第98話 総理からのプレゼント
俺は大和総理に食事に誘われていた。
その参加者なんだけど。
暗奏攻略に尽力したメンバー。ということらしい。
そうなってくると社員一同なんだよな。
なので、俺と社員以下17名を食事に参加させることにした。
総理は全員を心よく引き受けてくれた。
そこはお座敷タイプの豪華な料亭で、政治家や金持ちだけが入れる会員制の場所だった。世界の美食家が集う、ミジュランガイドでも3つ星評価のお店。世界のグルメが憧れる和食専門店だった。
そんな場所を貸切である。
流石は総理。太っ腹だ。
あと、現地で合流する人が3人いるんだよな。
1人はエルフの少女エリンだ。
今日もツインテールが似合っている。
俺を見るなり抱きついてきた。
「お兄ちゃん!」
エリンは、自分のお母さんを助けるために暗奏に1人で乗り込んだ勇敢な女の子だ。その可愛い見た目もあって、世界中にたくさんのファンがいる。
彼女のおかげで俺の生配信は世界的に有名になったといってもいい。エルフの保護団体が俺を応援してくれて世界規模の支援活動へと繋がったんだ。チャンネル登録者を爆増させたのは彼女の存在が大きいだろう。その配信料金は計り知れない。
「可愛い服を着てるじゃないか。さてはオシャレをして来たな」
「エヘヘ。だって、お呼ばれだもん」
「似合ってるぞ」
「ウフフ。ありがとう。お兄ちゃん。会いたかった」
と、その小さな頬をこすりつける。
スベスベでモチモチ。
エリンって相当に美少女なんだよな。
こんな可愛い子が自分の子供だったら、その親はさぞや自慢だろう。
世界中にファンクラブができつつある。
彼女なら、俺の芸能事務所が間に入ればたちまちスターになれるだろうな。歌と踊りはどうだろう? ゲーム実況なんかも面白いかもしれないぞ。
って、いかんいかん。
ついついプロデューサー目線で考えてしまった。
悪い癖だよな。
そういえば、
「今日はどうやって来たんだ?」
「イッチーお姉ちゃんが車で連れて来てくれたの」
「そかそか」
彼女の後ろにはパーティードレスに身を包んだ自衛官が2人。
イッチーと桐江田一尉である。
「片井さん。暗奏の件はありがとうございました。改めてお礼を申し上げます」
「俺だけの力じゃないさ。イッチーもいたからオメガツリーが倒せたんだ」
「また会えて嬉しいです」
「俺もだ」
イッチーの後ろに少女が隠れていた。
顔を赤くしてこちろの状況を伺っている。
えーーと……、見た目は子供だが……。
彼女は桐江田一尉だよな?
暗奏突入の際に強気な指示を出していた人だ。
なんだか、あの時とは雰囲気が全然違う……。
顔を真っ赤にして、その辺にいる小学生の女の子みたいだ。
「えと……。桐江田一尉もお疲れ様でした」
「あ……。あのあの……」
「はい?」
「て、て、て……。鉄壁さんですか?」
ああ、そういえば、彼女には俺の素顔を晒してなかったな。
「はい。俺が鉄壁です」
そう言うと、彼女は全身を真っ赤にした。
「う、うはぁぁ……。か、かっこいい……」
どうなってんだ?
もっと強気な人かと思ったんだけど??
「き、き、き、き、桐江田……。も、も、萌です」
なんでこんなに緊張してるんだ?
俺が喋りにくいオーラを発しているのだろうか?
イッチーが俺に耳打ちする。
「彼女は片井さんのファンなんです」
そういえば、なんかそういう話は聞いていたな……。
「あとで、イレコさんと連名でサインを書いていただけますか?」
やれやれ。
俺のサインなんてただ普通に名前を書くだけで面白みもなにもないんだがなぁ。
料亭は座敷からは美しい庭が見えていた。
池は淡くライトアップされており、そこに泳ぐ鯉がなんとも優雅だ。
ジ・エルフィーのメンバーたちは大はしゃぎ。
ネネは大きな鯉を指差した。
「エリンちゃん。見て見て、綺麗な魚だよ」
「うわぁ、本当だ〜〜」
鑑賞用の鯉を見るのは初めてみたいだな。
ふふふ。こういう所に来るのは俺もはじめてだが、エルフたちにとっても刺激的だろう。
豪華な料理が並ぶ中、総理は盃を持った。
「片井殿をはじめ。暗奏の攻略に尽力してくれた方々に厚くお礼を申し上げる。この国を救ってくれて本当にありがとう。平和を祈念してここに盃を重ねたい。乾杯!」
「「「 乾杯!! 」」」
食事会が始まった。
大和総理は気さくでいい人だ。
よく笑って、優しい。時には下ネタだって話してしまうような陽気さもある。
とても、白装束に身をまとって切腹を覚悟していた人には思えないな。
「片井殿。あなたの部下は素敵な人材ばかりですね」
「ははは。そうですね。みんなが俺を助けてくれるので、いつも感謝していますよ」
「しかも、全員が美人、美少女ときている。羨ましいかぎりだ」
「ははは……」
それは不可抗力なんだがな。
どういうわけか女性ばっかりなんだ。
そういえば……。
「この席には
「ええ。彼にも声はかけたのですがね。自分なんかがと、随分と恐縮されて辞退されましたよ」
そんなに卑下することないのに。
「近々、あなたには国民栄誉賞を授けたいと思っているのですが……迷惑でしょうか?」
「おお……。恐れ多いです。できれば無しの方向で頼みます」
そんなことをされたらめちゃくちゃ目立つじゃないか。
ただでさえ目立ち始めているのに拍車をかけてしまうよ。流石に辞退させてもらおう。
「なにか、私にできることはありませんか? この国を救ってくれたお礼がしたいのです」
「この食事で十分ですけどね」
「ははは……。まいったな。あなたは欲のない人だ。それを本心で言っている」
そりゃあな。
今回の暗奏の攻略。その恩恵は計り知れないんだ。
配信に携わる収入はもちろんのこと。新スキルの取得。激レアアイテムゲット。
チャンネル登録者は爆上がりで、いいこと尽く目なんだよな。
これ以上、なにを求めるっていうんだよ。
「うう。もどかしい。あなたに受けた大恩の返し方がわからぬ。ぐぬぅうう」
ああ、なんか怖い顔つきだ。
「ははは……。ま、まぁそんなに気にしなくていいですよ。総理は総理でこの国を護ろうとしたんですから。適材適所。お互いの仕事を全うしただけですよ。そこに恩義とかないんじゃないですかね。なのでね。ははは。気楽にいきましょうよ」
「鉄壁殿ぉおお!!」
「は、はい」
「今回の食事を機会に懇意にさせてもらっても良いだろうか?」
「はい?」
「私は、あなたがすっかり好きになってしまった!!」
「……お、俺にそっちの趣味はありませんが?」
「安心してくれ。私には愛妻がいる。今度、紹介するつもりだ。そんなことより、男が男に惚れるとはこういうことなのだよ片井殿ぉ!」
「酔ってます?」
「あなたという男はぁああああ!! なんというか、透明感なのだ。一切の雑味のない優しさ。そして、圧倒的な強さを秘めている。むぐぅうう!! あなたは人を惹きつける魅力があるのだぁああああああ!!」
「落ち着いてください」
俺は鼻息を荒げる総理をなだめた。
この人は熱すぎるな……。
総理は携帯を取り出した。
「連絡先を交換しないか!?」
えええええええ……。
総理大臣にナンパされた……。
まぁ、この人のことは嫌いじゃないからな。
別にいいけどさ。なんていうか、パワーが本当にすごいんだ。
ピロリン……。
赤外線通信でアドレス交換。
総理大臣とやっちゃったよ……。
大和総理は画面を見ながらニヤニヤしていた。
本当にナンパが成功した男を見てるようだ。
やれやれだなぁ……。
総理との酒が進む。
お互いにかなり砕けてきた。
やがて、話題は俺の構想に入った。
「なるほど! では支店を作るのが片井殿の目標か」
「まぁ、ボチボチやっていこうと、そんな風に考えてます。資金はなんとかなりそうなんですけどね。いかんせん人材を集める方法が思いつかなくて」
「うむ。では、私に協力させてもらえないかな?」
え?
「支店建設の費用は全て私にもたせていただこう」
「あ、いや。悪いですよ」
「遠慮は無用。あなたはこの国を救った英雄だ。金銭面で援助するのは当然のことだよ」
「はぁ……。じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
彼はニコリと笑った後に、
「次は人材か……」
「ええ。こればっかりは中々……。俺は正体を隠してますからね」
「私は守秘義務を徹底した秘密の組織を配下にしている」
「へぇ……」
流石は総理だな。
しかし、そんな重要なことを俺に話してもいいのだろうか?
「伊賀忍者と甲賀忍者。聞いたことはあるかな?」
「ええ……。そりゃあ、漫画とかゲームで人気の職種ですよね。伊賀と甲賀といえば互いにライバルだ」
「三重県の伊賀流。滋賀県の甲賀流といってな。互いは争っていたのたが、今は時代の流れでな。両一族は協力しているんだ。その者らが、私の配下なのだよ」
「おお……。なんかすごいですね」
忍者が実在してるってのも驚愕だがな。
「2つの流派を混在させた、私だけの秘密組織。大和忍び組という。総勢千人を超える影の部隊だ」
おお、なんかカッコいいな。
総理はパンパンと手を叩いた。
すると、黒装束の女が現れる。
「大和さま。お呼びでしょうか」
「うむ、
「は! 私を含めて48人です。奇跡的にくの一ばかりで、忍び組の中ではくの一
なんだなんだ?
「大和忍び組は卒業制でな。世界に優秀な人材を輩出するに為、数年に一度、宮仕えを卒業するのだ。卒業生らは各業界に転職して忍者の里とパイプラインを繋ぐんだ」
「へぇ……。な、なんかすごい話ですね」
「卒業生は内定が決まっているのだがな」
と、ニヤリと笑った。
「雅よ。
「は! 話しの流れで大方察しておりました」
「うむ。これより大和忍び組、くの一
はいい?
────
次回より、断罪に向けて話が動き始めます。
乞うご期待!
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