第93話 宝箱の中身

 俺と 衣怜いれは片井ビルに帰った。


 俺の帰りをジ・エルフィーのエルフたちが出迎える。

 ネネは荷台の宝箱に興味深々だ。


「うわぁ。これってオメガツリーが 落とドロップしたアイテムですよね!」


「ああ。中を確認したいからな。2階の会議室に持って行ってくれ」


「「「 承知しました! 」」」


 エルフたちは宝箱を会議室へと運んだ。


 事務所の社員たちも興味津々。

 紗代子さんまで2階にやってきていた。


 そりゃそうか。

 オメガツリーは歴代最強クラスのモンスターだからな。そんな怪物が落としたアイテムだ。誰だって気にはなる。


 さて、中身はなんだろうな?

 

「鍵がかかってないといいが……」


 みんなが集まる中、俺は宝箱の蓋に手をかける。


ガチャ……。


 良かった、どうやら鍵はかかってないみたいだ。




ギィイイイイイイ〜〜。




 中には4つのアイテムがあった。


 ほぉ……。


 棍棒っぽい物。

 腕輪。

 指輪。

 分厚い本。


 これは……?


「まったく見たこともないアイテムだな」


 試しに、携帯で写真を撮って画像検索をかけてみる。


「ヒットしないな」


「社長。探索者の公式ホームページにもこれらのアイテムは掲載されておりません。ダンジョン美術館でも同様ですね」


 ダンジョン美術館といえば、 翼山車よくだし局長が裏で手を引いてる探索局の管轄だな。

 国の権限でレアアイテムをただ同然の格安で仕入れてるんだっけ。

 そんな所でも情報がないアイテムか……。


「もしかして、新しいSS級アイテムかな?」


 世界でも9つしか確認されていないSS級アイテム。


「その可能性は十分に考えられますね。これら4つは世界でたった1つの希少種かもしれません」


 と、なると、これ1つで100億円以上の値はつくのか。


 紗代子さんはノートパソコンを叩く。


「アイテムの能力によっては数千億にはなるでしょうね。場合によってはもっとかも」


「もっと?」


 つまり……。


「兆です」


「ちょ、兆……」


 それはすごすぎるな。


 会議室はさっき暖房を入れたばかりでまだ肌寒い感じなのにな。

 みんなはじんわりと汗をかいていた。


 さぁて、一体、どんなアイテムなんだぁ?

 

「この本は何語だろう? 絵は宝箱に入っていた3つのアイテムにそっくりだが」


真王まおさま。ちょっとよろしいでしょうか」


 ネミは、本をペラペラと捲って、うんうん、と頷く。


「これはアイテムの説明書みたいですね」


「へぇ。文字が読めるのか?」


「古代魔字です。魔族が使う言語ですね」


 ネネは自分のように自慢した。


「ネミ姉さまは魔道具の勉強をされていたんです。村でも一番に頭のいいエルフでしたよ」


 ほぉ、それは心強い。

 

「説明書ってことは、アイテムじゃないの?」


「はい。この古文書はこれら3つのアイテムを解説した説明書ですね」


 ふむ。

 じゃあ、レアアイテムは3つってことになるな。


「じゃあ、ネミ。この3つのアイテムの使い方がわかるか?」


「少々お待ちください……」


 しばらくして、彼女は棍棒のような棒を持った。


 まず、1つ目だな。


 形は武器に見えなくもない。

 先端が若干太いんだ。

 ずっしり重い。

 燻んだ黄金色。

 材質は金かな?

 それだけでも売ったら高値がつきそうだけどな。


「これはドアノブのようですね」


「へぇ……。随分とデカいノブだな。それにしても扉はないが?」


「説明書によるとですね……。このアイテムを使えば、自分が入ったダンジョンならどこにでも行けるようですよ」


「へぇ……。それは便利だそうだな」


「名前が……。どこでもダンジョン、というそうです」


「魔族が作ったにしては、随分とファニーな名前だな」


「私がわかりやすく訳しているだけですね。難しい感じで訳すなら「選択制地下空間転移装置」でしょうか」


「うん。『どこでもダンジョン』にしようか。その方が周囲の人もよくわかるしな」


 なにより、愛着が湧くんだ。


「ネミはネーミングセンスがあるのかもしれんな」


「……ありがとうございます。最近、青い狸のアニメにハマってるんです。その影響かもしれません」


 多分、それは猫型のロボットだと思うんだがな。

 まぁ、楽しく観てるならいいだろう。


「よし。んじゃあ、どうやって使うんだ?」


「壁にくっつけるみたいですね」


「ふむ。じゃあ、このドアノブを……くっつけるっと」


ピカーーーーーーーーーー!


 うぉ!

 眩しい!!


 すると、壁に扉が出現した。

 横に一覧表が浮かび上がる。

 どうやらダンジョンの名前らしい。

 これは俺が入ったことのあるダンジョンかもしれないな。


「ダンジョンは……。100くらいありそうだ」


  衣怜いれは小首を傾げた。


「おかしくない?  真王まおくんは300以上は駆除してると思うよ?」


「説明書によると、駆除されたダンジョンには行けないようですね。現存しているダンジョンに限定されるようです」


 ふむ。

 そりゃそうか。

 駆除して消滅したダンジョンには行けんわな。

 このアイテムで暗奏に行けてしまっては大変だからな。

 つまり、


「攻略中のダンジョン。もしくは、攻略したのに消滅しない定着型ダンジョンだけってことだな」


「そういうことです」


 ダンジョンは、出現してからダンジョンボスが倒されるのに年数が経ってしまうと定着してしまうんだ。


「また、一度でもダンジョンに入れば、 真王まおさまの体に情報が記憶されますので、それをこのアイテムが読み取るようですね」


「つまり、このドアノブを持った者が行ったことのあるダンジョンだけが表示されるというわけか」


「はい」


 じゃあ、攻略途中でテントを張る必要がなくなったな。


「これなら探索途中で家に帰れる」


「あーー。でも私はちょっと残念かな。 真王まおくんとテントを張って野営するのってアウトドア感覚で好きだったんだけどな……」


「ははは。まぁ、気分が向いたらテントを張ればいいじゃないか。アウトドア感覚も大切だよ。それより、汚れた体を片井温泉で洗えるのはデカくないか?」


「ああ、それは大きいかもね! モンスターの返り血とか拭き取るのが大変だもん。そう考えたらすごく便利だね!」


 それにしても、


「融通が効いてるのはこの一覧表が日本語表記ってところだな」


「持った人の情報が反映されるようですね。名称の書き換えも自由にできますよ。上から順番に弱い順に並んでいます。一番下が現存する最強のダンジョンですね」


 ふむ。

 これを使えばどこでも好きな時にダンジョンに行けるようになったな。


「どこでもダンジョンか。最高のアイテムがゲットできたよ」


 さて、次はなんだろう?

 小さな……腕輪かな?


「続いて……。こ、これはすごいですよ。名前をつけるならそうですね……」


 おお、ネミのネーミングセンスに期待が高まるな。


密偵腕輪スパイバングルですね」


 みんなは目を瞬かせた。

 名前と意味が繋がらないな。


 バングルって、確か、留め具のない腕輪って意味だよな。

 そうなると、前の言葉がわからん。


「スパイって敵陣を調べる間者のことだよな?」


「はい。それです」


 ほぉ……。


「一体、どんなアイテムなんだ?」


 世界に1つしかないレアアイテム。

 これは期待せざるを得ないぞ。

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