第92話 攻略その後。宝箱を取りに行こう

 片井ビル3階。VIPルームにて。


  須賀乃小路すがのこうじ カーシャは目を覚ました。


ガバッ!


「はっ! 鉄壁さんは!?」


 西園寺はコーヒーを入れながら、


「おお。起きたか。私も今起きた所なんだ」


「鉄壁さん……。片井さんは帰られたのでしょうか?」


「ああ。朝の5時前くらいかな」


 カーシャが時計を見ると11時である。


「あ……。えーーと、社長はお出迎えされたのでしょうか?」


「まぁな」


「も、申し訳ありません! 爆睡してしまいました!」


「ははは。別にいいよ。カーシャも色々と動いてくれていたしな」


 彼女は片井の生配信を見ながら、ノートパソコンを開いて仕事をしていた。

 暗奏周辺の不動産に関すること、暗奏の被害など、西園寺不動産は仕事が山盛りだったのである。


「えっと……片井さんはぁ……」

 

 と、天井を見上げる。


「ああ、このビルの5階が彼の住居だからな。そこでぐっすり寝てると思う」


「そ、そうですか……」

(い、今からなら会いに行ける……)


「激戦だったからな。今は休ませてやってくれ」


「ですよね……」


「会いたかったのか?」


「ええ、まぁ……」


「ふふ。いつでも会えるさ。コーヒー飲むか?」


「は、はい。ありがとうございます」


 テレビをつけると暗奏攻略の話で持ちきりだった。

 傍らにスマホを開くと、ネットでも同じような感じ。

 ヅイッターのトレンドは全て暗奏絡み。その話題の中心は全て鉄壁さんだった。


 テレビでは面白おかしく報道する。


「今回の暗奏攻略。図解で説明しますと、こうなる訳です。つまり、鉄壁の探索者、こと鉄壁さんがダンジョンボスを倒して、日本を救ったということですね」

「しかしぃ。鉄壁さんとは一体何者なんでしょうね?」

「侍ですわ! この国に本物の侍がおったんですわ!」

「私、思うんですけどね! 彼には国民栄誉賞を与えてもいいと思うんですよ!」

「正体不明の男に国民栄誉賞ですか? 前代未聞ですな」

「あたしぃ〜〜。鉄壁氏は彼ぴっぴにしたい〜〜。的なぁ」

「鉄壁さんは、政府の関係者という噂もありますね」

「それはないんじゃないですか? 総理とは初対面でしたしね」

「鉄壁さんの窓口はコスプレイヤーでもあるイレコさんが担当しているようですよ」


 そんな訳で、鉄壁さんは渦中の人となっていた。片井ビルは朝から大忙し。社員は総動員である。事務所内は引っ切りなしに電話が鳴り響き、ファックスは用紙を補充しても直ぐに空になってしまうのだった。


 西園寺とカーシャは片井温泉にゆっくり浸かってから、会社に戻ることにした。

 暗奏があった土地は西園寺グループの管轄である。よって、彼女たちも仕事が山積みだったのだ。

 カーシャは後ろ髪を引かれる思いだった。


(片井さん……。どんな人だったんだろう……)





〜〜片井視点〜〜



 15時過ぎ。

 俺と 衣怜いれは目を覚ました。

 

 ぐっすり寝て、疲れは取れたな。

 下はどんな感じかな?

 ちょっと降りてみようか。


 俺と 衣怜いれはエレベーターに乗って事務所の様子を見に行った。


 事務所の机にはファックスの用紙が山積みになっていた。


「すげぇなこれ……」


「ああ、社長。おはようございます」


 と挨拶をしたのは紗代子さん。

 口にはサンドイッチを咥えて、部下に指示を出していた。


「もう起きて大丈夫なの?」


「私も、今さっき起きたところなんです。今朝は申し訳ありませんでした。とんだ失態を見せてしまって」


「そんなのはいいけどさ。この山……。すごいね」


衣怜いれちゃんの取材が殺到してるんです。鉄壁さんの窓口になってるので」


「なるほど」


  衣怜いれは生配信で顔出しをしてるからな。取材が集中するのは当然か。


「テレビの出演依頼が殺到していて、再来年まで予定が詰まりそうな勢いです」


「さ、再来年まで?」


「それだけじゃないですよ。CM契約の話やグッズ販売に至るまで、ありとあらゆる依頼が殺到しています。西映からはアニメ制作の依頼が来ていますし、他にも大学の講義、自伝執筆依頼。映画出演。バソダイからはフィギュアとゲーム化の話もありますね」


 ひぃえ〜〜。


「じゃ、じゃあ今から俺がそれらを精査するのかな?」


「まさか! ファックスを読むだけでも日を跨ぎますよ。なので、社長と 衣怜いれちゃんはゆっくり休んでいてください。仕事は落ち着いてからで構いませんから」


 流石は紗代子さんだな。

 良い部下を持ってしまった。


 ……おや?

 なにかおかしいと思ったら、片井ビルのシャッターが閉められてるのか。


「シャッターはわざと?」


「取材の防止です。ちなみに外の看板にはブルーシートを掛けてます。そうしないと、片井ビルに取材陣が押し寄せてしまうんですよ」


 なにからなにまで仕事が早いな。

 それでいて先手を打って的確だ。

 本当に紗代子さんを部下にして良かった。


「それと社長。外に出る時は気をつけてください。取材陣がこの周辺を彷徨いてますからね。片井ビルの名称は伏せてますから、このビルに取材陣が殺到することはないと思いますけどね。念には念をです」


「うん。じゃあ、当分は地下の駐車場から出るようにするよ」


 俺と 衣怜いれは地下の駐車場に向かった。

 そこにはオートマの軽トラがある。

 

 物品搬入用に買っといた社用車なんだがな。

 もっぱら、使うのは紗代子さんとか、西園寺グループからの出向社員たちだ。


 まさか、俺が使うとは思わなかった。


 俺は助手席に 衣怜いれを乗せて軽トラを走らせた。


「どこに行くの?」


「ふふふ。ダンジョンだ」


「え、もう?」


「探索するわけじゃないよ。ダンジョンに入らないと確認できないことが2つあるからね」


「あ! わかった。新しく覚えたスキルだね。……あれ? もう1つは?」


「君の収納スキルに入れておいた宝箱さ」


「ああ! オメガツリーを倒した時に 落とドロップしたアイテムだ」


「うん。中身が気になるからね。今から取りに行こうと思う」


「あは! だから、軽トラなんだね」


「ああ」


「オートマって快適だね」


「ははは。エンストしないからな」


「ふふふ。私はエンストしても 真王まおくんの運転なら嬉しいけどね」


「……んじゃあ、今度、車買おうかな」


「やったーー! ドライブだ!」


 まぁ、車はあっても困らないよな。

 社用車を増やそうかな。

 ジ・エルフィーのメンバーが車の免許を取りたがっているから、彼女たちに買ってやってもいい。

 そうすれば、もっと会社が発展するな。

 ふふふ。やりたいことが次から次に浮かんで来るから楽しいや。


 俺たちはC級ダンジョンに到着した。


「探索するわけじゃないからさ。入り口付近で宝箱を取り出したら軽トラに運ぼう」


 スキルが使えるのはダンジョンの中だけだからな。

  衣怜いれの収納スキルを発動する。

 取り出したのは宝箱。

 なんとか俺1人でも運べる大きさだ。


 でも、軽トラの荷台に乗せるのは 衣怜いれに手伝ってもらう。


「よいしょっと」


 無事、積載完了。


「…………」


 脳内には新しいスキルの名前がうっすらと浮かんでいる。

  衣怜いれもそれを感じているようだ。


 効率を考えると、今ここでスキルの確認をしてる方がいい。

 ダンジョン内でしかスキルが使えないからな。

 でも、確認には時間がかかるし、どこまで気軽にできるかわからない。

 それに今は私服だしな。簡単なことから済ませていきたいよ。

 なにごとも1つづつ解消するのが大事だと思う。


 はやる気持ちを落ち着かせてっと。

 

「片井ビルに帰って、宝箱の中身を確認するか」


「うん!」


 さぁ、宝箱の中身はなんだ?

 

 オメガツリーはダンジョン始まって以来の最強のモンスターだったからな。

 そんな怪物が落としたアイテムだ。

 これは期待できるよな。

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