第109話 翼山車の最期
「ブヒョォオオオ! どうしてぇえ!? コカインを渡したのにぃいい!?」
そんな状態を陰ながら追尾している物体が1台。
音も立てずに背後に忍び寄る……。
それは最新のダンジョンテクノロジーを使った超小型ドローンカメラだった。
名前をモスキートカメラ。コウモリカメラより小型で、現地で配信画面などは見ることができない。解像度は360P。4Kが標準となっている現代の配信には不向きなカメラである。
その所有者は探索局。
局のアカウントで生配信を実施している。
なぜ、このカメラが機能しているかというと、
よって、全国民がこれを視聴することが可能だった。逃亡場所がわかれば通報してください。というわけである。
さて、そんな生配信の情報は瞬く間にネット上で拡散されるわけで……。
みんなは思い思いにコメントを書きまくっていた。
『
『映っとるがなwwww』
『鉄壁さんと戦っていたんじゃなかったのか?』
『おまわりさーーん!』
『逃げたってこと?』
『ここどこ?』
『おそらく魔族の国と思われる』
『青い肌のオークは見たことのないタイプのモンスターだな』
『凶悪なのは間違いない』
『逃亡先が魔族の国とかざまぁwwww』
『
『ブヒョヒョヒョ』
『魔族の国とかマジかw 腹捩れるw』
『まだ、確定はしてない模様』
『酒がすすむわーー』
『これ逮捕できんのか?』
『発見されてる異世界はアンダルハイヤーとファンシーネイバーだけ。ここ不明』
『完全に逃亡したのか……』
『いや、逆に詰みじゃね?』
『逮捕できん、いや、助けに行けないwwwww』
『ワクワクが止まらんてw』
『コーヒー牛乳を盛大に吹いた』
『ポテチ、2袋目に突入したw』
もちろん、
ちなみに、配信電波はダンジョンテクノロジーによって繋がっているようである。
このことが
モスキートカメラは
ネット界隈では低画質の容量が逆に軽くて評判が良かった。
牢屋には5人のエルフがいた。
ボロボロの身なりをした女たちである。
その肌は垢まみれ。体に染みついた異臭は、何日も風呂に入っていないのがわかった。
(ブヒョヒョ! まぁ、酷い目にはあったが、エルフがいるなら助かったわい)
「おいエルフども! 喉が渇いたぞ! 水を持ってこい!」
すると、今度はエルフたちにボコボコに殴られた。
「ブヒョォオオオオ! どうしてぇえええ!?」
「私たちを舐めるんじゃないよ。D級が!」
「で、D級? な、なんだそれは!?」
「口の利き方に注意しな」
ボゴォアッ!!
「ブベェエエエッ!」
10分後。
彼はエルフたちの前で土下座をしていた。その体は青あざだらけ。瞼はボッコリと腫れて、目を開けるのがやっとである。
『ちょ
『散々、エルフに暴力を振るってきただろうからな』
『最近、逮捕されたピクシーラバーズの
『エルフに暴力とか、これご褒美じゃね?』
「こ、ここはどこなのでしょうか? で、D級とは……。どういう意味なのでしょうか?』
彼にとって、この世界の情報を知ることが何より優先されることだった。
エルフはつまらなそうに鼻でため息をつく。
「フン! ここは魔オークが支配する魔族の国なのさ」
「ま、魔族の国ぃ!?」
(そ、そんな……。じゃ、じゃあ片井が言っていたことは本当だったのか!?)
『はい。魔族の国キターーーーwww』
『確定wwwww』
『
『マジ、笑いが止まらんwwwww』
『なぜ逃げたしwwww』
『自分から逃亡wwww』
『オワタwww』
『やべぇwwwwwww』
エルフたちは更に残酷な情報を追加する。
「私たちは奴隷なんだ」
「ど、ど、奴隷ぃいい!?」
「うるさい!」
ボゴォアッ!
「ブベェラァアッ!!」
「ったく。身分をわきまえろよ。D級が」
「そ、そ、そのD級というのは?」
「なんだ。本当に何も知らないんだな」
「は、はい……」
「しょうがない、教えてやるよ。ただし、今日配膳されるおまえの分の食事は私らがもらうからな」
「え!?」
「ククク。奴隷には等級が5段階あってな。私はS級なんだ。おまえは最下級のD級なんだよ」
「ブヒョォオオオオ!! そ、そんなぁあ!?」
「等級は絶対だ。特に人族に昇級はない。定められた等級で死ぬまで働くんだよ。よって、貴様は最下級。上級者の命令は絶対だからな。ククク。今日の食事は私らがもらう!!」
「ブヒョォオ! ひ、酷い!!」
「な、なにか食べ物を恵んでください。せめて水だけでも飲ませてください!」
「バーーカ。水だって貴重だからな。D級の貴様には簡単に飲ますわけにはいかねぇんだよ」
「あああ……」
絶望の映像はネットに流れる。
『探索局のトップから奴隷に転落かw』
『あちゃぁ……。これはキツイw』
『刑務所が天国やん』
『バカだなぁ』
『なぜ逃げたしw』
エルフの女は首輪を取り出した。
「代わりにこれをやるよ」
そう言って、彼の首に装着した。
「こ、これは!?」
「自殺防止首輪さ」
「え!?」
「奴隷の仕事は過酷だからな。自殺する奴が後を経たないんだ。それを防止するために魔オークたちが作ったのさ」
「え? え?」
「自殺しようとすると電流が流れるんだ。当然、その電流では死なないから安心しろ。とにかく強烈に痛い。それだけさ」
「ああああああ……」
涙は出なかった。
もう、喉がカラカラで涙になる水分すらないのだ。
『いやいやw』
『どんだけ落とすねんw』
『エルフの逆襲ww』
『被せてくるなぁw』
『もっとやって良しw』
『逃げれん上に氏ねんとかwww』
エルフは冷淡に言い放つ。
「気が狂うこともできないからな。電流は常に正気を保つ威力がある。死ぬことも、気が狂うこともできないんだ」
「ひぃいい……」
彼の全身から血の気が引いた。
その時である。
牢屋の扉が開けられた。
「おい。豚! 仕事だぞ」
彼はオークに豚と呼ばれて戸惑いを隠せない。しかし、反論するとボコボコに殴られるので黙っておくことにした。
『豚wwwww』
『豚に豚って言われたwwwwww』
『魔オーク登場wwww』
『おまそれいうwww』
『更なるざまぁを期待している俺がいるw』
『
『
兵士は
「さぁ。もう直ぐ終わるから、待ってろ」
(な、なにが終わるんだ?)
その時である。
隣りの部屋からとてつもない音が響いた。
ブリッ! ブリブリブリィイイイーーッ!
なにかを捻り出すような。誰もが知っている音。
『は!? ちょ、こらw』
『この音は!?』
『おい! こっちは飯食っとんじゃw』
『食事中ww』
『閲覧注意wwww』
『逆に食欲が湧きました』
『低画質で良かったw』
「ブヒョッ! 臭い!!」
隣りの部屋から大きな魔オークが、下半身を丸出しにして歩いて来る。
『ほぉ。おまえが新しい、尻舐め係か』
「し、尻舐め係ぃ?」
魔オークは大きなお尻を突き出した。
「ブヒョッ! 鼻がもげるッ!!」
その瞬間、強烈な張り手が彼を襲った。
バヂィイイイイイイイイインッ!!
「ハギャアッ!!」
止まっていた鼻血が再びダラダラと流れ始める。
魔オークは、そんな
「ブヒョッ! こ、こんなもんを舐めるくらいなら舌を噛んで死んでやるわ!」
と舌を噛もうとした瞬間である。
バリバリバリバリーーーー!!
強烈な電流が体中に走る。
「ギャァァァアッ!!」
自殺防止首輪が作動したのである。
(い、痛い! 体中がヒリヒリする!!)
『自殺もできんw』
『いやいやいや地獄だってばw』
『これがこいつの末路か……』
『尻舐め係とかご褒美かもしらん……』
『今日は食事抜きだしねw』
『御愁傷様』
『ちーーん』
『悪いことしたらこうなるんだね』
悶える
それは地獄の底から聞こえる地響きのような低い声だった。
『舐めろぉおおおお〜〜』
抵抗すれば激しい暴力が待っている。
自害を試みれば電流地獄だ。
「ブヒョォオオオオオオオオッ!!」
彼は死ぬことも逃げることもできず、尻舐め係として生涯を過ごすことになったのだ。
そこには、日本の刑務所のように、健康に気を遣った温かい食事や、趣味の時間はない。ましてや、受刑者たちと気軽に愚痴を言い合えるような、ストレス発散の時間すらも与えられないのである。
そこは、家族も友人も、裏金で築き上げた強力な人脈さえも、なにもかもが存在しない暗闇の世界なのだ。
そして彼は、そんな世界に自ら望んで行ってしまったのである。
ああ、あの時、魔族に声をかけなければ良かった……。
あの時に殺された方が楽だった……。
あそこで……。転移する前に、片井の言うことを聞いていれば……。
激しい後悔と地獄の日々が、彼の余生となったのだった。
ちなみに、この生配信はモスキートカメラの電池切れを待たずして強制的に停止された。
過激すぎる、という理由である。
よって、探索局の公式アカウントが運営からバンされてしまうという異例の事態になった。
もちろん、この動画を録画している者は数多くいて。伝説のざまぁ動画になったのはいうまでもない。
あ、あと、ヅイッターのトレンドは【♯
☆
〜〜片井視点〜〜
次の日。
テレビでは
暗奏攻略の吉報から打って変わっての悲報。
新聞は一面を飾り、公務員の悪行としてネットでは話題になっていた。
これは生配信はしていないが、
俺がこっそりコウモリカメラの録画を続けていたのだ。
よって、
彼は、複数の罪状を抱えたまま、国外逃亡の指名手配になったのだ。
もちろん、彼が捕まることはなく。永遠の指名手配なのは明白である。
話題の中心になっているのが、もっぱら俺の生放送だ。
切り抜き動画はテレビで使われて大ニュース。
モスキートカメラの動画は過激すぎてテレビでは流せないらしい。
コンプラに違反しまくってるのだとか……。
しかし、俺の切り抜き動画によって
その非難は元凶である探索局に向けられていた。
局の上層部は環境省である。局長を任命した環境大臣は謝罪会見を開いて頭を下げる。当然、大和総理にもその責任が波及するわけで、彼は土下座をして謝っていた。
そんな中、片井ビルにエルフたちが押し寄せる。
50人以上はいるだろうか。
ディネルアさんをはじめ、ピクシーラバーズの面々だ。
ディネルアさんの家族がピクシーラバーズにいるらしい。
局側のエルフとはいえ、ディネルアさんも人間に虐待を受けていたわけで、ピクシーラバーズのエルフたちとは同じ境遇だったようだ。
そんな彼女たちは、俺の前で
ディネルアさんは俺に頭を下げた。
「
様付けで言われると照れてしまうがな。
エルフたちはそう呼びたいらしい。
「本日は
そういわれてもなぁ……。
────
ざまぁ対象はまだ残っております!
しっかりと、けりをつけてから2章は完結です。
ぜひ、最後までお付き合いください。
あと、面白ければ、星の評価、レビューなど書いていただけると幸いです。
いつもコメント、ハートの応援ありがとうございます。
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