第143話 真っ当な政治 【横島の最期】

  須木梨すきなし環境大臣は絶賛した。


「あの方はすごいよ。若いのに実力があって……。そしてなにより人の心に寄り添える優しい男だ」


「か、か、片井社長が……。な、なにを?」


「西園寺社長を紹介してくれたのですよ」


「さ、西園寺不動産の女社長か!?」


「ええ。綺麗で聡明な人ですよね。もちろん、以前から彼女と環境省は関係がありましたけどね。政治的な付き合いはほとんどなかった」


「と、当然だ。西園寺グループは我が社のライバル。環境省の仕事なんかを私が回させはしない。し、しかし、あの女は政治的活動には消極的だ。政治献金なんて、やるはずがない!」


「片井社長は本当に優しい男だ。困っている総理を助けようとしてね。わざわざ気を回してくれたのですよ。西園寺社長は片井社長の言うことなら全面的に協力してくれる姿勢でね。だから、片井社長が推せば、直ぐにでも協力してくれることになったのですよ」


「な、なんだとぉ!?」


「お陰様でね。西園寺グループは大和内閣を応援してくれることになりましたよ。もちろん、正規の手続きを踏んでですよ。決して、あなたのように怪しいルートは使わない。だから、年間1億円の政治献金は補填することができたんです。でも選挙票は確保できなかった。でもね。総理と納得したのですよ。資金さえあれば選挙活動は可能です。地道な活動で、有権者にわかってもらおうって。それが正しい政治活動だってね。私は、真っ当な政治家の道を歩むことに決めたんですよ」


「そ、そ、そんなぁ……」


「ですからね。環境省としても、今後は横島社長との付き合いを厳格にさせていただくつもりです」


「な、なにぃいいいい!?」


「当然でしょう。あんなことがあったのですからね。互いのギブアンドテイクは崩壊したんですよ」


「そ、そんな!? で、では、横島建設グループが優遇されていた案件は!?」


「全て白紙ですね。それどころか、今後は西園寺グループが面倒を見てくれるようですから、そちらに仕事が回りますよ」


「そ、そんな! それは困ります!!」


「はぁ?」


「最近、とんでもない赤字が出ておるのです!! それを回収するためにも環境省に見捨てられては仕事にならない!!」


 その赤字とは、片井との一件で生まれたイベントのキャンセル料金と、被害者女性への和解金である。


須木梨すきなし大臣! どうか、考え直して欲しい!!」


「お帰りください」


「どうか! どうかぁああ!!」


 と、膝を床につけ、


ゴン!!


 激しく額を打ちつけた。





「どうか、どうかお許しください!!」





  須木梨すきなしは眉を少しだけ動かした。

 そして、面倒くさそうに大きくため息を吐く。






「あなたの土下座は、ダニの死骸以下の価値もありません。お引き取りを」






 環境省に横島社長の叫び声が響いた。

 それは人生に絶望した、悲痛の叫び声だったという。


 後に。

 横島建設グループはこの日をきっかけに売り上げを激減させた。グループの株価は大暴落。耐震偽装をはじめ、違法建築が次々に発覚。倒産の危機に陥った。


 横島社長は、片井からの裁判は逃れたものの被害者女性陣に訴えられてしまう。

 どうやら、和解金の示談が成立しない案件が数件あったようだ。

 片井の事情聴取をきっかけに、被害者女性の心情に火がついてしまったらしい。

 発火した恨みの炎は消えることがなく、社長の暴力事件は大々的にニュースで報道されて、その裁判は敗訴が確定した。

 20年続いた社長は定年を前にして解職。新しい社長が就任したという。

 



 そして、カーシャが局長に就任する前日。

 大和総理は片井を食事に誘っていた。


「片井殿。今回の件は本当にありがとう! またしても、あなたに助けられてしまった」


「別に……。俺は大したことはしてませんよ」

(横島社長と電話して、総理に西園寺社長を引き合わせたくらいだからな。本当に大したことじゃないんだ)


「いやいや。全ては片井殿の力があってこそだよ。本当にありがとう」


 と、大和は深々と頭を下げる。


「喜んでくれるなら俺も嬉しいです。それに、こんなにも豪華な料亭で飯が食えてラッキーですよ」


「こんなことは当然さ」


「ははは。動いた甲斐がありましたね」


「あなたには、もっともっとお礼をしなければならない」


「あーー。気にしないでください。美味い飯をご馳走してくれてるだけで十分ですからね。それより、カーシャのことを頼みますよ。一応、俺の元部下なんで」


「うむ。もちろんだよ。カーシャは責任を持って私たちで守る。 須木梨すきなしなんて、自分の娘のように思っているんだからな」


「へぇ。隙のない男にも弱点はあったんですね」

(違法アップロードの視聴以外にも……)


「カーシャの純粋な心が 須木梨すきなしを改心させたのさ。私だって目が覚めた」


「総理も?」


「政治は複雑でね。 翼山車よくだしや、横島みたいな人間と親密にならなければやっていけないんだよ。でも、必ず、報いは受ける。今回は如実に現れたんだな。報いが帰って来てしまった。結局、 須木梨すきなしと寝ずの仕事を1週間もやってしまったよ。ははは。情けない」


「そんなことないですよ。部下の失態を上司も一緒になって取り戻すなんて、なかなかできるもんじゃないですよ。俺も見直さなきゃなって」


「くははは……。照れるではないか! ささ、片井殿。飲んでくだされ」


「ああ、ども」


 2人の話しは深まる。


「時に片井殿。私のことは忍びの者から聞いたのかな?」


「ええ。探るつもりはなかったのですが、忍びの者は総理の忍軍とも繋がっているので、情報が入ってくるのです」


「うむ。主人を助けようとするのもまた忍びよ。みやびの活躍に助けられたな」


「そういえばそうかも。彼女が教えてくれなかったら俺は知らない事実でしたからね」


「うむ。……こちらの忍びもな。片井殿の動きには敏感なのだ」


「へぇ」


「…… 光永みつながが接触してきたんだろう?」


 片井は眉をピクリと動かした。

 S級探索者 光永みつなが

 彼は日本政府を敵対視する 静寂の森サイレントフォレストのリーダーである。

 片井はそんな組織から勧誘を受けていたのだ。


「…… 光永みつながさんは俺の力が欲しいようです」


「どんな話をしたんだ? もちろん、言える範囲で結構だが……」


「俺と総理の仲だ。全部、話しますよ」


────

他のキャラになりますが、ざまぁはまだありますからね。

お楽しみに!

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