第111話 暗奏攻略組の再結成

 俺たちは恐龍会の事務所に向かうことにした。


 とはいえ、60人のエルフをぞろぞろと連れてくわけにもいかず。

 代表者である、ディネルアさんとマリーザさんを連れて行くことにする。

 俺とこの2人。3人で平和的解決を図ろうって寸法だ。


 しかし、ふと気になった。


 俺の素性をどう説明しようか?


 ピクシーラバーズを買い取る理由を話すとして、俺が何者なのかを説明する必要があるよな。

 でも、素顔を晒すのは絶対にまずい。

 俺の正体はマスコミにすら知られていないからな。その上で、暴力団に身バレするなんて絶対に避けるべきだろう。妙なゆすりなんかに遭っても嫌だしな。


  偽装カモフラを使って変装するか?

 しかし、それもなんだか違う気がするんだよな。

 いくら暴力団とはいえ、俺が騙すのは違う気がする。

 

 要は、顔を隠しながらも、暗奏を攻略した鉄壁さんであることを証明できればいいのだ。

 そうすれば、ピクシーラバーズを購入する理由にもなるしな。


 紗代子さんは眉を寄せた。


「社長。これは危険すぎると思うのですが?」


「うーーん」


 気軽にことを進めすぎたか?

 しかし、俺が介入しなければエルフたちに悲劇が待っているのは明白。

 また、辛い思いをすることになるんだ。


「ただいまーー!」


 ちょうどその時 衣怜いれが学校から帰ってきた。


 彼女も俺と同様に時の人である。

 高校生なので、その帰宅経路をマスコミたちに追跡されている。

 しかし、俺にはくの一がいるからな。


 鉄壁のくの一 48フォーティーエイトと命名した。

 

 俺には大和総理から譲り受けた優秀な48人の忍びたちがいる。

 

 今は、そのくの一を駆使して帰宅経路をわからなくしてもらっているんだ。

 彼女らにすれば、潜入の素人であるマスコミの撹乱は容易なんだとか。


 そんなわけだから、 衣怜いれは何事もなく帰宅することが可能なんだ。


 彼女は大勢のエルフに目を丸くしていた。


 そりゃそうだよな。

 60人だもん。圧巻だよ。 


  衣怜いれは俺の秘書だからな。ことの経緯を相談しようか。





「じゃあ、私が行けばいいじゃない」


 なるほど。

  衣怜いれは生配信で顔出ししてるしな。

 彼女が来れば、俺が鉄壁さんである証明になるわけか。


「なんなら大和総理にも来てもらえば?」


「あのな……。流石に総理が暴力団事務所に行けるわけはないよ。そんなことをしたら大ニュースだぞ。世論は反社との関係に厳しいからな」


「あ、そっか。でもさ。 真王まおくんはお面で顔を隠してさ。私が隣りで証明すればいいわけよね?」


 ふむ。

 それなら顔を隠しても信じてくれるかもな。


「なんならエリンちゃんとイッチーさんも呼べばいいんじゃない? 暗奏攻略の4人が揃えば流石に信じるわよ。お面越しでも声は生配信のままなんだからさ」


「おお! ナイスアイデアだ!」


 エリンは当事者だからいいとして。

 イッチーは協力してくれるだろうか?


 早速、彼女に電話をしてみる。



「ぜひ、協力させてください! エルフの未来を守ろうとするなんて、流石は片井さんです! ぜひ、ぜひ協力をさせてください!!」


 おお、食い気味だな。

 もともと、正義感の強い女の人だったからな。


「でもさ。相手は暴力団なんだが、自衛官の曹長が関係してもいいのかな?」


「よくはありませんね。流石に写真や動画の証拠は残したくありません。ただ、私は総理やイレコさんほど注目されている存在ではないんです。最近ではマスコミの取材もなくなりましたしね」


「ふぅむ……。じゃあ、どちらにせよ。マスコミの盗撮には気をつけないといけないんだな」


 これにはくの一を使うのがベストだな。

 48人を総出させよう。


 くの一に周囲を警戒させてマスコミのスクープにはさせない。


 うん。完璧だ。




 俺たちはイッチーと合流した。


「片井さん。また4人で戦えるなんて夢のようです!」


「ははは。戦う気はないけどね」


「むふぅーー! エルフの安住のため。頑張りますよぉお」


 気合い入ってんなぁ。


 しかし、まさかだよな。

 俺と 衣怜いれ。エリンとイッチー。

 この4人が再結成するとは思わなかったよ。


「お兄ちゃん」


 と、エリンは険しい顔つきを見せた。


「ちーむわーく」


「ははは。だな」


 地上ではスキルの発動ができない。

 できるのは 密偵腕輪スパイバングルをはめている俺だけだ。

 それでも、千分の一の力しか出せないからな。

 慎重にことを進めなくちゃ。


 恐龍会の事務所まで100メートルとなった時である。


シュタッ!

 

 みやびが俺の横に現れた。


「片井さま。恐龍会の戦力を調べて参りました」


「うん」


「構成員は末端の部下を入れると130人。中規模な暴力団のようですね」


「ふむ」


「訪問される組の事務所は4階建。その中には30人の屈強な男たちが待機しております」


 30人か。多いな。


「現在、建物内にくの一を2人忍ばせておりますが、潜伏させるのは、その数が精一杯です。それ以上は気づかれる恐れがあります」


 そうなると、俺たち暗奏攻略組が4人。他にはディネルアさんとマリーザさんだけ。

 エルフの2人は完全に戦力外だから、戦える人数は6人……。

 ……いや、待てよ。

 そもそも地上でスキルを使えるのが俺だけなんだ。

 そうなると、戦えるのは俺1人か。戦闘訓練をしているくの一と合わせても3人だ。


「片井さま。恐龍会の組員は日本刀とドスを筆頭に違法拳銃も所持しております」


「ああ……」


 暴力団だもんな。


「なお、わたくしども、くの一の武器は、警棒、スタンガン、催涙ガスでございます」


 え?


「忍者刀や手裏剣じゃないのか?」


「銃刀法違反で検挙されてしまいますからね。よって、忍者刀は持てません。手裏剣は刃渡り6センチ未満の物を所持しております。秘密団体とはいえ国家と繋がりのある組織。公団ではないため、法律は遵守しているのです」


「意外だな」


「表向きの職種はサービス業。一般的には警備員という形ですね。なので、携帯する警棒は90センチ未満の物を使用しております」


 なんとも現実的な。

 アニメみたいな無敵の忍者って感じじゃないのか。

 でも、そうなると、


「建物に侵入するのは建造物侵入罪じゃないのか?」


「そこは政府の力が作用します。特別な権限によって、侵入、盗聴、盗撮が許されているのです」


 複雑なんだな。


「片井さま。敵は屈強な暴力団員が30名。対するは片井さまと2名のくの一でございます。この意味がおわかりでしょうか?」


 なるほど。

 戦闘になったら大ピンチ。

 それどころか命は保証できないってことだな。


「片井さま。お言葉ですが、こちらの戦況が不利すぎます。あちらは日本刀に拳銃まで持っております。また、組員1人当たりの筋肉量はくの一の2倍を有しております。中には筋肉増強剤であるステロイドを使って筋肉量を3倍にまで膨れ上がらせている猛者も散見されます」


「…………」


「加えて、片井さまのスキルは千分の一。ダンジョンでは無敵だった攻撃アタック 防御ディフェンスでも防御はできない可能性があります。拳銃、日本刀の攻撃はもちろんのこと。ノーマルの打撃攻撃でさえ通ってしまうと思われます」


「……だな」


  密偵腕輪スパイバングルの弱体化に対する能力の改善は未だ模索中だ。

 よって、地上で無敵。というわけにいはいかない。

 だからこれは、難易度S級のクエストと言っても過言ではないだろう。



────


次回。

鉄壁さん暴力団事務所を訪問!

大波乱の予感!

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