第120話 会社とエルフの村
桐江田 萌が社員になった。
俺の母こと、鎧塚防衛大臣が一推しの人材である。
「みなさん。桐江田 萌です。よろしくお願いします」
見た目は小学生なのだが、履歴書を見ると32歳になっている。社内では、エルフを除くと一番の年長者になってしまった。
未だに、俺と面と向かって喋るのは恥ずかしいらしく、いつも赤面している。
桐江田さん、というよりも名前の方がしっくり来るようなので、萌さん、と呼ぶことにした。
「しゃ、社長。ここにサインをいただけますか?」
それにしても可愛らしい人だ。
子供に仕事を押し付けているようで罪悪感すら覚えるよ。
本当に仕事ができるのだろうか?
などと思っていたのだが、母さんの人選に間違いはなく。その仕事っぷりはすさまじい実力を発揮した。
1週間もすると、
「紗代子さん、頼まれていた書類整理はやっておきました」
「え、もう? まだ3日しか経ってないわよ?」
「これくらいは当たり前です。ついでに今後の見通しについて計画案を練っておきましたから」
「すごい……」
あの紗代子さんにすごいと言わせてしまうほど仕事ができる人だった。
萌さんはカーシャと同じタイプなんだな。
2週間後には、
「萌ちゃん!」
「紗代子たん!」
ガシッ!
と、2人は抱き合う。
どうやら相当に気が合うらしい。
プライベートの交流もあって、随分と仲が良いようだ。
2人がイチャつくので年下のカーシャがなだめるほどである。
「紗代子さんも萌さんも、戯れ合うのはほどほどにしてください。仕事が溜まってますよ」
「カーシャたん厳しす!」
3人とも仕事ができる者同士で、随分と馬が合うようだ。3人だけで呑みに行ったりもしているみたい。
紗代子さん、カーシャ、萌さん。
俺の会社に素晴らしいリーダーが生まれた。
紗代子さんは片井ダンジョン探索事務所の本店を担当。また、俺の会社の総括をしてくれている。
カーシャと萌さんは第2片井ビルを担当。
そこには、片井ダンジョン芸能事務所を筆頭窓口にして、
片井ダンジョンおもちゃ支店。
片井ダンジョン衣料品支店。
片井ダンジョンゲーム支店。
片井ダンジョンアニメ漫画支店。
の5店舗を構える。
今は海外の仕事が多く、ライノマンの権利関係の仕事が大半である。
というのも、業界内では既に有名だが、鉄壁さんの正体が不明で、問い合わせは常にスルー。また却下、お答えできません。が続く。よって、自然と鉄壁さんの熱は冷めて、顔のわかるライノマンの印象が先行したというわけだ。もちろん、冷めていると言っても、時の人としての熱量だけであって、未だに俺のことを調べまくっている団体は多い。
ありがたいことに鉄壁のくの一
彼女たちのおかげで俺の秘密は保持されており、決して公に発表されないというわけだ。
また、ゲーム、おもちゃ、漫画、アニメに関しては萌さんは天職のようで、元々大好きらしく、熱の入れようが仕事のそれとは明らかに違う。
「先月、提案があったライノマンフィギュアですけどね。目線が違いますね。顔は横に外れていても目線は前を向いていてください。ここは燃えるポイントなんです! いいですか? 必ず前ですよ。あと、黒目は大きくハッキリと。ハイライトを入れて目立つようにしてください。キャラは目が命ですからね!」
おお……。
こだわりがエグイ。
ここばかりは鬼気迫る気迫がある。
酒に酔うと本性が出るのか、自分のことを「萌ちゃん」なんて呼んだりするんだけど、社会人としては隙のない女性なのかもしれないな。
それに、本当に仕事が楽しそうだ。
彼女にとっては相当な天職らしい。
売れ線の商品が自分の欲しいグッズなので、支店長とマーケッターを兼任していると言っても過言ではないだろう。限定グッズでも製作者権限で自分用を確保しているようだ。もちろん、それに似合うだけの売り上げを叩き出しているのは言うまでもない。彼女のおかげで支店の発展は目覚ましい。
そんなこんなで、俺の会社は大きな発展を見せた。
次はエルフの村の話だ。
ここは俺が買い取ってから随分と発展を見せた。
村長はエリンの母親、マリーザ。
彼女を筆頭にエルフたちは力を合わせる。
ちなみに、俺は名誉村長らしい。
満月の夜には俺の石像を囲んで「鉄壁祭」というのが開かれているそうだ。当たり前だが、俺は完全にノータッチ。彼女たちが勝手にやっている。
エルフたちは満月になると、夜な夜な騒ぐので地域住民から苦情が出たそうだ。
エルフたちは基本的に温和な種族だ。だから、地域住民とは仲良くやっている。なので、毎月やっている鉄壁祭は地下の防音設備の整った部屋でやることになったらしい。
こうなると宗教のような感じだが、彼女ら曰く、代々に伝えたい行事なんだとか。まぁ、エルフたちがそれで平和ならそれでいいだろう。いや、気にはなるけどね。俺の肖像画とか石像に祈りを捧げるってさ。若干、鼻の奥がむず痒いよ。
さて、そんなエルフの村だけど。
彼女たちの大好きなことは自然と触れ合う農業である。
よって、土地を与えることで毎日を充実して過ごせるようだ。
なので、里の近くの農地を購入して分け与えることにした。
マリーザは恐縮する。
「
異世界の住民ゆえの大問題。
これは地球上でも問題になっている。
彼女たちは人間ではないので、あらゆる権利が存在しないのである。
なので、俺が間に入って、共存の道を記せたらいいだろう。
今は2月。
季節的にいえば春だけど、雪の降る日がある寒い時期でもある。そんな時期に収穫できる野菜といったら限られるわけで。暖かいビニール栽培でもできればいいと思う。
ちょうど、片井温泉を作ったときに地下温水を汲み上げる知識はついたので、エルフの農地でも応用してみることにした。その考えは見事に的中。冬でも暖かい農地を作るビニールハウスの建設が成功した。
もちろん、製作費には数千万かかっちゃったけどね。
それでも、エルフたちのことを思えば安い出費だよ。
彼女たちはビニールハウスに大感動。
奇跡が起きたと号泣していた。
俺の存在はますます神格化。エルフたちは俺を見るだけで深々と頭を下げた。
エルフたちの作った農作物は出来がいい。
味が良くて健康的だ。
完全無農薬で本当に美味しい。
基本はエルフだけで消費していたのだが、里の財政改革としてカーシャが間に入った。
農作物を人間に売り始めたのである。
敷地内の店頭販売を始め、ネット通販も実施。
野菜には『このエルフが作りました』の写真付き。
良質な野菜というだけなら無個性であるが、超美人が作ったというのだから、美味しさもひとしおである。
そんな野菜は飛ぶように売れて世間は話題沸騰。ヅイッターのトレンドにも載るほどだ。今や『エルフの野菜』は超人気商品なのである。加えて、日本の農業の衰退をエルフが支えるかもしれないと、専門家たちも好意的だった。
エルフたちはマメである。
毎週、月曜日には1週間分の野菜を持ってくる。
マリーザはエリンを連れて第1片井ビルにやってきた。
「
「お兄ちゃん。これはエリンも作ったんだよ!」
エルフの作ったラディッシュ(はつか大根)はめちゃくちゃ甘い。水々しくて旨味がぎっしりと詰まっている。
ネットで話題になるのも頷けるよね。
こんな野菜が毎日食べれるんだから最高だよな。
2月末にもなると、エルフの村では野菜の売り上げが出始めた。
マリーザは1万円の札束を俺に差し出す。
数百万円はあるだろう。
「
いやいや。
彼女たちから金をとるために俺が面倒を見ているのではない。あくまでも村の発展が目的だ。エルフたちが平和に楽しく暮らす。これがベストなんだから。
「受け取れないよ。村の発展で使ってくれ。俺は美味しい野菜をもらえるだけで十分だからさ」
「はぅうう……。
「な、泣かないでくれよ」
まいったなぁ。
彼女たちは俺に奉仕をすることが幸せなんだろう。
ある程度は俺に還元してくれてもいいが、金銭的にはエルフの村で運用して欲しいんだよな。正直、お金は困っていないんだ。もう、野菜をくれるだけで十分に満足なんだよ。
と、そこにカーシャが笑みを見せた。
「いい案がありますよ!」
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