第108話 翼山車の切り札
「ブヒョヒョヒョォオオオオ! 図書カードォオ! おまえが
「やめろ
「フン! どこに行こうがここよりマシだぁ! こんな国は捨ててやる! 一生を牢獄で過ごすなんて絶対にありえん!!
「その指輪は魔族の国に転移するようになっているんだよ!」
「ブハハハハ! くだらん嘘をつきおって! D級の底辺探索者らしい底の浅いでまかせだなぁ! そんな取ってつけたような嘘でこの
ダメだ。俺の評価が低いから信じてくれない。
それに、そのアイテムについては話すと長くなるんだ。
「
手っ取り早く実力行使といこう。
壁パンチで奴を気絶させる!
「そうは行くかぁぁあッ!! 転移開始だぁあああッ!!」
俺が壁パンチを打つより先に、
「ブヒョヒョヒョォオオオオ!! 残念だったなぁああッ!!
魔法壁は空を切った。
ダンジョンの壁に衝突する。
ズシィイイイイイインッ!!
土埃だけが立ち上る。
「なんてことだ! まさか異世界に逃げるとはぁ! ぬかったわぁああッ!!」
総理の後悔を筆頭に、エルフたちにも無念の表情が浮かび上がる。
いや、みんなが思っているような残念な結末じゃないんだ。
これは、最悪で、もっとも残酷な終わり方。
殺伐とした空気が流れる中、俺は声を出した。
……説明しようか。
「
ディネルアさんの後ろからネミが顔を出した。
「
しかし、その結末を誰も見届けることはできない。
それでもな。これだけは言えるんだ。
「
ディネルアさんたちは涙を流した。
きっと、奴が逮捕されても同じように泣いただろう。
それは
例え
それは神が下した天罰なのかもしれない。
きっと、俺が言っていたことが嘘じゃなかったことに気づくだろうよ。
とはいえ、おまえの余生を考えたら、少しだけ気の毒ではあるがな……。
☆
「ブヒョォオ!! 転移成功だぁあああ!!」
片井たちから逃げ延びたことを心から喜ぶ。
「バカな奴らめ。ブヒョヒョ。
(それにしても変だな? 今は夜だろうか? 妙に薄暗いぞ? 靄がかかったように薄暗くて不気味な感じだ。異世界って、もっとこう……。青空と草原が広がっているイメージがあるんだがな。それになんだか嫌な臭いがする。死臭というのか。肉が腐ったような臭いだ)
と、その時である。
大きな鎧姿の兵士を見かけた。
3人で巡回でもしているのだろうか。
特に急ぐ様子もなく、フラフラと歩く。
「ブヒョォオオオ! 渡りに船だ。おーーい!!」
のちに、彼は激しく後悔する。
ああ、あいつらに声なんかかけるんじゃなかった、と。
この呼びかけは最後のチャンスだったのだ。異世界での逃亡生活。その自由を手に入れる最後の機会だったのである。片井の言葉を信じて、なんとか逃げきれれば、再生のチャンスはあったのだ。
兵士たちは豚の顔をしていた。
(ブヒョォオオ! オ、オークタイプか。獣人族かな? それにしては肌が青色で、変わった感じだがな。ま、まぁ、いい、それも異文化。旅行気分で楽しめばいいだろう。ブヒョヒョ)
『なんだ、おまえ人族か!?』
「ブヒョヒョ! まぁ、そういうことになるかな? それで相談なのだが……」
彼には切り札があった。
それが袋に詰めたコカインである。
(異世界の住民も麻薬の魅力には敵うまいてブヒョヒョ)
コカインを餌にして、お金や宿屋の都合をつけてもらおう。そんな風に考えていたのだ。その矢先。
「ブヒョォオオオオ! ど、どうしてぇええ!?」
『生意気な奴だ。ブチ殺してやる』
「ま、待つブヒョォオオオ!! い、良い物を持ってるブヒョォオオオオ!!」
『ほぉ……。貴様、商人か?』
オークたちは薬の魅力に直ぐに気がついた。麻薬の成分を瞬時に理解したのである。
『よし。これは良い物だな。おまえは殺さないでやろう』
彼はまたも失敗した。
本当は、ここで殺された方が良かったのである。
後に、彼は、このことを心底悔やむのであった。
────
次回。
死ぬことよりも、恐ろしい結末。
次こそが本当に彼の最期です。
本当に長らくお待たせしました。
これこそが
片井と総理とエルフたち。
そして、読者の皆様のヘイトを晴らします。
ご期待ください。
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