第103話 片井を訪ねてきたエルフ
〜〜片井視点〜〜
大和総理の後ろに控えていたのは、金髪の美しいエルフだった。肌は白磁のような輝きを放つ。長身でモデルのような体型。
その人は、
実は昨日、片井ビルに来たエルフは彼女だったんだ。
彼女が俺の元へ来た理由──。
時間は昨日に遡る。
「片井さん。実は、あなたを暗奏攻略の緊急対策会議に呼んだのは私だったのです」
……そういえば、局長は俺のことが眼中になかったな。
あれは1回目の会議の時だ。
『そうそう。片井くんだ。図書カードのね。ブヒョヒョ。君はD級だからね。なぜこの会議に参加しているのか知らんが、こんなレベルの高い案件に君程度の人間に頼んでは申し訳ないよ』
と言っていたな。その時に奇妙な違和感はあったんだ。
あれは本当に知らなかったんだな。
局長は本当に俺を呼んでいなかった。
俺を招待したのは秘書である彼女の独断だったのか。
ディネルアは詳細を話した。
2回目の会議には俺が呼ばれなかったが、それは探索自衛官の出動で安心していたかららしい。
しかし、1000人の自衛官は行方不明。3回目の会議をやることになって、彼女は再び俺を呼んだというわけだ。
「片井さん。暗奏の攻略。本当にありがとうございました。あなたを信じたのは間違いじゃなかった」
そう言って、深々と頭を下げる。
暗奏には3人のエルフが囚われていたからな。同族として心配したというわけか。
さて、そんな彼女だが、
「なぜここに?」
「あなたに依頼をしたくて来ました」
依頼だと?
「あなたにエルフたちを救って欲しいのです」
ほぉ。
エルフたちとは……。
「随分と事情がありそうだな」
「あなたなら、エルフの味方をしてくれると思ったのです」
そう言って資料を出した。
「それは?」
「
それはダンジョン探索者海外銀行の記録をはじめ、エルフの人身売買を行った顧客リストまであった。
おいおい。
これは極秘中の極秘資料じゃないか。
新聞の一面を飾る大ニュースになるほどの情報だ。
こんな資料を見ただけで、ただじゃ済みそうにないけどな。
「俺はまだ依頼を受けるとは言っていないが?」
「うう……。あ、あなたしか……。あなたしか頼る人はいないのです」
そう言ってボロボロと大粒の涙を流した。
……相当に辛い目にあったんだろうな。
「私たちエルフは
迫害か。
あの局長のことだ。相当に酷かったのだろう。
しかし、
「これだけの証拠があるのなら警察に駆け込めばなんとかなるんじゃないのですか?」
「うう……。
そう言って、上着を脱いで背中を見せた。
そこには赤く深い傷の数々。
う……。
これは、直視できない。
「この傷は私だけでありません。奴の秘書をしているエルフなら誰もが持っているものなのです……」
酷いな。
綺麗な肌が傷だらけじゃないか。
「あなたしか……。あなたしか頼れる者がおりせん。ううう……」
彼女の嗚咽と共に、客室の外からも嗚咽が聞こえてきた。
やれやれ。
同じエルフだしな。気になるのだろう。
扉を開けると、ジ・エルフィーのメンバーたちがドタドタと倒れ込んだ。
ネネは号泣していた。
「ず、ずみまぜん
俺はディネルアに頼んで彼女たちの同席を許可してもらった。
「悪いな。うちもエルフを雇っていてな。どうしてもあなたが気になるようなんだ」
「構いません。私たちエルフは心で繋がっているんです」
彼女はタブレットを机に置いた。
そこには局長室を隠し撮りしたという映像が映る。
『ブヒョヒョヒョ! 足を舐めろぉおおお!! 綺麗に汚れを舐めとるんだよぉおおおお!! ブヒョォオオ!!』
それはディネルアが局長の足の汚れを舐めとる悲惨な映像だった。
ジ・エルフィーの涙が止まる。
「信じられない……」
「酷い……」
「最低……」
「ゆ、許せないわ」
「ひ、酷すぎます」
俺だって同じ感想だ。
探索局でこんなパワハラが行われていたとはな。
他にも、鞭で打たれたり殴られたりする動画があった。
これだけの罪が警察を頼っても揉み消されるのなら、本当にやりきれない。
ジ・エルフィーのメンバーは、目に涙を溜めながら俺の言葉を待っていた。
やれやれ。
そもそも、局長の件は俺と総理で方をつけるつもりだったからな。
この資料は奴の犯罪を裏付ける決定的な証拠になるだろう。
彼女も助けられるなら一石二鳥だ。
「やるよ。局長は俺が捕まえる。そして、彼女に2度と手出しができないようにしてやるんだ」
すると、5人は俺に抱きついた。
「「 ありがとうございます!
「おいおい。抱きつくな」
大きな胸で揉みくちゃにされる。
うう。スベスベで柔らかい。そしてわずかなお香の香り。
本筋がブレるから離れてくれ。
彼女らは自分のことのように喜んだ。
「ディネルアさん。安心してくださいね。
「デェネルアさん、辛かったですよね。でも、
「
「
「元気出してくださいね」
ジ・エルフィーの優しい言葉にディネルアは更に泣いた。
彼女らは肌の色が違うエルフなんだがな。
ここまで同情できるもんなのか。
これはエルフがこの地球で住みにくい世界になっている証拠かもしれない。
ジ・エルフィーたちもこのビルに来るまでは辛い境遇だったしな。彼女の気持ちが痛いほどわかるのだろう。
「みなさん。ありがとう。本当にありごとうござます。うう……」
なんだか俺の目頭も熱くなってきたな。
いかん、もらい泣きしそうだ。
「か、片井さん……。ほ、報酬の件なのですが……。こ、こんなに難しい案件を持ち出しておいて大変に厚かましいのですが……。その……。あなたが満足できるほどのお金を、私が払えるかどうかわからないのです」
「ああ、そんなことか」
「で、でも! 一生、働いてでもお返しするつもりですから!!」
「いや、特に気にしなくていいよ」
「え!?」
別に金に困っているわけじゃないからな。
それに、彼女が用意してくれた資料だけで相当に助かっているんだ。
だから、
「無料でいい」
「む、無料ですか!?」
「うん」
「そ、そんな、いけません! エルフは受けた恩義は必ず返す種族なのです!」
「じゃあ、問題が解決してから考えてくれたらいいよ。特に大きなものは求めないからさ」
「…………」
「そう気負わないでよ」
「…………」
あっけにとられる彼女にネネが笑う。
「えへへ。普通の人と違うでしょ?
おいおい。
なに言ってんだよ。まったく。
それにしても、彼女が持ってきてくれた資料は助かるな。
これがあれば確実に局長を追い詰めることが可能だぞ。
終身刑もあり得るだろう。
「片井さん……。知っているとは思われますが、
「ああ、ですよね」
くの一の
「私はその居場所がわからなくて……。できることはこの資料を提供することくらいなのです」
「安心してくださいよ。俺の部下が既に奴の居場所を特定してくれていますから」
「それはすごい……! 政府の特殊機関でもわからなかったのに」
まぁ、その特殊機関を俺が譲り受けたんだがな。
「でも、どうして局長と接点のない片井さんが? 既に動かれていたのですか?」
「総理に頼まれてね。調べていたんですよ」
「す、すごい……!! もう大和総理と協力されていたのですか! 流石は片井さんだ!」
局長はピクシーラバーズにも関係があったからな。
エルフの件は探索局だけの問題でもないのさ。
「……で、では。片井さんにお任せしていれば安心ですね」
ん?
なんだか浮かない顔だな。
「まだ、なにか気になることでも?」
「……局長は警察に顔が利きます。逮捕された後が心配なのです」
なるほど。
逮捕されても簡単に釈放されたら意味ないもんな。
「安心しておいてくださいよ。この証拠書類があれば大丈夫。とことんやってやりますから」
奴には、それ相応の罰を受けてもらう。
絶対に許しはしないさ。
「ディネルアさん。あなたも協力してもらえますか?」
「もちろんです! 私にできることならなんだってやります!」
「じゃあ、まずは、ピクシーラバーズに行きましょうか」
「……そこは既に調べが終わっているようですよ。警察の捜査では見つからなかったといわれております」
「いや。局長の悪事を明白にするには周りから抑えるのが大事なんですよ」
と、いうわけで、俺は
これは新しくゲットしたスキルで、想像した映像を物体に転写できる便利な技なんだ。
加えて、
俺は、エルフの少女マオンに変身したというわけだ。
──時は現在に戻る。
「さぁて、
加えて、総理の姿が追い打ちをかけているようだ。
彼は床に膝を付いた。
「あああああ……。そ、そんなぁ……」
ディネルアの後ろからピクシーラバーズのエルフたちがぞろぞろと押し寄せて来る。
エリンをはじめ、みんなが
「お、おまえたち……。そ、そうだ! おまえたちが総理になんとか言ってくれ!! 私は館長だぞ!! 今まで、おまえたちの面倒を散々見てきてやったじゃないか!! 今こそ、その恩義に報いる時だ!! これは命令だぞ!! 早くなんとか言えぇえええええええ!! 俺を助けろぉおおおおおおお!!」
────
次回。
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