第112話 片井は暴力団を訪問する

 鉄壁のくの一 48フォーティーエイト。そのリーダーであるみやびは神妙な表情を見せた。


「現在45人のくの一がマスコミの警戒に当たっております。その大半を恐龍会の事務所に向かわせれば戦況は有利になるかもしれません」


「いや。それはできない」


「なぜです?」


「そんなことをすれば向こうが警戒するだろう」


「し、しかし!! 危険すぎます!!」


「やるしかないよ」


「で、では、せめて建物に潜伏しているくの一の人数を増やしてもよろしいでしょうか?」


 なるほど。

 それならいざという時に助かるな。


「それで相手にバレない可能性は?」


「さ、30%ほどです」


「却下だ」


「片井さま!!」


「相手に警戒させては意味がない」


「し、しかし!! 恐龍会は武闘派で有名です! お言葉ですが危険すぎます!!」


「かもな……」


 しかし、話がこじれる方が戦闘になる可能性が高まるんだ。


「俺には 密偵腕輪スパイバングルがある。もしかの時はエリンをはじめ、他のみんなを助けてやってくれ」


「か、片井さまぁ!! 危険すぎます!!」


「いいから配置につけ」


「……で、では。私もお供させてください」


 やれやれ。

 身を挺してでも俺を護るつもりだな。

 顔がそれを物語ってるよ。

 まったく、くの一ってのは忠義な存在だな。


 みんなの命を護るためにも絶対に成功させなくちゃな。

 失敗はできない。


 こういうのはおもてなしの心が大切だからな。


 用意した必需品はこれだ。


 日本酒に羊羹ようかん。和菓子の詰め合わせセット。


 人付き合いに必須な、はしっかりと買っておいた。


 しかも、どれも高級品だ。

 これを、つまらない物、といって渡すのが日本の風習なんだよな。


 ドラマなんかだとこれに札束を混ぜたりするんだがな。

 時代劇なら小判か。


『お代官さま。これを……』

『むぅ……。金の羊羹か。越後屋。お主も悪よの〜〜』

『いやいや、どうして。お代官さまには敵いませんて』

『『はっはっはっ!』』


 てな具合にさ。

 

 現代でもそんなのが横行してそうだけどな。

  翼山車よくだしなんかはやりまくっていたのだろう。


 でも、俺はそういう付き合いは求めてないんだよな。

 

 あくまでも正攻法だ。

 丁寧に話して理解してもらう。


 買収金額はできるだけ公表して、正規のルートを辿る。

 たとえ、多少の金額は吹っかけられても、今の会社の収入ならばなんとかなるはずだ。


 準備は万端。

 いざ、暴力団事務所へ。


 俺は 偽装カモフラの力を使ってサイのお面を被ることにした。

 本当はリアルな肉質のサイ顔になれるんだがな。

 それだと地上でスキルが使えることがバレてしまう。

 だから、あえてお面で安っぽく仕立ててみた。


 事務所の入り口には若い衆が座っていて、俺たちを見るなり睨みを利かせてきた。ジャケットの下はタンクトップ。その肉体は筋骨隆々。


「なんじゃあ。おどれらはぁ?」


 ふひょぉお……。

 すげぇ殺気だな。

 暴力団って感じぃ。


「えと……。私は沖田 衣怜いれと申しまして。テレビで見たことありませんか?」

「わ、私は一文字凛です。沖田さん同様にテレビに出ておりました」


  衣怜いれとイッチーが事情を説明する。

 事前に顔をアピールするのは怪しくない宣言だ。お面姿の俺は黙っておく、話すと怪しまれるだろうからな。


 すると、若い衆は真っ赤な顔になって俺たちを中に通してくれた。


 ファンだったのかな?

 それとも可愛いは正義か?

 その可能性は大いにあるよな。

 人気レイヤーの 衣怜いれはもちろんのこと、イッチーも相当な美人だからな。彼女は、美人すぎる自衛官、として各メディアで特集を組まれていたっけ。


 2人が仲間で良かったよ。

 

 始まりは上々だな。


 俺たちは組長室に案内された。


 中には10人を超える組員が殺気をみなぎらせる。


 さっきの若い衆とは打って変わって空気が変わる。

 とても誤魔化しが効きそうな雰囲気ではない。


 部屋はタバコの臭いが充満し、部屋の壁には日本刀が飾られていた。

 その横には組員を表明する名札が並んであって、組員、破門者、と分かれていた。絵に書いたようなヤクザ部屋である。


 正面には立派な机。そこに座るのは白髪の爺さんだった。


 右手の小指と薬指が無くなっている。

 鋭い目の片方には刀傷がしっかりとついていた。


 この人が組長だろう。


ゴクリ……。


 凄まじい殺気だ。


 痛いほど睨んでくる。


 俺が対峙した政府の役人とは臭いが違うな。

 なんていうか、死線を潜り抜けてきた極道の顔って感じだ。


「ほぉ……。おまえさんが、あの鉄壁の探索者かい?」


「はい」


「横にいるのは沖田  衣怜いれ。一文字曹長……。エルフの少女エリンか……。すると、そのサイのお面を被ったのが、正体不明の鉄壁の探索者だな」


 テレビの視聴率は60%を超えていたというからな。

 俺たちの知名度は相当に高い。俺の顔は非公表だが、4人が揃えば誰もがわかってくれるだろう。

 こんな老人でも知ってくれているようだ。


 さぁ、要件を言おうか。


 と、その時である。


 その場にいる10人の組員が一斉に立ち上がった。



ザッ!!



 なにぃいいッ!?


 いきなり臨戦体制だと!?


 俺たちに緊張が走る。


 交渉の時間もあったもんじゃない。

 武闘派だから、拳で語るとか、そういうことか?

 それとも、俺になにかの恨みでもあったか?


 ……考えられるのは、このサイのお面か?

 ちょっとふざけすぎたかもしれない。


 もしくは、西園寺不動産との関係か?

 暴力団といえば土地関連があるからな。

 俺の行動がこいつらに恨みを買っていたとか?


 謝罪で治るなら謝ろう。

 しかし、こいつらの気迫には凄みがある。

 今にも飛びかかって来そうな凄まじい空気だ。


 組長が雄叫びを上げる。




「鉄壁のぉおおおおおおおお!!」


 


 やばい!


みやび! みんなを連れて逃げろ!! 俺のことよりみんなの安全だ!!」


 刹那!



ズザァアアッ!!



 組長をはじめ、その場にいる組員全員が土下座した。



 え……!?




「鉄壁の兄貴ぃいいいいいい!! わざわざお越しくださってありがとうございますぅうううッ!!」




 全員が深々と土下座する。

 その額は床にべったりとついていた。


 はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい?


 お、俺が……あ、兄貴ぃ??

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