第121話 エルフの支援団体

 カーシャの案は財団を作るものだった。

 エルフたちが資金を貯め、それをある一定の目的のために使う。それが俺の支援をするというもの。


 その名も鉄壁財団。


 資金源はエルフの村。

 これならば、収入の使い道が明確である。

 

 書類作成の創設者はカーシャが担当し、マリーザが理事長として運用する。

 この案にマリーザは大喜び。

 まるで水を得た魚のように笑顔になった。


 エルフの里では鉄壁財団の加入者を募集。全ての村民が財団に加入した。


 こうして、俺を支援する組織、鉄壁財団が誕生した。


 エルフたちは、自分の村を発展する資金と俺を支援する財団の資金と、2分することにしたのだ。しかも、財団の名義であれば社会的に認められた組織になる。影の組織、くの一 48フォーティーエイトとは違って、公の支援組織が誕生したというわけだ。しかも、その構成員が美しいエルフたちなのだから、なんとも豪華な組織である。


 本当は村の発展に尽力してくれればそれだけで十分なんだがな。

 こうでもしないと、毎週持ってくる野菜の量が激増しそうなんだ。片井ビルが八百屋になっちゃうよ。


 数日後。

 財団の誕生を記念して俺はエルフの村に招待された。

 とりあえず、事務所の主要メンバーと一緒に訪問してみる。


「「「 鉄壁さま……。いつもありがとうございます 」」」


 エルフたちは口々にそう言いながら深々と頭を下げた。


 なんだか、恐縮するなぁ。


 村長であるマリーザは生まれ変わったエルフの村を俺たちに紹介してくれた。

 財団の事務所も新しく設置されている。

 エルフの憩いの場。市場。悩み相談所。

 村には活気があって、癒しの空気しか感じない。

 争いを嫌うエルフらしい里になっているだろう。

 唯一の怪しい場所といえば……。


「これが 真王まおさまを讃える祭壇でございます」


 そこは地下室で、真ん中には立派な石像がある。

 若干、変な宗教の匂いはするのだが、備えてあるのは野菜だけで、地下だというのに明るい室内だった。


 ここまで俺を敬ってくれているのか……。

 噂には聞いていたが、生で見るとちょっと引くな。


 村のあちこちに俺の肖像画が飾ってある。

 もちろん、その顔はサイを模している。

 正体を知られることが何よりもまずい状態なので、エルフたちは俺に配慮して顔をサイにしてくれているのだ。


 よって、村の中を歩いていても、スマホで盗撮したりだとか隠れて覗き見をするようなことは決してない。

 俺のことを神のように扱っている。みな、従順で、敬虔けいけんである。


 村からは俺の会社に入社しているエルフが何人もいる。

 エルフたちはみんな真面目で会社的には大助かりだ。

 俺はそれだけでも十分に恩恵があるのだがな。

 彼女たち曰く、それでもやり足りないのだそうだ。


 本当に真面目な種族だよな。


 俺たちは豪華な接待を受けた。

 美味い料理に酒。歌と踊り。中々に贅沢なもてなしだ。


 そこにはディネルアもいた。

 あの国外逃亡を企てた 翼山車よくだしの秘書である。

 彼女は探索局に残って秘書を続けている。局は大きな転換期を迎えていた。


「え? 新しい局長が決まったって?」


「はい……」


  翼山車よくだしが魔の国に行って2ヶ月が経とうとしている。刑事や民事、様々な事件があって探索局は大変だった。その再生事案を引き継ぐ存在が現れたのだ。


 ディネルアは深刻な表情を見せる。


「次長だった 曳替ひきがえが局長に任命されることが決まったのです」


 やれやれ。

  曳替ひきがえといえば、 転移帰還指輪リターンリングを俺から没収していった男だ。

 あのアイテムが 翼山車よくだしに渡っているところを考えると、裏でなんらかの繋がりがあったのは明白だな。警察の目を掻い潜ってよくもおめおめと出世ができるもんだよ。


 こんな奴が局長になったら、またディネルアが辛い思いをすることになるだろう。それに、クリーンな仕事をしている印象がないからな。


 俺は指を鳴らす。


パチーーン!


シュタ!


「お呼びでしょうか?」


 くの一のみやびだ。


「探索局の 曳替ひきがえのことを知りたい。できる範囲でいいから、公表されていないような仕事を探ってくれ」


「裏の仕事でございますね。承知しました」


シュタ!


 さて、 曳替ひきがえのことはくの一に調べさせるとして、任命をどうするかだよな。


「ねぇ、 真王まおくん。こういうのって大和総理に相談するんがいいんじゃないの?」


「だよな。政治のリーダーだしな。局長の任命にどこまで関与してるかわからないけど、聞いてみるのが筋だよな」


 ディネルアは申し訳なさそうな顔をする。


真王まおさま。申し訳ありません。何度も心配をかけてしまって……」


「これはエルフだけの問題じゃないさ。そもそも、任命するのは人間だろうしな。 曳替ひきがえなんかが局長になったら 翼山車よくだしの二の舞だよ」


 大和総理だってわかっているだろうに……。

 やれやれ。政治の世界は奥が深そうだぞ。


 翌日。

 俺は総理と夕食を食べることになった。


「ううむ。片井殿。言っていることは重々承知しているのだがなぁ……。局長の任命権は私にはないのだよ」


「総理大臣なのにですか?」


「組織にはルールがあってな。そこは非常に複雑なんだ。もちろん、総理の権限を使えば、強引に私の指定した者を局長にすることも可能だろう。しかしな。それでは、私の信頼が失われるのだよ。部下と上司。互いに信頼してこそ組織が成り立つものなのだよ」


 なるほど。

 俺も社長の立場だからな。

 総理の言われていることもなんとなくわかるや。

 でも、


曳替ひきがえが問題を起こせば、総理の責任問題にもなると思うのですが?」


「そ、そうなのだがなぁ……」


 歯切れが悪いな。

 なにか障害がありそうだぞ。


「そもそも、局長の任命権は誰にあるのですか?」


「うむ。それは環境大臣にある」


  須木梨すきなし  精到せいとう


 内閣の環境大臣である。


「まいったことに 須木梨すきなしのロジックは完璧でな。私が口を挟むことができないのだよ」


 総理にそこまで言わす男か。


 世間でもそれなりに評価は高いけど……。


「どんな人間なのですか?」


「うむ……」


 総理は 須木梨すきなしのことを語った。

 その人は、あの 翼山車よくだしを任命した男だという……。



────

さぁ、最後のボス 須木梨すきなしが登場します。

乞うご期待!

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