第106話 翼山車の悪行

〜〜片井視点〜〜


「き、き、きさ、貴様は一体!?」


「だからライノマンだって。正義の味方。おまえみたいな悪は絶対に許さないな」


「ま、魔法壁で攻撃……。お、おまえ、もしかして自警団か? 鉄壁の探索者に影響を受けた!?」


 やれやれ。

 本人なんだがな。

 こいつが俺の生配信を観ているとも思えんしな。

  偽装カモフラの能力でサイの顔になっているのは知らないのだろう。

 まぁいい。


「どこに行くつもりだったんだ? 総理はおまえを探しているぞ?」


「か、勝った気か? ブ、ブヒョヒョ! わしを捕まえて英雄にでもなりたいのか? ク、クソ庶民の考えそうなことだ」


 これ以上目立ちたいだなんて、微塵も思ってないっての。


「ダンジョン内を馬車で移動するなんて、なんとも豪勢だよな」


 移動速度が速い訳だ。

 忍者でもないかぎり、コイツの居場所を掴むのは難しいだろう。

 俺はみやびたちの働きのおかげで正確な位置を見つけることができたんだ。


「立派な馬車に怪しい探索者を雇ってか……。おおよそ、海外逃亡でもしようって魂胆だ」


「ブヒョヒョヒョ!! いいだろう! 教えてやる。行先はハワイのオワフ島さ。そこにはわしの別荘があってな。綺麗な海を見ながらワインが飲めるのだよ」


「へぇ。随分といいご身分だな」


「ブヒョヒョ! わしは金持ちなのさ。……そうだ、1億やろう。どうだ、わしの仲間にならんか?」


「はぁ?」


「ブヒョヒョ……。わしなんか捕まえたって、せいぜい数百万円の謝礼金を貰って終わるだけだぞ。それより、わしとハワイに行く方が楽しいだろう。1億だぞ! 1億ぅ!!」


「ああ……」


 まったくなんとも思わんな。

 今や、月額数百億を稼ぎだす探索者になってしまったからな。

 そうやって、なんでも金で解決できると思ってんだからおめでたい奴だよ。

 それにしても、どうやって大金を調達してるんだ?

 海外の銀行の預金は全て逃亡資金で使い切っているんだがな。


「おまえは海外の株で失敗して借金をしてるんだろ?」


  翼山車よくだしは客車から白い粉の入った大きな袋を取り出した。


「グヒョヒョヒョ! 見ろぉおおおお!! コカインだぁああああ!! これだけあれば数百億は稼げるだろう。グフフ! わしは大金持ちなのさぁああああ!!」


「なるほどな。そうやって資金調達をするのか。本当に最低な男だな」


「グハハハ! 金を持っている人間が勝者なのさ!」


 そういってダークエルフの髪の毛を掴んだ。


「ほら見ろぉおおお!! 美しい褐色肌のエルフだぁああ! グヒョヒョヒョ。金があればなんだって手に入る」


 さてはアンダルハイヤーから誘拐してきたな。大きな怪我がないのは奴隷としてこき使うためだろう。


「どうだ? 報酬は1億だぞ! わしの仲間にならんか? なんならエルフの女を1人だけくれてやってもいいぞ。グフフフ」


「断る」


「ふん! バカが!! 貴様は底抜けのバカだ!! わしがなんの準備もしていないと思ったのか?」


「…………」


 金以外にあるのか?


  翼山車よくだしは大きな本を取り出した。


「グヒョヒョヒョ! これは魔獣王の法典。日本が唯一、保存しているSS級アイテムさ」


 ほぉ。

 世界中に9つあるとされているSS級アイテムか。

 しかし、


「国の管轄する国宝殿では窃盗のニュースはなかったがな」


「ブヒョヒョヒョ! 国宝殿のはニセモノさ。わしがすり替えて所有しているのだ!」


「ああ。罪状追加だ」


「バカが! おまえをここで殺してやる!!」


  翼山車よくだしが本を開くと、その中から強烈な光が飛び出した。


 光りが止むと彼の周囲には100体を超える骸骨の戦士が立っていた。


「へぇ……。モンスターが召喚できるのか」


「ブヒョヒョヒョ! このアイテムはモンスターを召喚して意のままに操ることができんだよぉおお!!」


 骸骨の体は金属だな。

 メタルスケルトンか。

 B級のモンスターだな。


「ブヒョヒョヒョォオ!! もう謝っても許してやらんぞぉおおお!! この数は貴様1人では捌けまい!! 激しく後悔しろぉおおお!!」


 俺の背後から斬撃が飛び出す。


多重斬マルチスラッシュ!! 10連斬!!」



ズバァアアアアアアアアアアアアアアンッ!!



 それは瞬く間にメタルスケルトンを殲滅した。


「な、なにぃいいいい!?」


「後悔する暇もなかったな」


 俺の背後の空間が歪む。

 それはゆっくりと姿を見せた。


「ちーむわーく」


 エリンの 透明化シースルーは射程距離20メートルである。

 その範囲ならば、なんだって透明にすることが可能なんだ。


 俺の後ろには大剣を構える 衣怜いれをはじめ、大和総理と、その他、エルフの女たちがいた。

  翼山車よくだしの秘書だった女たち。リーダーのディネルアを筆頭に彼女を支援するエルフたちが集まる。


「こ、このクソカスエルフどもがぁああああああああ!! わしを裏切りおってぇえええええええ!!」


 総理は目を細めた。


翼山車よくだしよ。裏切るってのは正確じゃないぞ。それは信頼があってのことだからな。おまえと彼女たちの間にそんな絆は1ミリ足りとも存在しなかったんだ。だから、裏切る要素は微塵も無かったんだよ」


「クソがぁあああああ!! 貴様ら全員、あの世に送ってやるわぁああ!!」


 そう言って、新しいページを開く。

 すると、再び強烈な光りとともにモンスターが現れた。

 

 今度のは1体だけ。

 両手に大きな斧を持った、鋼鉄肌の巨大ゴブリン。


「グヒョヒョヒョォオオオ!! S級モンスターのグレイトメタルゴブリンだぁああああ!!」


 やれやれ。

 こいつは暗奏でお世話になったな。


 壁、パンチ。



ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!



「へ?」


  翼山車よくだしが振り返ると、ダンジョンの壁には肉片と化したグレイトメタルゴブリンの遺体。


「い、い、い、い、一撃だとぉおおおおおおおお!?」


「その法典はまだモンスターが出せるのか? 全部殲滅してやるからさ。出してみろよ」


「あわわわわわわわわわわわわわ……!!」


「会話パートより、アクションの方が視聴者も喜ぶだろうしな」


「……し、視聴者だと?」


「ああ」


 と、親指を差した先にはコウモリカメラが浮かぶ。


「なにぃいいいいいい!? き、きさ、貴様ぁああああ!! 撮影していたのかぁああああ!?」


「もちろんだ。おまえの悪行はみんなに観てもらわないとな」


「み、みんな……だと?」


「生配信中なんだ」


「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」


 同接は……。


「1千万人か。 翼山車よくだし。人気あんのな」


 コメントは滝のように流れていた。


『ざまぁああああwwww』

『カメラに気づかずに悪行をペラペラとwww』

『全部流れてるよぉおおw』

『全世界に配信中w』

『REC』

『ハワイのオワフ島で悠々自適な余生とかざけんな!』

『オワフじゃねぇ、オワタだ!』

『なんこいつ。鉄壁さん、やってよし』

『局長って公務員でしょ? 狂人やん』

『エルフの敵』

『こ○していいよ』

『うん。やっちゃおう』

『氏んでよし』

『局長、完全に終了のお知らせ』

『余罪追求したら腐るほど出てきそうw』

『壁パンチおなしゃす!』

『壁パンチ……。いや壁キックで!』

『壁パンチ♪ 壁パンチ♪』

『正当防衛による制裁をお願いします』



 あーー。

 俺が壁パンチで気絶なんてさせたらもったいないよな。

 なにせ、こんな機会は2度とないだろうしね。


 かといって、このまま警察につきだすのはな。


 それは、絶対にあり得ないんだ。


 こいつがエルフたちにやった仕打ち。

 総理の信頼を裏切った行為は許すことはできない。


 さぁ、謝罪の時間だぞ。




 地上では、 須賀乃小路すがのこうじ カーシャがこの生配信を視聴していた。

 その目には涙を溜めて、全身はプルプルと震える。


「ああ……。ああああああ……」


 悔しさと感謝が入り混じる。


 彼女が 翼山車よくだしから受けたパワハラとセクハラ。

 そして、強引な解雇。

 絶望したあの時が、走馬灯のように脳内に流れる。


 その無念が、今晴れようとしているのだ。


「鉄壁さん。ありがとう……。ぐぅううううううううううッ!!」



────


次回も、 翼山車よくだしの断罪は続きます!

ご期待ください!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る