第124話 弱みを握れ!

「ええ? 次の探索局の局長に、名前も知らない小娘を使うのですか?」


 目を丸くしたのは環境大臣の 須木梨すきなしである。大和総理の願い入れに驚きを隠せないのと同時に、なにを素っ頓狂なことを、と苛立ちさえ見えた。


「私が懇意にさせていただいているな。ふふふ。片井殿の推薦なのだよ」


「はぁ……。片井  真王まお。暗奏を攻略して、この国を救った英雄。巷では鉄壁さんの愛称で親しまれている無敵の探索者ですね」


「うむ。彼の言うことならば私は全面的に信じれるのだよ」


「……やれやれ。総理……。こんな小言は言いたくありませんがね。片井氏は探索業のプロ。我々は政治のプロなのです。素人が介入してきていいことなんてありませんよ」


「おいおい。なにも無関係な事業に首を突っ込んでいるわけじゃないだろう。彼は一流の探索者であり、その探索者をまとめる探索局に推薦しているのが 須賀乃小路すがのこうじ カーシャなのだよ」


「はぁ……。 須賀乃小路すがのこうじ カーシャ。22歳の元探索局局員。一応、戸籍は地球人ですが、エルフと日本人のハーフじゃないですか。そんな人間が総理の推しで局長になるなんて、私はとても納得できませんけどね」


「まぁ、そう言うなよ。鉄壁さんだぞ? 君だって生配信は観ていただろう?」


「……そりゃあ、まぁね。我が国の一大事ですから。その行く末を見守るのは責務ですよ。でもね、それとこれとは話が別です」


 彼のいうことも一理あるだろう。

 カーシャは名も無い若者なのである。

 例え一流大学を主席で卒業していようと、実績のない人間をその組織のトップにするには、常識的に考えて無理があるのだ。


 しかし、大和は推した。なにせ、片井の推しなのだ。しかも、カーシャが失敗することで生まれる1300億円の損失は片井が肩代わりするとまで約束されているのだ。そこまで言われたら、カーシャを推さないわけにもいかない。


 しかしながら、大和は片井の肩代わりの件は伏せた。

 友として、そこまで大きな損失は背負わせたくなかったのである。よって、この件は大和の心中だけの約束となった。したがって、実質、 須木梨すきなしがカーシャを認めるのは彼女の実力だけとなっていた。


「彼女に局長が務まる技量があればいいのだろう?」


「大きく出ましたね。復興費用1300億円ですよ? 22歳のハーフエルフにそんな金が捻出できるのでしょうか?」


「できるさ。だから君が納得いくまでテストしてくれればいい」


「却下します」


「な、なにぃい!?」


「そんなのはテスト時間の無駄ですよ。そもそも、彼女の実力を確実に測れるようなテストを誰が作るんですか?」


「そ、それはもちろん、君がやるに決まっているだろう」


「そんな余裕はありません。ただでさえ暗奏駆除後の後始末に追われているのに、総理の与太話に時間を割いている場合ではないです!」


「よ、与太話だと!? おまえなぁあ! 失礼だぞ!!」


「いいえ! 的確な表現を使った場合は失言には該当しません。22歳の新人を局長に推す方がどうかしています。これを与太話と言わずしてなんと表現するのですか?」


「う、ううむ……」


「総理もお忙しい身分です。片井氏との距離は適切に保ちながら、ご自身の職務に尽力していただきますよう、進言させていただきます。私の尊敬する、黒田官兵衛はこう言っておりました。『最後の勝ちを得るにはどうしたらいいか考えよ』と。これを今回の話とすり合わせるのならば、局長は次長の 曳替ひきがえを昇進させて、探索局の統率を図る。これが最も効率的に1300億円の復興費用を捻出する方法ではないでしょうか? そうなれば、総理が掲げております、任期中に消費税は上げないこと、は見事に完遂できるのではないでしょうか。さすれば、部下の私としても、あなたを更に尊敬し、私は子供たちから愛される父親になれると思うのです。あなたも私も、国民も。全てがウインウインの関係になれるのは、 曳替ひきがえを局長に据えることなのですよ。……違いますか?」


「う、ううううううううむ……」


 と、大和は眉をしかめるのだった。




 大和は 須木梨すきなしになにも言い返せずに片井の元へとやって来た。


「片井殿ぉ! 申し訳ない!!」


 その姿は、青肌のネコ型ロボットに泣きつく眼鏡をかけた少年のようだった。


「どうしたんです?」


「私が不甲斐ないばかりに。力になれそうにない」


 片井は一連の流れを大和から聞いた。


「ふむ。まぁ……。当然といえば当然ですね」


「そうなのだ。別にあなたが推しているカーシャの実力を低く見ているわけではないのだがな。いかんせん、その実力を図るテストさえしてくれそうにないのだよ。これでは話にならん」


「うーーん。 須木梨すきなし大臣にカーシャのテストをやってもらう方法か……」

(やっぱり、何か弱みを握ることだろうな……)


 片井の考えることは大和も同じであった。


須木梨すきなしの弱みを握ってやろうと、色々と調べたのだがな。誠実を絵に描いたような真面目な人間でな。まったく隙がないのだよ」


「うーーん。例えばパソコンの検索履歴とかはどうでしょうか? なにか、傾向が掴めるかもしれませんよ?」


「うむ。それは私の忍びを使って調べて見たのだがな。これといって特別なことは見つからなかったよ」


「それって印刷してます? よかったら見せてもらえませんか?」


「ああ、これなんだがな」


「ふぅむ……」


 それは環境省のパソコン履歴である。

 1週間分ともなると随分な量だった。


「深夜帯にまでパソコンを使っているんですね」


「暗奏攻略の後始末は今も続いていてな。時折、泊まり込みの作業もあるそうだよ」


「へぇ……。自宅のパソコン履歴はあるんですか?」


「いや。流石にそこまでいくと一線を越えているようでな。職務の範囲内で探すつもりだ」


「確かに……」

(いくらなんでも自宅のパソコンを調べるのはやりすぎか……。そうなると、この環境省のパソコンの履歴で……)


「ん? こんな時間に……。これは……」


「何か見つかったのか?」


 片井はニヤリと笑う。


「ちょっと、気になるのがあるので調べて見ますね。俺の予感が的中してるなら、 須木梨すきなし大臣の弱みを見つけたかもしれませんよ」


「なにぃいいいいいい!?」



────


さぁ、 須木梨すきなしの防御を崩せるのか!? 乞うご期待!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る