第144話 鉄壁さんと総理のお食事会


〜〜片井視点〜〜


 俺は総理にことの顛末を話した。

 謎の監査官ギーベイクが 元老院セナトゥスの代表として俺を誘いにきたこと。

 その後に、 光永みつながさんが 静寂の森サイレントフォレストのメンバーに俺を勧誘しにきたこと。


 これらの団体は都市伝説レベルの秘密組織だ。

 しかし、総理は当たり前のように話しを聞いていた。


 特に、 静寂の森サイレントフォレストとは政府と連携をとっているようだ。

 この団体が持っている特別な権限は政府の認可を受けているらしい。

 暗奏のような強力なダンジョンが出現すると、率先して駆除に当たるのがこの団体なんだ。

 政府としては大助かりだろう。

 なにせ、自然災害を安全に処置してくれるプロフェッショナル団体なんだからな。

 特別な権限を与えて自由にさせているのも頷けるよ。


 ただ、リーダーの 光永みつながさんは正義感の強い男だからな。

  翼山車よくだし 座古井ざこいを使っていた大和内閣を憎んでいるんだ。

 大和総理のことは認めているみたいだけど、断片的な政策にはどうしても納得がいかないらしい。 翼山車よくだしが局長を務めていたこととかね。

 

光永みつながが片井殿を……。これも当然の流れか……」


「総理は以前から、 光永みつながさんの考えは知っていたのですか?」


「うむ。奴は正義感の強い男だからな。私の政策には良い顔を見せないこともしばしばさ。特に環境大臣の 須木梨すきなしとはまったく馬が合わん。2人を会わせたら、睨み合いだけで周囲が火事になるほどさ」


 それは怖いな……。


「嫌いじゃないんだがな……。 光永みつながはことを急ぎすぎる」


 これは政治的になにかあった感じだな。


「もしかして……。総理は 光永みつながさんを内閣府に取り込もうとした、とか?」


「……昔、ちょっとな。……色々あったんだ。まぁ、私は嫌われてしまったがね」

 

 苦い思い出のようだな。

  光永みつながさんは総理を憎んでいるようだしな。

 組織としての繋がりはあってもそれ以上の関係は作らないのか。

 そういえば、総理が開催するイベントには 光永みつながさんは来なかったな。

 そういう関係があったからなのか。


「それで片井殿は……。そのぅ……。サ、 静寂の森サイレントフォレストのことはどう思うのだ?」


 煮え切らない聞き方だな。

 

「俺が入会するか、気になります?」


「そ、そうだ……」


「…………」


「…………」


 えーーと。

 特に入会するつもりはないんだがな。

 やっぱり、総理としても入って欲しくないよな。

  光永みつながさんはいわば敵対組織だし。

 表向きは協力しあっていても、リーダー同士で敵対していたんじゃあ、どこでぶつかるかはわからないよな。


 などと、色々なことを考えていると、総理は全身から汗をダラダラと流し始めていた。


 ああ、返答してあげなきゃな。


「入りませんよ」


「プハーーーー!! 息がつまったぁあああああああああ!!」


「なにをそんなに?」


「か、片井殿も人が悪い……。窒息死するかと思ったよ。それにても……ああ、良かったぁあ……」


 と、胸を撫でおろす。


「そんなに入って欲しくないのなら止めればいいのでは?」


「こ、こればかりはな。たとえ、総理でもどうにもならんよ」


「俺が 静寂の森サイレントフォレストに入ることがですか?」


「そうだ。あなたの意思は私の管轄外さ。これは善悪ではない。個人が抱く信念の問題だからな」


 ふむ。

 信念とは人の生き方だからな。

 総理は個人の信念を大切にしてくれる人なんだな……。

 一方、 光永みつながさんだけど……。


 強者は弱者を助けるもの。

 悪のいない世界が正解。

 この信念に反するものは全て敵。


 こんな考え方だろう。

 揺るがない信念があって、それを邪魔する者は完全に排除する。

 そんな恐ろしい考えだ。


 個人の信念を尊重する総理とは真逆の存在。

 水と油だな。


 総理は悲しそうにため息を吐いた。


「この世界は邪悪だ。……古くは18世紀。イギリスで産業革命が起こったことから始まる。資本主義が蔓延して、みんなの暮らしは確実によくなったが、 翼山車よくだしや横島のような悪がのさばる世界になってしまった。資本を持った強者は貧困層を食い物にする。ダンジョンが生まれるこの世界でもその傾向は顕著だ。 光永みつながはそれが許せないのさ」


 まぁ、気持ちはわからんでもないな。

 たしか、イギリスの産業革命の発端になったのは蒸気機関車だったか。

 石炭の利用によるエネルギー革命だよな。


 ダンジョンが生まれた現代ではダンジョンテクノロジーが盛んだ。

 ここでも、資本を持った人間が絶対的に有利。

  翼山車よくだしや横島みたいな奴がゴロゴロいるよな。


「そんな中、エルフの村を作ったのは片井殿だ」


「まぁ……。別に功績ってほどでもないですけどね。エルフたちが困っていたから作っただけですよ」


「ふふふ。あなたは本気でそれを言っている。 光永みつながは震えただろうさ」


 震えた?


「なんで?」


「自分の上に立てるリーダーを見つけたからさ」


「俺がぁあ?」


「そうだ」


 そういえば、そんなことを言っていたな。

  静寂の森サイレントフォレストのリーダーを俺に託したいって……。


「エルフの村は 光永みつながにとっては理想郷だろう。上下関係は極端に少ない。平和な国。そこには犯罪はなく、みんなが助け合って生きている」


「ふぅむ……。まぁ、エルフが平和主義だからでは? 人間はそうはいかないと思いますけどね」


「ふふふ。そうかもしれんな。だが、 光永みつながでは作れない理想郷さ」


「ああ……」

 

 あの人は不器用そうだもんな。

 みんなは怖がってついてこないよ。


光永みつながは自分の中の暴力性に気がついている。力で支配できても優しさで人を動かすことはできん。だから、片井殿には相当な魅力を感じているのさ」


「俺……。そっちの趣味はないんですけどね」


「ははは。そのうち求婚されるかもしれんぞ」


「やめてくださいよ……」


 ただでさえ、 光永みつながさんは 真王子まおこがお気に入りなんだからさ。


密偵腕輪スパイバングルの話はしたのか?」


「いえ。そこまでは」


 地上でスキルが使えるなんて、めったな話はできないよな。


「隠した方がいい。彼にとっては、今、もっとも欲しいアイテムかもしれない」


 ……たしかに。

 地上でスキルが使えるならば、国家転覆も容易だ。


「気をつけます」


「うむ」


 まぁ、 真王子まおこの件もあるしな。

  光永みつながさんには、永遠に知らないでおいてもらおうか。


 総理は酒をくいっと飲んでから、ニンマリと笑った。


「しかし意外だったなぁ……。あの 光永みつながが片井殿の魅力に気がつくとは」



────

次回も総理と片井の食事は続きます。

そして、話しは深まって……。

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