第133話 光永は片井を勧誘したい【後編】
「俺はS級探索者として
「へぇ……」
そんな思惑が。
「
大和総理と同じだ……。
で、結局、悪行の尻尾を掴めずにいたんだよな。
「この2人に制裁を加えたのはおまえだ。片井」
「まぁ……。成り行き上ですが……」
「おまえはこの国を変える力を持っている」
「んな、大袈裟な!」
「いや。これは事実だ。最強のダンジョン、暗奏を攻略し、
「いやいやいや。だから、成り行きですって。別にそうしたいからやったんじゃないですって!」
「恐龍会を黙らせたんだろ? ピクシーラバーズを10億で落札したのはおまえにしかできん芸当だよ。あいつらに敵対すれば100億でも譲ってくれない物件だ」
暴力団のこと……なんで知ってるんだ!?
それも
中々に強力だな……。
「片井……。おまえはすごい男だよ」
「あ、あのですねぇ! 俺は庶民派なんですよぉ。牛松屋の並み盛りセットが食えて、牛皿を頼んで、ビールで晩酌ができれば、もうそれで1日がハッピーなんですって!」
「だから?」
「俺は小さい男なんですよ。こんな立派なビルを持ってますがね。今だってね。夜食にカップラーメンを食べるのが幸せなんですよ。お湯を入れてね。俺は1分50秒って決めてるんですけどね。その待ってる時間にワクワクするんですよ。んで、硬めの麺をズルズルとすするのが最高に幸せなんですよ。わかります? この小ささが?」
「それとこれとは話が違うだろ」
「同じですって! 別に大きいことをしたいわけじゃないんですよ。なんか、ダンジョンを配信して、生活を楽しんでいたら、たまたま大きくなっただけですって!」
「ふっ……。ふふふ」
「ね! 失望したでしょ! 俺は小さい男なんですって。買い被りすぎなんですよ! ったく」
「おまえは魅力がある男だな」
「はぁーーーーーーい?」
「人が集まる理由がわかるよ」
「なんでそうなるんです?」
「おまえに会おうと思ってな。このビルの周辺を徘徊していたんだが、エルフたちが野菜を持ってやってくるじゃないか。その者らの目はキラキラと輝いていてな。このビルの前で膝をついて祈りを捧げていたぞ。おまえを心から崇拝している証拠だ」
おいおい。
エルフたちって俺がいないところでそんなことをしていたのか。
「会社の女たちも生き生きとしているしな。みんな社長の魅力で集まっているんだよ」
いやいやいやいや。
「雇用形態ってわかります? ギブアンドテイク。うちは馴れ合いで営業をしているわけじゃないですよ。別に俺の魅力で集まっているわけじゃないです」
「ふふふふふ」
あ、なんか伝わった?
俺のしょぼさがわかってくれたかな?
「おまえが
「はぁあい?」
「おまえがリーダーになるんだ」
「話し聞いてました?」
「
「だからって、いきなり俺がリーダーっておかしいでしょう?」
「おかしくはないさ。俺は自分の権力を振り翳したいわけじゃないからな。この国が正しい方向に進めばそれでいいんだ。弱者を救い、みんなが幸せに暮らす。それが理想の国なんだよ」
……その考えって、
「大和総理と同じじゃないですか。この国のことは彼に託せば問題ないでしょう?」
「それが大有りなんだよ。
「……総理はそんな人じゃないですけどね」
「わかっている。だが、あの人はバランスを見すぎるんだ。
うーーん。
政治ってその辺がよくわからんのだよなぁ。
「あんな生ぬるいやり方では、結局、弱者が食い物にされるだけだ。不幸な人が増える。俺はそれが許せないんだ」
「……正義感が強いんですね」
「……そうだ。最近、おまえがやってるライノマン。その姿を
「勘弁してくださいよ」
「…………」
「俺は正義のために命を使いたいんだ」
命を使うなんて……。
怖い言葉だなぁ。
それに、この人の気迫……。
「そのためなら破壊も辞さないって感じだ」
「……必要とあらばな」
怖いなぁ……。
「日本政府と戦うのですか?」
「おまえは許せるのか?
うーーん。
「言及するのは難しいですけどね。自分にできることをやっていくしかないんじゃないですか?」
「やれやれ。大和と同じ考えか」
「そういうんじゃないですよ。俺は俺の考えがあるだけです」
「…………強い力を持った者が、弱い者を守る。それが正しい道じゃないのか?」
「それは、まぁ……。そう思いますが……」
少し、険悪な空気が流れる。
俺はコーヒーをすすった。
「片井……。
うっ!
思わず、コーヒーを吹き出しそうになった。
「……その反応。さては勧誘を受けたな?」
俺は彼から勧誘を受けたんだ。
それにしても、秘密結社である
流石は
「入ったのか?」
「……いえ。考え中です」
「そうか……」
ああ、なんだかすごい話になってきたなぁ。
「その雰囲気じゃあ、
「……すぐには。無理ですよ」
「……やれやれ。俺は交渉が下手だから、おまえみたいに女に好かれる男じゃないしな。どうやって人を惹きつけるかもわからん」
「…………」
別に俺がモテ男だとは微塵も思わないけどさ。
この人はそういうのが苦手そうだな。
「今回は引き下がるとしよう。考えておいてくれ」
「はい」
「そうだ。せっかくだから、情報を提供しようか」
そう言って、大きなタブレットを鞄から取り出した。
「この映像はピクシーラバーズの駐車場の周辺を記録した防犯カメラさ」
ピクシーラバーズは今のエルフの村の元になった建物だな。
暗奏が発生した場所だ。
「えーーと、まだ暗奏が発生してない普通の駐車場ですね」
「通常、ダンジョンが発生する前日には磁場の乱れが生まれるんだがな。不思議なことに、暗奏が誕生する前日にはなにも起こっていない」
「どういうことでしょう?」
「うむ。映像を早送りして暗奏が発生するところまで見てみよう」
「あれ? 急に暗奏の入れ口が現れた」
そういえば、暗奏の対策会議では館長の
「映像を戻すと1時間だけ録画が途切れているんだよ」
削除されたのか、機材のトラブルか……。
「不思議ですね」
「途切れた場面から再び録画が再開されると……」
「あ……。暗奏の入り口が生まれている!」
ほぉ。
つまり、暗奏が生まれた瞬間だけが映っていないのか。
意図的な臭いがプンプンするな。
「国内最凶のダンジョンが、どうやって発生したのかわからないままなんだ」
「……不気味ですね」
「現在、
「途切れた録画場面の行方ですね」
「
暗奏はこの国を滅ぼすくらいの凶悪なダンジョンだった。
成長すれば世界だって危うい。
そんなダンジョンが誕生する瞬間が見れないなんてな。
なにか意味があるのかもしれない。
これは不吉すぎるよ。
「俺の方でも探ってみます」
「うん。ありがたい。片井の入会は置いておくとして、この情報だけは共有したいと思っているよ。暗奏はこの国の脅威だからな」
「いいですね。暗奏の件は連携をとっていきましょうか」
そして、少しだけ頬を赤く染めて、
「あ、あの子は……。な、な、生配信とかするのだろうか?」
「はい? あの子って?」
「ほら! このビルで一番可愛い……」
そんな子はウジャウジャいるがな。
「く、黒髪の子じゃないか」
いやいや。
わかるだろ、みたいに言われても困るんだ。
「うちの会社は配信者はそれなりにいるんですよ。俺を筆頭に、
その中で黒髪は俺くらいしかいないけどな?
西園寺不動産からの出向者なら黒髪はいるが……。
「ほら……。ポニーテールの子だよ」
そりゃ、俺が
「べ、別に気になっているわけじゃないんだがな。は、配信とかやってるのかなって……」
顔を赤らめていうんじゃない。
俺はそっちの趣味はないからな。スルーの方向でいこう。
正体が俺ってバレたらなにを言われるかわかったもんじゃないよ。
────
次回、カーシャの就任に対する動きがあります。
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