第107話 翼山車に制裁
大和総理は全身から殺気を放った。
「
「ひぃいいいい!! く、く、来るなぁああああッ!!」
対する総理は完全に丸腰。
これからの対応は全て正当防衛といってもいいだろう。
念の為、総理のスーツには、俺の防御魔法
銃弾くらいならば致命傷にはならないはずだ。
そうそう。
視聴者には悪いんだけどさ。
俺はポケットに潜ませていたコウモリカメラのリモコンを使って録画を停止させた。
ここまで証拠が撮れれば十分だからな。
あとは機材トラブルという形で配信できなかったことにしておこう。
ここから先の記録は、とてもみんなには見せられないよな。心臓の弱い人には随分とショッキングな映像だろうからさ。
「
総理が前に出たのと同時。
バキューーン!
バキューーン!
2発の銃弾が総理の肩をかすめた。
しかし、彼はそんなことに怯む様子もなく、片手だけで
「
「ひぃいいいいいいいいいいいい!!」
ああ、凄まじいな。
阿修羅の如くとはこのことか。
「貴様のやった悪行の数々! 決して許すわけにはいかん!! 裏切られた者の怒りを思い知れ!!」
「ぼ、暴力反対ぃいいいいい!!」
「これは、私の怒りだぁああああああ!!」
総理の拳は
ベゴォオオオオオオオオオオオオッ!!
「ギャフゥウウウウウウウウウウッ!!」
鼻血が飛び散る。
ああ、配信を切っておいて正解だったな。
やっぱり、刺激が強すぎる。
「鎧塚防衛大臣の分んんんんんんんッ!!」
ボゴォオオオオオオオオオオオオッ!!
「グホォオオオオオオオオオオッ!!」
「S級探索者
「ぐべぇえええええええええええッ!!」
「そして、この国を滅ぼそうとした、国民の怒りだぁああああああああ!!」
バギィイイイイイイイイイイイイイッ!!
「アギャアァアアアアアアアアアアアッ!!」
総理は、ぶっ飛んだ
「最後に──」
と、大きく拳を振りかぶる。
「おまえを信じた自分自身に対する。戒めの怒りだぁあああああッ!!」
ズバァァアアアアアアアアアアンッ!!
「ブビョォエッ!!」
いや、最後のとばっちり!
まぁ、それだけ恨みが籠っていたということか。
鼻血と吐血ですごいことになっている。
そのまま、エルフたちの元へと這いずった。
「ディ、ディネルアぁあああ……。わ、
ああ、おまえも
助けを求めてさ、助けてくれる信頼関係が築けていたと思うのかよ。
ディネルアさんのハイヒールが
メコォオオオオオオオオオオッ!!
「あぐぅええええッ!!」
だよな。
そうなって当然だって。
肩書きは秘書だったけどさ、その内情は奴隷扱い。汚い足を舐めさせたり、暴力を振るったり。好き勝手やってたんだからな。こうなって当然だよ。
彼女の踏みつけをきっかけに、他のエルフたちも攻撃を始めた。
「や、やめ! 痛っ! ぐえぇえッ!! や、やめろぉおおお!! わ、
もうただの犯罪者だってば。
バキィイイッ!! ボゴォオオオオッ!!
「あぎゃあああッ!!」
ああ、これは見ない方がいいヤツだな。
職場内のいざこざに部外者が口を出すことほど場違いなことはない。
俺たちは後ろを向いて、エルフたちと
彼女らの攻撃は止まることを知らない。
ベキ! ドカ! バキ!!
「ぐぇ!! あぎゃぁ!! げふぅううッ!!」
ああ、盛り上がってるなぁ。
このままだと殺されちゃうよな。
一応、助け舟を出してやるか。
俺は
「あーー。
これはおまえの雇った探索者たちが俺に言ってたセリフさ。このダンジョンは無法地帯。人が死んでも証拠は残らないんだ。
「か、片井……。き、貴様だったのか……」
「今までやって来たことを謝るんならさ。彼女たちの手も止まるかもしれないぞ」
「あうぅううう……」
ドカッ! バキッ! ボゴォッ!!
「あ、謝りまずぅ……。だ、だがら殴らないでぇええ……」
「申し訳ありまぜんでじだぁ……」
それでもディネルアさんの怒りは鎮まりそうになかった。
それでも、これが限界だな。
あとは法に裁いてもらうしかないだろう。
総理は語気を強めた。
「立て
警察には通報済みだ。
ダンジョンを出れば、
加えて、こいつの裁判には大和総理の傘下である強力な検察官が担当することになっている。ほんの僅かな減刑でさえ絶対に許さないという、不動の精神で取り組むらしい。俺はそこに紗代子さんも協力してもらおうと思っている。控えめに言っても
そんな
「そ、総理……。こ、このまま見逃してもらうわけにはいかないでしょうか?」
この期に及んでそんな命乞いか。
「ダメだ。貴様は大勢の者を不幸にしすぎた。牢獄で自分の罪を悔やむんだな」
「そ、そうですか……」
と、胸元に手を入れる。
ん?
なんだか怪しい動きだぞ。
「総理! 気をつけてください!」
「む!?」
と、警戒するや否や。
「ブヒョヒョヒョ! 謝ってダメなら逃げるだけさ」
逃げるだと?
俺たちがいるのに、そんなことができるもんか。
奴は小瓶を取り出して、その中に入っている液体をゴクゴクと飲み干した。
あれは……。
傷が……回復してるだと!?。
「ハイポーションだ!」
まだ、抵抗する気か?
また殴られる数が増えるだけだぞ?
それに、
「魔獣王の法典は没収した。おまえに攻撃する手段はないはずだ。拳銃だって効きはしないさ」
「ブヒョヒョヒョーー! 誰が戦うと言ったァァア!!」
と、前に突き出した拳の一部がキラリと光る。
あれは……。指輪だ。
どこかで見たことがあるような?
「これはおまえが手に入れたアイテムさ。ブヒョヒョヒョォオオ!」
そうだ!
ダンジョンで使えば、指輪内部に登録されている地点に一瞬で戻ることができる。俺がオメガツリーのドロップした宝箱から見つけたアイテム。
「美術館に飾ってるんじゃなかったのか?」
「ブヒョヒョヒョオオオ! あんなのは精巧に作った偽物だ。どうせ飾ってるだけなんだからな。
もう平気でくすねとるな。
窃盗が空気のように自然だわ。
そういえば、
「ブヒョヒョヒョ! この指輪をアイテム鑑定士に見せたらな。すごいことがわかったのさ」
指輪は強烈な光を発し、地響きを起こした。
ズゴゴゴゴゴゴゴ……。
指輪に向かって重力が発生しているのだろうか。
肌が発光源に向けて吸い寄せられるようだ。
明らかな空間の異変。
場に緊張が走る。
「これは異世界に一瞬で転移できる指輪なんだよぉおおお! ブヒョヒョヒョォオオオオ!!」
いや、それはそうだが。
その転移場所が固定されているのは知っているのか?
「
行き先は書き換えしているのか?
いや、そもそもの話。
古代魔字を勉強していたネミでさえ手こずったアイテム内の魔導記録式。その知識を地球人が把握しているのだろうか?
もしかして、書き換えはおろか、行き先が固定されていることすらも把握していないのではないのか?
その指輪は……。
「図書カードォオオオオ!! まさかおまえが
あ、いやいや。
笑ってる場合じゃないってば。
この調子じゃ、完全にわかっていないな。
やはり、相当に浅い知識だ。
その指輪の戻る先はな。異世界は異世界でも──。
魔族の国なんだからな。
────
なんと!
しぶとい奴でした!
しかし、確実に訪れるであろう絶望を予感させる最期。
次回もざまぁが続きます!
(予定より筆が走って長くなっちゃったんです。少しだけお付き合いください)
じっくりと、丁寧にざまぁを書きましたので、スルメを噛むように楽しんでいただければと思います。
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