第138話 横島社長の違和感

 横島社長はイベントの視察に来ていた。


 鞄持ちは説明する。


「今回のイベントは人気配信者ジ・エルフィーの歌とダンスがメインです。メイン提供は当社、横島建設。イベントの目的は20代から30代の若い世代に家を買うことを訴えかけることです」


「ふむ。ジ・エルフィーといえば褐色肌のエルフの美少女姉妹だな」


「はい。今や、チャンネル登録者は1千万人! 国内でもトップクラスの超人気配信者でございます」


「元請けは鉄壁さんを抱える片井ダンジョン探索事務所だろう? 彼にはオファーは出せなかったのかね」


「イベントで少しだけ顔を出すかもしれないとのことです。ジ・エルフィーのプロデューサーを兼任してるそうですよ。まぁ、彼は顔出しがNGですからね。イベントには不向きの人材です」


「でもチャンネル登録者数は国内一だろ?」


「はい。今や、1億人です。国内で敵う者はおりません。今回のオファーも粘りに粘って勝ち取った契約なのです。イベントの経済効果は100億円に届くと予想されます」


「ほぉ。ダンスイベントで100億とは凄まじいじゃないか」


「ふふふ。並のアイドルグループじゃあこうはなりませんよ。ジ・エルフィーのイベントだからというのはもちろんのこと。日本を救った英雄である鉄壁さんが絡んでいますからね。彼に会えるかもしれない、という期待だけでも動員数を伸ばすことが可能なのでございますよ」


「イベントは3日間だよな?」


「はい。たった3日で100億の経済効果です。ジ・エルフィーのポスターは大人気。その広告の影響で売り上げは急増。現在、横島建設が手掛ける不動産は売れに売れまくっております」


「ふぅむ。これは最高の金蔓だな」


「ええ、本当に。ジ・エルフィーには専属契約の話を持ちかけているのですが、なかなか許可をいただけません」


「なんとしても成立させろ。弱みを握って会社を吸収するのが理想だろう」


「はい。当社の傘下に入れば、サラリーで仕事をさせることが可能でございます。月50万くらいでこき使ってやりましょう」


「グフフ。それが理想だな。安い賃金で億を稼ぐ。それこそが経営者だよ」


 横島社長はイベント会場に到着した。

 

 突如として感じる凄まじい違和感。


 そこにはジ・エルフィーの看板はなく、ポスターにはイレコの笑顔が映っていた。


「な、なんだ? ジ・エルフィーじゃないぞ? 彼女は……。鉄壁さんの相棒だよな?」


「はい。人気コスプレイヤーのイレコちゃんですね。まぁ、彼女も人気配信者ですが……」


「ふぅむ。美少女で爆乳だからな。グフフ。私は好きだがね」


「し、しかし妙ですね。今回は彼女の登場はなかったはず……」


「オファーは出したのかね?」


「も、もちろんです! イレコちゃんもこの国を救った英雄ですからね。個人配信はチャンネル登録者1500万人ですよ。ヅイッターは700万人のスーパーインフルエンサーです!」


「だったら、御の字じゃないか。ぐふふ。なんなら私はイレコ推しだがね」


「し、しかし……。断られたんですよ。片井ダンジョン探索事務所には毎月5千件以上の依頼が殺到しているそうです。なので、配信者の仕事は分散しないといけません。今回だって、ジ・エルフィーの契約を勝ち取るのにどれだけ苦労したか」


「ふふふ。向こうも気を回してくれたのだろう。ジ・エルフィーだけならまだしも、イレコちゃんまでつけてくれるとは最高ではないか。こりゃあ経済効果は200億に到達するんじゃないか? ぐはははは」


「は、はぁ……」


 鞄持ちの違和感をよそに、会場の入り口に向かう。

 その違和感の正体が明確化する。


 入り口には、見たこともない看板がデカデカと飾られていた。



『出所者の再出発祭! ゴーリスタート!!』


 

 それは刑務所から出所した人物が社会復帰ができるように協力するチャリティーイベントだった。

 その提供は、有限会社静かな森。

 これはS級探索者の 光永みつなががリーダーを務める秘密結社 静寂の森サイレントフォレストの表向きの会社である。

 よって、社長は 光永みつながが務める。

 

 このイベントの提供にはもう一つ。

 それは鉄壁財団だった。


 ここはエルフの村が中心のエルフだけで構成された、鉄壁さんの支援団体である。


 横島社長は汗を飛散させた。

 明らかに、当初予定していたイベントと違ったからである。


「なぜだ!? どうして!? 我が社のイベントが消えているんだぁあああああ!?」


 彼の問いに答えたのは 光永みつながだった。


「これはこれは。横島社長。よくぞお越しくださいました。私はS級探索者、 光永みつながです」


「あ、あなたのことはテレビで観て知っている。有名な探索者だ。しかし、これはどういうことですか? ここのイベントは私の会社がやっているはずですよ?」


「懇意にしている片井社長がね。この場所を譲ってくれたのですよ」


「なにぃいいいいいいいいいいい!? どうしてぇえええええ!? 今日からイベントの準備だったのにぃいい!?」


「はぁ……。そちらのことはわかりませんね」


「そ、そもそも、なんですか、このイベントは!?」


「出所者を応援するチャリティーイベントですよ。片井社長が色々と提案をくれましてね。あの人は凄まじい才能の持ち主ですよ。人を集める天才だ」


「チャ……。チャリティーイベント……?」


「ええ。売り上げは全て、出所者の支援団体に寄付される仕組みです」


「そ、そんな……。どういうことだ?」



────

次回。

横島にざまぁが!


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