第131話 謎の訪問者
それは数ヶ月前。
空港のトイレで血まみれの変死体が発見された。
カーシャのテストが終わった頃。
その変死体の身元が明らかにされた。
その遺体の死亡時刻は、片井が暗奏攻略に挑んでいた時と一致するという。
☆
〜〜片井視点〜〜
カーシャのテストが合格して、その発表に浮かれている俺たち。
そんな片井ビルに訪問者があった。
「社長。
紗代子さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見せる。
まぁ、それもそうだろう。
世界でも、相当な役職の人だからな。
そんな人が俺を尋ねて来るなんて……。
おおよそ、暗奏がらみだろうけどさ。
俺が噂の鉄壁さんということで、俺に会うことができるのは政府筋の者だけという厳しい条件が定めれている。
紗代子さんが身分証の確認などをしてくれるんだ。
ミスタージェネスと会うのは初めてだが、身元確認に問題がないので会ってみることにした。
「初めまして、ミスター片井」
そう言って、ハットを外す。
すると、室内の者たちが彼の素顔に注目した。
感嘆にも似たため息が聞こえる。
黒い皮膚。
尖った耳に鋭い目。
意外だったな。
まさか、監査官が褐色肌のエルフだったなんて。
「監査官のジェネス・ギーベイクです」
不思議な男だな。
うちにも褐色肌のエルフはいるが、性別が違うからだろうか? 妙に謎めいたい雰囲気がある。
その鋭い瞳は瞬きをしない。
まるで、その部分だけ時間が止まったように。
ジッと俺を見つめる。
俺は彼を客室へと案内した。
「今日は、どんな御用でしょうか?」
「
「なんですか、それ?」
「日本語では元老院という意味ですね」
「はぁ……」
元老院といえば、古代ローマにおける、政治の最高機関だよな。
それにどんな意味が?
「世界に存在するSS級探索者が作った秘密結社なのです」
「へぇ……」
秘密結社……
漫画みたいだな……。
「聞いたことありませんね」
「日本にはSS級探索者が存在しませんからね。だから、組織のことも知らないのでしょう」
「……探索者でも凄腕の人たちばかりが集まっているんですか?」
「そのとおりです。世界を動かす第二の存在とまで噂されれるほどです」
「おお……」
今、想像したのは、丸い机を囲んで、覆面姿の探索者たちが顔の前で腕を組んでるシーンを想像しちゃったよ。
なんかヤバイ感じがするよな。
「まぁ、世界を動かすというのは噂ですけどね」
「……どうして、俺にそんな組織の話をするんですか?」
「
はい?
「ジェネスさんは
「まさか。
ふむ……。
横の繋がりがあるのか。
「ミスター片井。
「はぁいいい?」
SS級ばかりの凄腕探索者の中に俺がぁ?
「俺はD級探索者ですよ?」
「それは日本の基準ですよね。世界基準で見れば、あなたの実力はSS級相当は十分にあるでしょう」
「買い被りすぎでは?」
「そんなことはありません。全世界に配信された暗奏でのバトル。ハイスピードワイバーンの討伐をはじめ、グレイトメタルゴブリン、グレインハウズ。ついには、ダンジョンボス、オメガツリーを倒した実力はすさまじかったですよ」
「大勢の命がかかっていましたからね。あんまりバトルのことを考える余裕はありませんでしたけどね」
「ははは。まさかの答えですよ。スピードスターワイバーンの討伐方法なんてね。
「そうなんですか?」
速い敵だったからな。
砂を手の隙間から落として、わずかな気流の変化で攻撃方向を見定めたんだ。
「それを、ああも簡単に一般公開されて……。
なんだかよく知らない組織に注目されているんだなぁ。
「ミスター片井。あなたは
そういわれてもな。
いまいちピンと来ないや。
そもそも、加入のメリットがわからない。
「組織に参加するだけで、年間1億円以上もの資金が手に入ります」
「はぁ……」
なんだか怪しいなぁ。
一体、何をさせられるんだか。
「その他。様々な恩恵がありますよ。各国の専用宿泊ホテル、各施設、護衛、使用人、多種多様なサービスが使い方放題なのです」
「いいこと尽く目だ」
勧誘するのは大きなメリットを提示してからだもんな。
そうなってくると、気になるのはデメリットなんだ。
ジェネスさんは微笑んだ。
「
うーーん。
使える情報を独占したいってことかな。
じゃあ、
「デメリットはなんですか?」
「……それは、人それぞれの価値観ですからね。デメリットがない、という人もいるでしょうしね」
怪しいなぁ。
くの一に調べさせてから加入は判断してもいいかな?
「……1つ忠告はしておきます。
やれやれ。
なんだか見透かされた感じがするな。
SS級探索者ばかりの秘密結社か。
くの一では危険すぎるな。
しかし、簡単に加入するのもなんだか危険な臭いがするよ。
俺は返事を遅らせた。
「本日はお邪魔しました」
「いえ……。そういえばジェネスさん。暗奏が駆除されたのに、随分と長く日本に滞在されているんですね? やはりまだ問題が多いのでしょうか?」
「ふふふ。そうですね。暗奏は記録的なダンジョンでしたからね」
「大変なんですね。俺にできることがあれば言ってください」
「ありがとう。ミスター片井。またお会いしましょう」
彼が背中を見送っていると、
「おい。鉄壁」
と、声をかけてきたのはS級探索者の
俺と話したいというのでこのビルの周辺を彷徨いていたらしい。
「このビルの出入りで目立つといったら、ポニーテールの黒髪の美少女が出入りするくらいでな。まったくお前と出会えんしな。困っていたところだ」
ポニーテールの黒髪?
……多分、
おれが
「ああいいう、可愛い女の子もおまえの所の社員なのか?」
おいおい。
なにを顔を赤らめてんだよ。
気持ち悪いから黙っておこうっと。
「んで。
「ああ。ちょっと怪しい事件があってな。そのことについて情報共有したくてな」
ほう。
「どんな事件なんです?」
「空港で見つかった変死体の話さ」
そういえば、新聞で見たかな?
「暗奏が攻略された時に発見された謎の変死体だ。たしか、トイレで血まみれで発見されたんですよね?」
「その身元がわかったのさ」
「そんな記事は新聞には載ってなかったですけどね?」
「特殊なルートで流れてくる特別な情報さ」
ほぉ。
流石はS級探索者。独自のルートがあるのか。
「聞いて驚け。その遺体は
「ええ!?」
俺、さっきまで話していたんだけど?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます