第115話 カーシャと片井
〜〜カーシャ視点〜〜
「明けましておめでとう。今年もよろしくお願いします」
と、気軽に声をかけて来たのは黒髪の美少女である。
「懇親会の準備は2階の会議室だからさ。総理も来てるし、あがっといてくださいよ」
随分と若いけど、誰だろう?
見た目は明らかに十代。西園寺不動産の出向者ではないわよね。と、すると新入社員? でも、簡単には雇わないって聞いてるんだけどな?
それとも、イレコちゃんのお友達とか?
それにしては馴れ馴れしいわよね?
西園寺社長なら知っているかもしれない。
「社長のお知り合いですか?」
「いや……。初めて見る顔だ」
謎の少女はエルフたちに指示を出して、料理や飲み物を会議室に運ぶ。
「あれ? 俺の顔になんか付いてます?」
「君と私はどこかで会っていただろうか?」
「嫌だなぁ。俺ですよぉ」
「いや……。俺と言われても、君のような少女に認識がなくてな」
「ああ、そっか! 最近レベルが上がりましてね。声まで変えれるようになったんですよ」
なにを言ってるんだろう?
西園寺社長だって小首を傾げている。
「んじゃ……。コホン。この声でわかりますか?」
え!?
男の声になった!
「ははは。総理が来るもんですからね。片井ビルの前には取材陣が徘徊してるんですよ。なので素顔で彷徨くのはNGなんですよね」
こ、この声は配信でよく聴いてる声だ!
じゃあ、へ、変装ってこと!?
「も、もしかして片井さんか? その姿どうなってるんだ? 変装にしては行き過ぎてるぞ。性別はおろか、骨格まで変わってるじゃないか?」
「ははは。新しく覚えたスキルを使ったんですよ」
「スキルを!? それは、ますますわからないな。スキルが使えるのはダンジョンの中だけじゃないのか?」
「ふふふ。まぁ、話せば長くなりますからね。みんなのいる時にしますよ」
す、すごい……。
片井社長って謎が多い人だなぁ。
ちょうどその時。
エルフの女の子が通りがかった。その手には重たそうな缶ビールの箱を持っている。
「ああ、ネミ。それは俺が持つよ」
「しかし、
「いいからいいから。ネミはそこの紙コップ類を持って来てよ」
ああ、なんて紳士な。
さりげない優しさ。
案の定、エルフの顔が真っ赤になってるわ。この人は社員一同に好かれてるんだろうな。西園寺不動産からも10人ばかり出向してるけどさ。みんなが片井社長にメロメロみたいだもん。口を揃えて「こんなにいい上司に出会えたのは初めて」と言っていたな。とても、西園寺社長には聞かせられない言葉だわ。
片井社長はビール缶の詰め込まれた箱を持ちながら、さりげなく聞いてきた。
「えーーと。君は? 初めて会うかな?」
「私は西園寺不動産の秘書をやっております。
「そう。俺は……。ははは、今はこんな姿だけどさ。片井
うう……。
初対面なのに顔がわからないなんてぇ。
片井ビル2階の会議室には大勢の人が集まっていた。
「うわぁ……。すごい人ですね」
「うむ。ほとんどが社員らしい」
100人以上いるけど……。
この事務所って設立してまだ1年も経っていないんだよね?
総理をはじめ、社員が大勢……。
こんな大きな会社にするなんて、本当に片井社長はすごい人なんだなぁ。
西園寺社長が好きになっちゃうのも頷ける。
中にはエルフたちも大勢混ざっていた。
ジ・エルフィー以外はみんな白い肌だ。
見慣れないエルフばかり。
その中にはなんと……。
ええええええ!?
ディ、
ディネルアさん!?
し、しかも晴れ着だし。
め、めちゃくちゃ似合ってる!
局長が異世界に逃亡してから日が経つとはいえ、彼女は探索局の人間だ。
そんな人が秘密厳守の懇親会に参加するなんてどういうこと!?
彼女は私と目が合うと、優しい笑みを返して、ゆっくりとお辞儀した。
彼女は
別に彼女を恨んではいないけど、若干気まずそうだ。
それにしても、ほとんどが女だな。
しかも、美人と美少女ばかり……。
男の人といえば、総理大臣と片井社長の2人だけか。
嬉しいのは桐江田一尉と一文字曹長がいることね。
その横にはエルフの美少女エリンちゃんもいるし。
これも片井社長の人望のなせる技だとは思うけど、総理大臣と自衛官の上級職が参加だからね。
他には人気コスプレイヤーでもあるイレコちゃんでしょ、世界的人気配信者ジ・エルフィーのメンバーは雑用係になっているし。
その上、探索局の秘書ディネルアさんまで……。
凄すぎて思考が追いつかないわよ。
あああ……。
この集まりには謎が多すぎるわ。
懇親会なんだから、これらの謎は全部解明したいわね。
会議室は3部屋を合体させて拡張してあるようだ。
室内は照明で明るいが、各窓にはカーテンが厳重に閉じられている。
どうやら、マスコミの盗撮を防止しているらしい。
片井社長は時の人だからな。
年が明けたとはいえ、鉄壁さんの正体を探ろうと、マスコミは躍起になっているんだ。
これくらいは当然だろう。
でも、正体がバレないためとはいえ、まさか美少女に変装しているとは思わなかったな。
今日は素顔が見れるのだろうか?
うう、どんな顔か見たいぃ〜〜。
紗代子さんは名簿を見ながら、
「社長。全員集まったようです」
「そうか。んじゃ懇親会を始めようか」
これは片井ダンジョン探索事務所の発展と、それに対する関係者の交流会。
立食スタイルでお酒や食べ物が出る。
片井社長のアイデアらしく、みんなの親睦を深めるとともにざっくばらんに意見を出し合って欲しいとのこと。
会社の構想は社長が自らプレゼンをする。
まずは、舞台に登壇して挨拶をした。
「みなさん。あけましておめでとう。今日は忙しい中、集まってくれてありがとうございます」
片井社長は……。というか、黒髪の美少女は嬉しそうに今回の経緯を話す。
そして、乾杯のためにコップを持った時だ。
「片井殿。乾杯もその格好でするおつもりか?」
総理の何気ない質問にみんなが同意した。
「あはは。それもそうですね。ここにいるみんなは信頼できる人ばかりです。早速、秘密を公開しましょうか」
秘密の公開……。
ドキドキ……。
それはオメガツリーの落としたアイテムの力だった。
「──というわけで、この
おおお……。
それだけでも凄すぎる。
これって世界的大発見じゃない。
そんな秘密を
うう……。絶対に口外禁止よね。責任重大だわ。
それに、西園寺社長には感謝だな。
こんな貴重な場所に
それだけ
「──んじゃあ。変身を解きますね」
キターーーー!!
いよいよだぁああああ!!
それは瞬時にして、男の人の顔になった。
え………………………………………!?
こ、この顔は……?
この人はーーーーーー!?
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