第139話 横島社長の自業自得
S級探索者の
「社長。出所者の再犯率が50%だというのを知っていますか?」
「そ、そんなこと! 今はどうでもいいわい!」
「まぁ、そう言わずに聞いてください。刑務所から出ても2人に1人は犯罪を犯すんです。これでは悪は減らない。だから、出所者を受け入れる環境が必要なんですよ」
「どうでもいいと言っているだろうが!!」
「いいえ。こうなっているのはあなたのような資本家が貧困層を利用するから起こることなのですよ。元局長の
「なんのことだ!?」
「理想は利益の分配です。今回のイベント、焼きそばが1杯50円ですよ。その他、お好み焼き、たこ焼きも格安で提供する。提供の鉄壁財団が良質の野菜をただ同然の値段で回してくれるから実現するのです。だから、味は抜群に旨い。安くて旨いなら客は集まる」
「私には関係のないことだ!」
「くわえて、プロレスや格闘技のイベント、イレコの配信トークショウも開催される。子供から大人まで。老若男女が楽しめるイベントになっているんです。しかも、その利益は出所者の支援団体に全て寄付される。再犯がなくなれば国内の治安がよくなる。つまり、このイベントの効果は国民全員に還元がされるんですよ」
「だ、だから、なんだというのだね! 私はビジネスをやっているのだビジネスをぉおおお!! 慈善事業じゃないんだよぉおおお!!」
社長は足早にその場所を立ち去った。
そして、電話をかける。
その先はもちろん……。
「はい。片井ダンジョン探索事務所。専務の二ノ宮です」
「社長を出せ! 片井社長をぉおおおおおおお!!」
「従来ならば、お客様が弊社の社長と直接話すことは、条件が整わないかぎり不可能なのですが、今回は片井社長の許可が出ましたので、お繋ぎいたします」
片井が電話に代わるなり、横島社長の怒号が響いた。
「社長ぉおおおお! これはどういうことなのですかぁあああああ!?」
「なんのことでしょう?」
「しらばっくれてんじゃあああないんですよぉおおお!! ジ・エルフィーのイベントのことです!!」
「ああ」
「ひゃ、100億ですよ! 経済効果は100億円と予想されているのです!! そ、そんなイベントが無くなっているんですよぉおおおおおお!?」
「キャンセルしました」
「キャ、キャ、キャ、キャンセルゥウウウウ!? ど、ど、ど、どうしてぇえええ!? なぜですかぁああ!? 理由を説明してください!!」
片井は呆れたように鼻で嘆息。
「
「……ああ、今度、探索局の局長に就任する若い女性でしょう」
「彼女は、俺の元部下だ」
横島は、はっとしたように息を呑んだ。
「え、ええ……。も、もちろん、知っていますよぉ。り、履歴書を見ましたからね……。そ、それがなにか?」
「よくない噂を聞きましてね」
「よ、よ、よくない噂ぁ? い、一体なんのことでしょうか?」
「カーシャを睡眠薬で眠らして、暴力を振るおうとしていたことです」
「な、な、なんですか、その噂はぁあああああ!? な、な、なんの根拠があってそのようなことを言うのですかぁあああ!? そ、その女から被害の告発でも受けたのですかぁああ!?」
「いえ。あくまでも噂です」
「噂だけで、なんて失礼なことを!! これは完全に侮辱罪ですぞ!! 裁判事案だ!!」
「別に2人だけの会話で侮辱罪もなにもないでしょう。特にあなたのことを公然と名指ししたわけじゃあありませんからね」
侮辱罪は相手の社会的地位を落とした時に成立する。
よって、2人だけの会話の場合はそれに該当しないのだ。
「ぐぬぅうう。と、とにかく! あらぬ噂は口にしないことだ! 不愉快だよ!!」
「あらぬ噂ねぇ……」
「しょ、証拠でも握っているのかね!! ふざけるんじゃないよ!!」
「証拠ならありますね」
「なにぃいいいいい!?」
「俺の部下は優秀なんです。少し調べたんですがね。あっという間に20人の被害者女性を見つけることができましたよ。時間をかければもっと見つかるかもしれませんね」
「ぬぐぅううううッ!! ざ、戯言をぉおお!! しょ、証拠がとれたのかね!?」
「ええ。その内、5人の女性はあなたから強姦されたと相談してきました。どうやら受け取った示談金では満足していないようですね」
片井は既に証拠は握っていた。
5人の被害者女性は横島に睡眠薬をもられ、その体を
「なにぃいいい!? こっちは300万円も払ってやったんだぞ!! 1回寝るだけで300万だぞぉおお!! この恩知らずがぁああああああ!!」
「いやいや。犯罪をしておいて恩知らずはないでしょう。あなたの価値観、どうなってるんですか?」
「ふ、ふざけるな!! そ、それと、カーシャの件は別だぁあ!! こっちは、彼女には一切手を出していないんだからな!! 違法でもなんでもないわぁああああああ!!」
「ええ。確かに……。でも、出そうとしたでしょ?」
この言葉に、社長は唾を飲み込んだ。
片井の落ち着いた口調が、心の底に押し殺していた恐怖心を呼び起こす。
「ご、ご、誤解ですよ。へへへへ……」
「ふむ……。それとあなた。大和総理を攻撃しているようですね?」
「うぐぅううう……!!」
横島は更に汗を流す。
「な、な、なんのことですかな? は、ははは……」
「隠したって無駄です。俺の部下は優秀ですからね。公表されていない情報だって把握しているんです」
「……だ、だったらなんだというんだね? 総理と私の関係は片井社長には関係のないことでしょうが!」
「そんなことはない。なぜなら、総理は俺の友人だからだ」
「なにぃいいいいいいいいいいいい!?」
電話越しに聞こえる片井の声はワントーン暗くなった。
それは、横島にとって、とんでもない重圧に感じられたことだろう。
それこそ、絶望的な決定打。
「俺の大切な元部下を襲おうとしたあげく、友人である大和総理を攻撃しているのか……。これは見過ごせないな」
横島は全身の血の気が引く。
イベントが急にキャンセルされたことの違和感。
その辻褄が合った瞬間である。
思わず、「ひぃいいい!」と言ってしまうのだった。
────
次回!
追い詰めますよぉおおお。
ざまぁは続く!
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