第99話 片井とくの一
くの一の
「は!」
いや、かしこまってる場合じゃないって。
48人の転職先が俺の会社って。
しかも、全員がくの一だと!?
総理は酔ってるのか?
「あの、話しが見えないのですが?」
「片井殿に、彼女らの面倒をみていただきたい」
「え!?」
「どうか……」
と、深々と頭を下げた。
いやいや。
「あの、急にそんなことをいわれても……」
「容姿端麗、三面六臂。語学堪能、道心堅固。彼女らは私の誇る忍者の一族なのだ。愛国心が強く、守秘義務を徹底する。部下にするならば文句なしの人材だろう。今回の暗奏の件でも、素晴らしい活躍を見せてくれたのだ」
そんな人材を俺に?
「どうか面倒を見てやって欲しい」
いや、待て待て。
「さっき、内定が決まっているって言いませんでした?」
「忍者は主を選ぶ者なのだ。決して、権力や腕力に屈したりはない。忍びの美学によって己れが進む道を決めるのだよ」
大和総理はこれでもか、というほどに痛快な笑みを浮かべていた。
一体、なにがそんなに面白いのか?
「では、聞こう。
「恐れ多い」
そう言って、俺の前にひざまづいた。
「片井様。暗奏の件は忍者の里を代表して心より感謝申し上げます。
忍者も生配信を観るのか……。
「でもさ。せっかく決まった就職先を蹴って俺の所に来るなんて、なんだか気が引けるよ」
「大義のためならば致し方ありません。それに、もしも、里にあなた様に仕える希望を出したならば、希望者が殺到して、混乱を招くことでしょう。せっかく平和協定を結んだ伊賀と甲賀が大混乱になるかと。最悪、内乱の勃発も想定されます」
はい?
忍者同士が俺の会社に就職したくて争うってのか??
「ハッハッハッ! 片井殿! 忍びに惚れられたなぁ!!」
「いや、笑いごとじゃないです」
「ふふふ。忍者の里とは私が懇意にしていてな。この国のために暗躍する本当に信頼できる存在さ。そんな忍者にあなたは愛されたのだよ。これは断れないのではないかな?」
うーーん。
守秘義務を徹底するフリーの忍者か。
どう考えたって使える社員になるよな。
「片井殿。これが
う!!
全員の年齢が17歳から18歳。
容姿端麗に偽りなし。全員美少女だと!?
「総理。これは!?」
「高校生の勉学とともに宮仕えもやってもらっていたのさ。なにか不満がおありかな?」
「…………」
いや、不満はないけど……。
「では片井殿。どうぞ、彼女らを宜しくお願いいたします」
と、再び深々と頭を下げる。
礼をいうのはこっちの方なのにさ。
優しい人だなぁ。
「ありがとうございます。しっかりと面倒見させていただきます」
これで有能な社員が48人も増えた。
支店開業の日は近い。
安心したのも束の間。
話しは怪しい方向へと進む。
「片井殿。実は気になることがあってな」
その表情は先ほどの穏やかなムードとは明らかに違った。
国を護るリーダーの目だ。
「探索局、局長の
「局長が? 暗奏の問題は終了したのに」
「実はな。
その詳細は衝撃的なものだった。
彼が総理をはじめ、国民を騙し売国していたこと。日本滅亡とともに暴利を貪ろうとしていたこと。その全てを聞かされる。
そんな人間が行方不明になった。
現在、指名手配中である。
やれやれ。
暗奏を攻略してから取り組みたかったのはピクシーラバーズのことだったんだがな。どうやら、館長の
「えーーと。雅さんだっけ?」
「敬語は必要ありません。ただ、
「うん。じゃあ雅。早速動いてもらってもいいかな?」
「使っていただけるのですね! 光栄至極に存じます。どうぞ、なんなりとお申し付けくださいませ。我ら忍びの者。全力で片井さまにお仕えいたします」
「ありがとう。じゃあ、早速だけど
「申し訳ありません。全力を出しているのですが見つからない状態が続いております」
そうか、総理もすでに忍者たちを使っていたんだな。
しかし、敵はただものじゃないからな。
総理を騙し、巧妙な策で国を危険に晒した人間だ。
環境省の錬金術師、なんて異名だって持つほどだ。
そう簡単に尻尾は掴ませないだろう。
なら、
「
「はい。周辺の関係者も入念に調べるように手配しております」
「なら、1人に集中させて欲しい」
「は? ひ、1人でございますか?」
「ピクシーラバーズの館長、
「お言葉ですが、既に数名の忍びが調べているようです」
「うん。それを全力でやるんだ。特に金の流れを追って欲しい。ダンジョン探索者海外銀行を中心に探索を頼む」
「はい」
「逃亡には資金がいるはずだ。
雅は一瞬だけニンマリと笑ったかと思うと、威勢のいい返事をした。
「御意!」
シュンッ!!
あ!
消えた!!
すごいな。
地上では転移魔法なんて使えないのにどうやって姿を消したんだろう?
悪い癖で、考察してしまう。
すると、廊下に見慣れない女中の姿があった。ゆっくりとこの部屋から遠ざかって行く。
なるほど、瞬時にして女中に変装したわけか。今声を掛けたらめちゃくちゃ気まづいだろうな。これは見なかったことにしておこう。
大和総理は満足気。
「ふふふ。雅が笑むか。あっぱれだ片井殿!」
「なんのことです?」
「忍びが笑う時は、感服した時と
「へ、へぇ……」
侮蔑じゃないよな?
なんか自信がないんだけど。
「片井殿は指示が具体的だな。さては、なにかを調べていたな?」
「ええ。ピクシーラバーズの実態調査を個人的に」
「ほぉ。私も何度か間者を送って調べたのだがな。
「人間を使ったのですか?」
「ああ、忍者だな」
「俺はエルフを使いましたよ」
「なに!? そうか! エルフなら侵入が容易!
「そのようですね」
「うむぅ! 流石は片井殿だ! あっぱれ!!」
「ピクシーラバーズの実態は酷いものでした。早急に対策が必要かと」
「ふむ。どのような状態だったのだ?」
「今日はリアルな実態を聞けるチャンスですよ。エリン。ちょっとこっちに来てくれないか?」
総理はエリンを通じてピクシーラバーズの現状を知った。
エリンは話した。
「私はね。商談が成立したらね。海外の金持ちに売られる予定だったの」
小さな少女がいう言葉ではない。
総理は仁王のように凄まじい形相を浮かべていた。
「片井殿。この怒りは自分の不甲斐なさに向けてだ!」
彼はエリンに向かって深々と頭を下げた。
「対応が遅れてしまい。すまなかった」
本当に熱い人だなぁ。
そして、俺を見つめる。
「片井殿。ピクシーラバーズの件。私も協力させていだきたい」
「総理が手伝ってくれるならありがたいです」
「うむ! 片井殿! いざ、悪役退治と参ろうぞ!」
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