第110話 片井とエルフ族

 片井ビルの1階には50人を超えるエルフたちが押し寄せていた。


「お兄ちゃん!」


 と、ツインテールの美少女が俺に抱きついた。


「お! エリンも来てたのか」


「うん。エヘヘ」


「こ、これエリン。 真王まおさまをお兄ちゃんなどと気軽に呼んではいけません」


 ん? 知らないエルフだな。

 この人は誰だろう?


「申し遅れました。私はエリンの母親のマリーザ。あなたさまより暗奏から命を救っていただきましたエルフでございます」


「ああ、そうだったんですね。元気そうでなによりだ」


 エリンの母さんだから綺麗な人だな。


「エリンのお母さん。美人でしょ?」


「だな」


「エヘヘ。エリンの自慢のお母さんなの」


真王まおさま、申し訳ありません。この子は片親で、私がわがままに育ててしまったのかもしれません」


 エリンは母親しかいなかったのか。

 暗奏の攻略では必死になっていたもんな。

 唯一の母が行方不明なら必死になる気持ちもわかる。わがままってか勇敢な良い子だと思うよ。


「お父さんは、エリンが小さい頃に死んじゃったの」


「そっか……」


「お兄ちゃんがエリンのお父さんになればいいと思うの」


「え?」


「こ、これ! エリン!  真王まおさま本当に申し訳ございません!」


「ははは」


「いけませんよエリン。 真王まおさまのことをお兄ちゃんだなんて」


「いや。別にいいですよ。な、エリン? 俺たちは仲間だもんな?」


「うん。ちーむわーく」


 さて、1階の事務所じゃ狭いからな。

 2階の会議室で話しをしようか。


 俺はエルフたちを案内した。


 エルフは全員で60名も来ていた。

 ピクシーラバーズのエルフたちが50名。

 探索局の秘書だったエルフが10名だ。


 ディネルアさんは神妙な面持ちで今後のことを話した。


「私たちエルフは 真王まおさまに多大なるご恩をいただきました。暗奏からの救出をはじめ、極悪人、 座古井ざこい 翼山車よくだしの処罰。これらは 真王まおさまにしかできない偉業でございます。エルフ族の未来は 真王まおさまによって救われました」


 いやいや、偉業て……。


「大袈裟じゃないかな?」


「いえ。国内におけるエルフの地位を考えれば、誰もができることではありません。あなたさまに救っていただいたことは、我々にとってはとてつもない偉業なのでございます」


 ……まぁ、 翼山車よくだしみたいな権力者がエルフを利用していれば待遇はよくならんわな。

 そう考えれば、俺がやったことは、彼女たちにとって最善の手を打てたのかもしれない。


真王まおさまがお困りのことがあれば全力で支援させていただきたいのです」


 支援か……。

 エルフたちは真面目だからな。

 丁度、事務所の支店構想もあるし、社員として引き受けるなら助かるかもしれないぞ。

 しかし、


「そういえばさ。ピクシーラバーズはどうなるのかな?  座古井ざこいが逮捕されたから館長は不在だよな」


 マリーザさんは汗を垂らした。


「後任が来るまではエルフ族のリーダーである私に一任されております。今は駐車場の整備や、その他、館内の補修工事に尽力しております」


「後任は人間かな?」


「……はい。ピクシーラバーズの所有権を巡っては揉めているようです。所有者の 座古井ざこいは逮捕。大元の 翼山車よくだしも国外逃亡しましたから」


 ふぅむ……。

 通常ならば 座古井ざこいの親族や保証人関係者らが後釜だよな。


 俺はパチンと指を鳴らした。


 すると、紫色の装束を着た女が現れる。


シュタ!


 くの一のみやびだ。


「ご用件は?」


「うん。ピクシーラバーズの後任についてなんだけどさ。調べて欲しいんだけど、できるかな?」


「少々お待ちください」


 そういって、大きなタブレットを取り出した。

 どうやら、忍者の必須アイテムらしい。

 現代忍者はハイテクのようだ。


「後任は恐龍会の若頭がやるようですね」


「もう調べているのか?」


「ピクシーラバーズに関してはかなりの調査が入っております。以前に片井さまより指示を受けましたので、その関係でかなりの情報を取得しているのです」


 なるほど。

 流石は忍者だ。


 恐龍会といえば有名なヤクザだよな。

 やれやれ。探索局の監視が外れたら今度はヤクザが介入してきたのか。

 綺麗なエルフを使って金儲けをしようって魂胆だな。


「俺の援助をしようにも、ピクシーラバーズの身元がグラグラしてたんじゃとても動けないよな」


 マリーザさんはしょんぼりとした。


「も、申し訳ありません……。し、しかし、 真王まおさまには一切ご迷惑はかけませんので」


 そういう問題じゃないんだ。

 また、変な管理者がついたら辛い思いをするのは彼女たちなんだからな。


「よし。ピクシーラバーズを俺が買い取ろう」


「か、片井さま。その場合はヤクザと交渉をすることになりますが?」


「そうか……」


 それは難だが仕方がないよな。

 放っておけば、また悲しむエルフが増えるんだ。

 管理者が俺になった方がなにかと便利だ。

 その上で俺の会社に使えるエルフを就職させればいいだろう。


「よし。今から恐龍会に交渉だ」


「い、今から!?」


「ああ。これもなにかの縁さ。エルフのことは最後まで面倒みるよ」


「で、では。恐龍会の戦力を調べて参ります」


「うん。別に争うわけじゃないけどさ。念には念をだな。できるだけ穏便に済ませたいから、有利になるような情報があれば教えてくれ」


「承知しました」


シュタッ!!


 エルフたちは俺のことを呆れた目で見ていた。


「あれ? どうかした?」


 ディネルアさんは困る。


「ま、 真王まおさま。わ、私どもはあなた様にご恩返しに参ったのですよ?」


「ああ。わかってるよ」


「そ、それでピクシーラバーズを買い取るなんて……。そ、それじゃあ、また私たちが助けられるではありませんか!」


「ははは。ま、成り行きだからね」


「は、はははって……。あ、あなたはどこまでお優しい方なのですか?」


 エルフたちは深々と頭を下げた。


「「「  真王まおさま! ありがとうございます!! 」」」


 まぁ、まだ感謝される結果は出していないけどね。

 それじゃあ、暴力団の事務所に行こうか。


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