第131話 謎の訪問者

 

 それは数ヶ月前。

 空港のトイレで血まみれの変死体が発見された。

 

 カーシャのテストが終わった頃。

 その変死体の身元が明らかにされた。


 その遺体の死亡時刻は、片井が暗奏攻略に挑んでいた時と一致するという。




〜〜片井視点〜〜


 カーシャのテストが合格して、その発表に浮かれている俺たち。

 そんな片井ビルに訪問者があった。


「社長。 世界探索機関ワールドシークオーガニゼーションの監査官ミスタージェネスがいらっしゃいました」


 紗代子さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見せる。

 まぁ、それもそうだろう。

 世界でも、相当な役職の人だからな。

 そんな人が俺を尋ねて来るなんて……。

 おおよそ、暗奏がらみだろうけどさ。


 俺が噂の鉄壁さんということで、俺に会うことができるのは政府筋の者だけという厳しい条件が定めれている。

 

 紗代子さんが身分証の確認などをしてくれるんだ。

 ミスタージェネスと会うのは初めてだが、身元確認に問題がないので会ってみることにした。


「初めまして、ミスター片井」


 そう言って、ハットを外す。


 すると、室内の者たちが彼の素顔に注目した。


 感嘆にも似たため息が聞こえる。

 

 黒い皮膚。

 尖った耳に鋭い目。


 意外だったな。

 

 まさか、監査官が褐色肌のエルフだったなんて。


「監査官のジェネス・ギーベイクです」


 不思議な男だな。

 うちにも褐色肌のエルフはいるが、性別が違うからだろうか? 妙に謎めいたい雰囲気がある。


 その鋭い瞳は瞬きをしない。

 まるで、その部分だけ時間が止まったように。

 ジッと俺を見つめる。


 俺は彼を客室へと案内した。


「今日は、どんな御用でしょうか?」


元老院セナトゥスをご存じでしょうか?」


「なんですか、それ?」


「日本語では元老院という意味ですね」


「はぁ……」


 元老院といえば、古代ローマにおける、政治の最高機関だよな。

 それにどんな意味が?


「世界に存在するSS級探索者が作った秘密結社なのです」


「へぇ……」


 秘密結社…… 元老院セナトゥス

 漫画みたいだな……。


「聞いたことありませんね」


「日本にはSS級探索者が存在しませんからね。だから、組織のことも知らないのでしょう」


「……探索者でも凄腕の人たちばかりが集まっているんですか?」


「そのとおりです。世界を動かす第二の存在とまで噂されれるほどです」


「おお……」

 

 今、想像したのは、丸い机を囲んで、覆面姿の探索者たちが顔の前で腕を組んでるシーンを想像しちゃったよ。

 なんかヤバイ感じがするよな。


「まぁ、世界を動かすというのは噂ですけどね」


「……どうして、俺にそんな組織の話をするんですか?」


元老院セナトゥスから指示が出たからです」


 はい?


「ジェネスさんは 元老院セナトゥスの人間なのですか?」


「まさか。 世界探索機関ワールドシークオーガニゼーション 元老院セナトゥスが関係があるだけですよ。私は末端の関係者にすぎません。単なる小間使いです」


 ふむ……。

 横の繋がりがあるのか。


「ミスター片井。 元老院セナトゥスのメンバーになりませんか?」


「はぁいいい?」


 SS級ばかりの凄腕探索者の中に俺がぁ?


「俺はD級探索者ですよ?」


「それは日本の基準ですよね。世界基準で見れば、あなたの実力はSS級相当は十分にあるでしょう」


「買い被りすぎでは?」


「そんなことはありません。全世界に配信された暗奏でのバトル。ハイスピードワイバーンの討伐をはじめ、グレイトメタルゴブリン、グレインハウズ。ついには、ダンジョンボス、オメガツリーを倒した実力はすさまじかったですよ」


「大勢の命がかかっていましたからね。あんまりバトルのことを考える余裕はありませんでしたけどね」


「ははは。まさかの答えですよ。スピードスターワイバーンの討伐方法なんてね。 元老院セナトゥスの中では極秘中の極秘ですよ」


「そうなんですか?」


 速い敵だったからな。

 砂を手の隙間から落として、わずかな気流の変化で攻撃方向を見定めたんだ。


「それを、ああも簡単に一般公開されて……。 元老院セナトゥスではあなたのことで持ちきりですよ。勧誘の指示が殺到しているというわけです」


 なんだかよく知らない組織に注目されているんだなぁ。


「ミスター片井。あなたは 元老院セナトゥスに入る資格がある」


 そういわれてもな。

 いまいちピンと来ないや。

 そもそも、加入のメリットがわからない。


「組織に参加するだけで、年間1億円以上もの資金が手に入ります」


「はぁ……」


 なんだか怪しいなぁ。

 一体、何をさせられるんだか。

 

「その他。様々な恩恵がありますよ。各国の専用宿泊ホテル、各施設、護衛、使用人、多種多様なサービスが使い方放題なのです」


「いいこと尽く目だ」


 勧誘するのは大きなメリットを提示してからだもんな。

 そうなってくると、気になるのはデメリットなんだ。


 ジェネスさんは微笑んだ。


元老院セナトゥスとしては、あなたの情報が欲しいだけなんです。スピードスターワイバーンを軽々と倒すようなね。そんな情報交換ができれば、組織としては大きなメリットになる。もちろん、その情報の質によってはそれ相応の報酬は支払われますよ。加入するだけでもメリットがあり、情報を提供をすれば更にメリットがあるということです」


 うーーん。

 使える情報を独占したいってことかな。

 じゃあ、


「デメリットはなんですか?」


「……それは、人それぞれの価値観ですからね。デメリットがない、という人もいるでしょうしね」


 怪しいなぁ。

 くの一に調べさせてから加入は判断してもいいかな?


「……1つ忠告はしておきます。 元老院セナトゥスを調べるのだけはお辞めになった方がいい。秘密結社は情報漏洩に厳しい組織ですからね。もしも、組織を調べる怪し者がいれば全力で排除されますよ。……あなたの可愛い部下が命を落とすかもしれません」


 やれやれ。

 なんだか見透かされた感じがするな。


 SS級探索者ばかりの秘密結社か。

 くの一では危険すぎるな。


 しかし、簡単に加入するのもなんだか危険な臭いがするよ。


 俺は返事を遅らせた。


「本日はお邪魔しました」


「いえ……。そういえばジェネスさん。暗奏が駆除されたのに、随分と長く日本に滞在されているんですね? やはりまだ問題が多いのでしょうか?」


「ふふふ。そうですね。暗奏は記録的なダンジョンでしたからね」

 

「大変なんですね。俺にできることがあれば言ってください」


「ありがとう。ミスター片井。またお会いしましょう」


 彼が背中を見送っていると、


「おい。鉄壁」


 と、声をかけてきたのはS級探索者の 光永みつながさんだった。


 俺と話したいというのでこのビルの周辺を彷徨いていたらしい。


「このビルの出入りで目立つといったら、ポニーテールの黒髪の美少女が出入りするくらいでな。まったくお前と出会えんしな。困っていたところだ」


 ポニーテールの黒髪?

 ……多分、 真王子まおこだな。

 おれが 偽装カモフラを使って変装した女の姿だ。


「ああいいう、可愛い女の子もおまえの所の社員なのか?」


 おいおい。

 なにを顔を赤らめてんだよ。

 気持ち悪いから黙っておこうっと。


「んで。 光永みつながさんは何しにここへ?」


「ああ。ちょっと怪しい事件があってな。そのことについて情報共有したくてな」


 ほう。


「どんな事件なんです?」


「空港で見つかった変死体の話さ」


 そういえば、新聞で見たかな? 


「暗奏が攻略された時に発見された謎の変死体だ。たしか、トイレで血まみれで発見されたんですよね?」


「その身元がわかったのさ」


「そんな記事は新聞には載ってなかったですけどね?」

 

「特殊なルートで流れてくる特別な情報さ」


 ほぉ。

 流石はS級探索者。独自のルートがあるのか。


「聞いて驚け。その遺体は 世界探索機関ワールドシークオーガニゼーションの監査官ジェネスだったのさ」


「ええ!?」

 

 俺、さっきまで話していたんだけど?

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