計算なんだよ。
選挙で培ったスキルなのかもな。
「あの女は外面はいいんだ」
「ふふふ。内面もいいわよ」
「…………仲がいいんだな」
「大好きだもん。頼れるお姉さんって感じ。第二の紗代子さんみたいかな」
「そっか……。あいつは人を使うのが上手いからな。いいように使われるのだけは気をつけてくれよ」
一緒に暮らしていた時は、父さんと俺があいつの飯を作っていたんだからな。
「ふふふ。料理は私の方が得意だからね。この前、気を遣ってくれてね。野菜を切るのを手伝おうとしてくれたのよ。でもね。包丁の持ち方が危なかったし、全身がプルプル震えているしね。ふふふ。私がやった方が安心できるからリビングでくつろいでもらうことにしたわ」
「不器用なんだよな」
「料理は苦手みたいだね。でも、勉強はずば抜けてできるわよ。テスト勉強なんて、効率的に教えてくれるもの」
「ふーーん。なんか上手くいってんだな」
「ふふふ」
「古奈美さんね。時々、すごく悲しい顔をするんだぁ……」
「そうなのか? 無表情だと思うけどな」
「
「あの女に感情はないと思うがなぁ」
「そんなことないよ。初めて会った時もね。
「ふーーん……」
あの女がねぇ。
離婚のことを悪いと思っているのかな?
「古奈美さんは優しい人だよ。私、大好き」
「まぁ、そういってくれるとちょっと安心するわ」
「古奈美さんの優しさって
「俺と?」
「ふふふ。なんか自然体でね。底抜けに優しいの」
あの女をそんな風に見たことがなかったからな。
なんか複雑だな。
「ジーストリアの仕事……。長いのかな?」
「連絡が途絶えた探索者を見つけるだけだからな。そんなに長くなるとは思わないけど」
「寂しくないの?」
「寂しいに決まってるだろ」
「…………」
「なんだよ、その目は?」
「だってぇ……。学校には若い女の子もいるだろうしさ」
「
「じゃあ、男の子とロマンスがあるのかもね?」
「あのなぁ」
彼女は俺と口付けをした後に、その唇は這うように俺の体へと移った。
それはまるで、縄張りをアピールする生き物のように、真っ赤なキスマークをマーキングする。
「おいおい……」
「ねぇ。
と、コンドームを掴んで、
「生でやっちゃう?」
やれやれ。
「ご両親と挨拶もしてないんだぞ。そんなことできるわけがないだろ」
「んもう!
「お、おいおい! つ、強いって……」
やれやれ。
翌日。
俺がオーストラリアに出発する日だ。
同時にカーシャが探索局の局長に就任する日でもある。
よりにもよって、そんな日にって感じだがな。
朝10時。
片井ビルには黒いセダンが停車した。
そのガラスは防弾で特殊仕様。
防衛省の専用車だ。
後部座席には鎧塚防衛大臣。
見送りに出ていた片井ビルの面々にも顔馴染みである。
俺はその車に乗って空港に向かうのだった。
ああ、もちろん、その姿は
男のままだったらと思うと、ゾッとするよ。
なにせ、俺の全身は
☆
ーーダンジョン探索局ーー
この日。
局長室の椅子に座っていたのは次長の
「クハハ!! 今日は私の就任式。環境省はゴタついていて辞令が遅れているけれど、まぁ、当日ということもあるでしょうからね」
環境省のゴタつきとは、横島建設グループの件である。
大和総理と
そのことを
局長の机に両足をどかっと乗せる。
エラの張った四角い顔はニヤリと笑った。
「クフフ。今日は最高の日ですよ」
彼はパチンと指を鳴らした。
すると、室内に設置された防犯カメラのレンズの色が変わる。
「クフフフ。これで、防犯カメラの映像はすり替わった。音声も映像もダミーを記録することになる」
彼はニヤリと笑うと秘書のディネルアを呼んだ。
「おい。スカートの丈を上げろ」
「どういうことでしょうか?」
「こ、これは次長命令だぞ。グフフフ。まぁ、今日からは局長だがな」
「腰上に引き上げるということでしょうか?」
「そ、そうだ……。グフフ」
「……何センチくらい上げるのでしょうか?」
「こ、この部屋に入る時は膝上25センチを心がけろ。いいな?」
ディネルアは目を細めながらもスカートの丈を上げた。
膝上25センチといえば中々の短さである。
もう、その姿は公務員ではないだろう。さしずめ水商売のキャバ嬢である。
「グハハハハ! あ、安心しろぉおお。防犯カメラには細工がしてあるんだ。グフフフフ。おまえの太ももがカメラに映ることはない」
「おっとぉおお。ペンを落としてしまったぞ。すまんが拾ってくれんかね?」
「…………」
ミニスカートで体をかがめれば下着が見えてしまう。
ディネルアはただ目を細めるだけ。
「拾え、と言ってるのが聞こえんのか? んん? 次長命令……。いや……。グフフフ。局長命令だぞ」
ディネルアはゆっくりと体をかがめた。
「デュフフフフ……」
(さ、最高だぁあああ……。私は王様。この局内では最高の権力者なのだぁあああああ!! 今日から天国が始まる!! 私の時代が始まるんだぁあああああああ!!)
突然、バタンと扉が開く。
「お、おまえは……。たしか、去年に解雇された
彼女はディネルアのスカートの短さにすぐに気がついた。
「……次長こそ。どうして局長室に?」
「そんなこと、部外者の君に言われたくないがね。まぁ、いいだろう。今日は気分がいい。教えてやろう。今日から私が局長になるのさ!」
「……それは初耳ですね」
「クハハハ! 当然だろう。人事は社外秘。部外者の君に情報がいくわけはないだろう」
「部外者……」
カーシャは冷ややかに笑った。
当然だろう。
なにせ、今日はカーシャが局長に就任する日なのだから。
────
次回から、ざまぁがはじまります。
お楽しみに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます