第134話 須木梨の正義
カーシャのテストが合格して、その就任を周知させる行動が始まっていた。
これは任命責任のある環境大臣、
彼女を抜きにして、彼だけが関係者に事情を伝えるというわけだ。
もちろん、非公開の行動である。
そこには政治的な関係が大きく絡んでいた。
ある料亭の1室にて──。
〜〜
「ガハハハ!
と、大きな腹を揺らすのは、ちょび髭が印象的な横島建設の社長である。
彼とは懇意にさせてもらっている。
横島グループからは年間1億円以上もの政治献金を受け、与党に関する選挙票は1万票の応援だ。
これだけで、政治家なら、誰しもが大事にしなければならない存在である。
当然。
建設業界とダンジョン探索局は親密な関係なのだ。
横島社長は
「経歴は申し分ありませんな。大学を主席で卒業……。頭脳明晰……。
「はい。素晴らしい公務を務めてくれると実感しております」
「ふぅむ……」
社長は顔を近づけた。
「
「……はい。もちろんです」
「頭が良いだとか、仕事が早いだとか、丁寧な仕事をするだとか、ミスが少ないだとか、そんなことはノミの糞ほどの価値しかないのだよ」
「はい」
「大切なのはギブアンドテイクだ。なにを与え、与えられるか。それが実績ということだよなぁ?」
「おっしゃるとおりでございます」
「……で、この小娘にどんな実績があるのだね?」
「今後……。明らかになっていくと思われます」
「思われますぅ?」
そう言うと、更に顔を近づけた。
う……、く、臭い。
口の中からヘドロのような臭いがする。
「……おいぉおい。まさか、私を舐めているんじゃないだろうねぇ、
「いえ。決してそんなつもりはありません」
「横島グループは1億円以上もの政治献金を送り、選挙では1万票も応援しているんだ。これはギブだ! わかるかぁああ? あああああん?」
「はい。おっしゃるとおりでございます」
「大和総理が伸び伸びと政治ができるのは誰のお陰かねぇ? ああん?」
「横島社長の応援があってこそです」
「そうだろう。そうだろう。つまり私のギブだよねぇえ?」
「はい」
「そのテイクが、不確定だとぉおお? 『思われます』とはどういうことだぁあああ? じゃあなにか? テイクがゼロという可能性もあるということかねぇええええ?」
「い、いえいえ。決してそんなことは……ありません」
「事実、そうなっているじゃあないか。テイクがゼロである可能性を私に容認しろといっているのだぞ? 22歳の小娘が、局長に就任したとして、失敗して、我がグループに損失が生まれたらどうする? ん? どうするつもりだぁああああああああああああ?」
「わ、私が責任を取るつもりです」
「首でも括るのかね?」
「…………」
「言っておくがなぁ、
ぐぬぅうううううううっ!
このクソ野郎がぁあ……。
……許せない。
私だけならまだしも、愛する家族の命までも例題にあげるなんて……。
今すぐ殴ってやりたい……がダメだ。
ここは冷静に……落ち着け私。
「なにをテイクすれば認めてくれるでしょうか?」
「ふふふ。わかってきたじゃないか
……このクズ野郎が。
貴様の笑いを見てるだけで反吐が出る。
「この……。カーシャとかいう女。種族はハーフエルフか」
「はい。父方が九州地方の公家の一族のようです」
「ふぅむ。良家の娘か」
「本人はハーフということで色々とあったようですね」
「ぐふふふ……。エルフはいいぞぉ……。
「いえ……。私はそういった話題には……」
「ははは! 妻一筋かい? 君は本当に変わっているよ。性的な接待は全くといっていいほどしないんだ。政界でも、君の愛妻振りは有名だよな!」
「も、もうしわけありません。こ、これだけはどうしても……」
「ははは。まぁいいさ。テイクさえあれば問題ないんだからな」
「恐縮です」
「エルフはいいぞぉ〜〜。透き通る肌でな。人間の女なんて比べものにならんくらいにスベスベなんだ。胸の脂肪は柔らかくてな。顔を埋めれば弾力のある肉壁が頬を包み込むんだ。ボヨヨンとな。グフフ。想像するだけでヨダレが止まらんわい。加えて純粋でな。性格がスレていないんだよ。やれ女の尊厳だ、権利だと、くだらんことは言わんしな。最高の存在なのだよ」
「はぁ……」
そういえば、
缶コーヒーなんかお守りにしてさ。変わったところがあったよ。
しかも、天使みたいに笑うんだ。あの純粋な笑みは現代離れしてるかもしれない。
「
嫌な予感がするな。
釘を刺しておこうか。
「か、彼女は局長です。秘書ではありません」
「わかっておるよ。でも、政治の勉強は必要だろう?」
「え?」
べ、勉強だと!?
「
「えええええ!?」
社長は目を細めた。
「君が今できるテイクの話だよ。簡単だろ?」
「し、しかし社長!
「当然だろう。あんな肉の塊と勉強会をしたって、私になんのメリットがあるのだね。若い女に政治の勉強を教えるのは必要なことだからね。デュフフフ……」
政治の勉強だとぉ?
そのままの言葉を受け取れば、それは本当に素晴らしいことだろうがな。
勉強とは熟練者が初心者を教育するという意味だ……。
し、しかし、この言葉の真意は……。
「場所はそうだなぁ。落ち着いた料亭がいいな。……横には寝室が完備されたな」
やっぱり!!
こいつの目的は
「グフフフ。朝まで2人っきりで、私が政治の厳しさを教え込んでやるわい。ジュビィイイイ。ああ、ヨダレが止まらんわい。グフフフフフフゥ」
き、聞いたことがあるぞ。
社長が睡眠薬を使う噂を……。
眠った女を無理やり犯す。
女と揉めた場合は数百万を握らせて示談にするんだ。
対岸の火事だと思って触れずにいたが、この黒い噂は信憑性が高い。
このままだと、こいつに襲われてしまう。
し、しかし……。
横島社長と揉めるのは絶対にまずい。
年間1億円の政治献金と1万票の選挙票。
これは大和内閣にとっても絶対に必要なものなんだ。
今はテイクが必要だ。
それは
彼女がこの先、公務をやっていく上で、必ず乗り越えなければならない試練だ。
彼女の美貌ならば、何度もやってくるだろう、悪魔の誘い。
これは回避不可能な事案なんだ!
い、いわゆる、必然性のある枕営業……。
い、いや、まだそうと決まったわけじゃない。
想像だけで不貞行為を断定するんじゃあない。
そうさ。
これは彼女と社長、2人だけの話じゃないか。
私は関係ないさ。
私は場所をセッティングするだけ。
これは、正しい政治家のあり方さ。
国民のため、愛する家族のために働いている立派な人間だ。
私は清廉潔白だ。
神にだって誓えるぞ。
私は正しい行いをしている!!
「デュフフフゥ……。
わ、私は関係がないぞ。
私は関係がないんだ。
「ジュルル……。おい。この料亭は禁煙なのかね? ヨダレをかきすぎて一服したくなったわい」
社長のカバン持ちは恐縮する。
「どうやら喫煙室があるようですね。そこで吸うルールみたいです」
「クソだな! この国は狂っとるよ。おい、吸い殻入れはあるか?」
「申し訳ありません……。えーーと、あ……! さっき飲んだ缶コーヒの空き缶ならありますよ!」
「まぁ、それでいいだろう。吸い殻さえ落とさなければマナーのいい客だろうよ。グフフ」
そういって、禁煙の部屋でタバコをプカプカと吸い始めた。
「
「は、はぁ……」
ダメだ。
喫煙のことより、
「……でぇ、
「は、はぁ………………」
「で、できるだけ早く頼むよ。私の股間は爆発しそうなんだからなぁああ。ジュビルルル……。グホォオオ! またヨダレが出てきたわい」
わ、私は関係がないぞ。
2人の話だ。
私は悪くない。
私は絶対に悪くないんだからな。
社長は吸い殻を缶コーヒーの空き缶の中に入れた。
「
空き缶か……。
そういえば、
彼女は私を信じ切っている。
私は愛妻家で、真面目な人間だ。
だから、私の言葉なら、彼女はなんの疑いも抱かないだろう。
きっと、公務の一環だと思ってくれるに違いない。
その上で、
『ええ。いいですよ。横島社長とお会いするのは、いつ頃になるでしょうか?』
彼女ならそういうはずだ。
笑顔で気持ちよく。私の要求を受け入れてくれるだろう。
で、でも……。
この話を進めたら……。
彼女は睡眠薬で眠らされて……。
「グフフフ。
私の頭の中は真っ白になって、その視界には缶コーヒーの空き缶だけになっていた。
すると、1秒ぐらいだろうか。
ほんのわずかな時間だけ記憶が飛んだ。
その瞬間に私は勢いよく立ち上がっていたのだ。
体が勝手に動いたのである。
どうして?
なぜ、私は立ち上がっているんだ!?
その疑問の正解に辿り着くこともなく、私は大声で叫んでいた。
「そんなことはできない!!」
場は一瞬にして空気が変わった。
横島社長は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で、
「す、
ああああああああああああああああああああ!!
本当にどうした私ぃいいいいいいいいいいい!?
なんでこんなことを言ってしまったんだぁああああああああああ!?
────
次回!
超、ご期待ください!!
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