第90話 鉄壁さん VS オメガツリー
〜〜片井視点〜〜
俺たちは、地面から上空80メートルにいた。
オメガツリーの頭頂部128メートルまで、あと48メートル。
イッチーはスキルを発動させた。
それは光り輝くロープ。
彼女はそのロープに身を委ね、弓のようにしならせる。
「行きますよ!
ギュゥウウウウウウウウウウウン!!
『ぐぬぅうう! させるかぁあああ!』
おっとそうはいかない。
「
『ならば、
「
俺は全ての攻撃を防御した。
俺が防御に全振りすればイッチーは問題なく登頂部に到達する。
『愚かな人間よ。それで勝ったつもりか。我の本当の力を見せてやろう』
本当の力だと?
『
やれやれ。
通常の攻撃なんぞ、ノーマルの魔法壁で防御できてしまうとうのに。
100倍の魔法壁にかき消されて終わりだよ。
『フハハ! 甘いわ!
なに!?
そのスキルは……。
確か、
『フハハハ! 我は吸収した人間の力を我が物にできる。
やれやれ。
「随分とチートだな」
『グハハッ!! これが我の本当の力だ!!
今度は
イッチーは暴風魔法を喰らってダンジョンの壁に激突した。
「きゃああああッ!!」
「イッチー!」
「だ、大丈夫!
彼女は鞭を使ってダンジョンの壁に捕まり、なんとか落下を防止する。
「しかし、これ以上、上には上がれなくなってしまいました!」
「大丈夫。俺が行く」
あとは俺が登るしかない。
『フハハハ! そうはいくか。無効化される魔法壁でどうやって
「やってみなくちゃわからんだろう」
『
「本気なんてよくいうよな。他人の技を使ってる癖にさ」
『黙れ無能! 我は万能な上位種なのだ。下等な人間は我に吸収されて、力を使われることを光栄に思うがいい』
「ああ、おまえ、考え方が完全にヤバイ奴だな。そういうのを自己中っていうんだぞ。彼女ができたら暴力を振るうタイプだ」
『なにを戯言を! 貴様も吸収して、その防御魔法を我の物にしてやる!」
「できるもんならやってみろ」
『なにぃ!?』
俺は今、地面から80メートルは登っただろう。
そこから上へはオメガツリーの攻撃が激しくて登れない……。
俺はな。
「俺たち人間を舐めるなよ」
タタタタタタタタタタタタタタタタタッ!!
『な、なんだ!? この音は!? か、階段を駆け上がる音だ。ど、どこから聞こえてくる!?』
「さぁ、どこからだろうな?」
それは地面から100メートル。
空気の歪みが出現した。
「おっと。20メートルが射程距離だったからな。姿が見えてしまうか」
俺が抱えているのも空気の歪みだった。
それは透明の物体。
それがゆっくりと姿を見せると、エルフの少女になった。
彼女は勝利を確信したように呟く。
「ちーむわーく」
地面から100メートルを超えた所で姿を見せたのは、透明になっていた
「鉄壁さん! もうすぐだよ!!」
『なにぃいいいいいい!? 小娘が透明になっていただとぉおおおお!?』
エリンのスキル。
『くだらん人間どもがぁああああ!!
「きゃあッ!! ま、魔法壁が!!」
潰された。
『フハハハ! 雑魚どもが! 人間が我に敵うものかぁあ!!』
やれやれ。
「
「……………うん。信じるよ。……鉄壁さんを信じる!」
オメガツリーのバカ笑いが響き渡る。
『グハハハハハハハ! 愚かな人間どもよぉおお!! 貴様らに信じる希望はなぃいいいいいいいい!!』
「だから、勝手に決めるなって。もう射程距離に入ってるんだからな」
『なにぃいいいいいいいいいい!?』
おまえは俺の圏内なのさ。
「んじゃあ、いってみますか」
と、予め発生しておいた魔法壁を見つめる。
精神集中からの深呼吸。
こほぉおおおおおおお……。
「壁、パンチ」
それは上空に目掛けて放つ一撃。
魔法壁が向かった先は
壁は彼女を拾い上げ、その身を乗せて猛スピードで上昇した。
『なにぃいいいいいいいいいいいい!?』
よし。
地面から140メートルはあるだろう。
「鉄壁さん見えたよ! 大きな脳みそがある!!」
ああ、それが弱点だな。
「んじゃ、あとは任せた」
「了解」
『やめろぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』
「たぁあああああああああああああああッ!!」
その大剣は登頂部に炸裂した。
ザクゥウウウウウウウウウウウウウウウン!!
下からだとよく見えないけどさ。
この気持ちのいい音は、
『ぎゃぁああああああああああああああああああああああああッ!!』
うん。この断末魔。
確実に仕留めたな。
「鉄壁さん! やったよ!!」
「ああ! よくやった!」
しかし、頭頂部から小さな球が凄まじい速度で落ちてきた。
それはボーリングの球くらいの大きさで淡く白い光りを発する。
『ギャハハハハ! これで勝ったと思うなよ人間がぁああああ!! 我は何度でも蘇る!! また、モンスターや人間を吸収してオメガツリーになってやるわぁあああああ!!』
ふむ。
察するにあれが本体ってやつか。
植物の胞子みたいなもんだな。
『愚かな人間どもめぇえええ!! 次は殲滅してくれるわぁああああああああ!!』
やれやれ。
「イッチー」
「ええ。準備していました」
俺は光りのロープに身を乗せていた。
それは彼女の
オメガツリーよ。
「おまえに次はない」
俺は奴の本体を追いかける。
『げぇええええ! ま、魔法使いぃいいい!!』
俺は魔法壁を足の先に作った。
それをしっかりと足の裏で押し込める。
その足は魔法壁を纏ったままオメガツリーの本体に接触した。
「壁、キック」
『あぎゃぁあああああああああッ!!』
「このまま落下すれば、地面と魔法壁に挟まれておまえは消滅する」
『なんなんだおまえぇえええええええええ!? なんでこんなに強いんだぁああああああ!?』
「…………そんなこと知るかよ」
『人間がぁああああ!! 下等な魔法使いがぁああああああああ!! なぜこんなに強いぃいいいいいいい!!』
「…………だから、知らないって」
『ま、まさか……。おまえ……!? 魔法壁を倍化する技……。そうか。堅牢の勇者。……おまえが堅牢の勇者かぁああああ!?』
「……あのなぁ。魔法使いだとか、堅牢のなんとかとかな。そんな呼び名で俺を呼ぶんじゃあない。俺にはみんながつけてくれた愛称があるんだからな」
これ、この前にもやったパターンだがな。
最期にもう一度ハッキリと教えといてやるよ。
「俺の名前はな──」
鉄壁の探索者。
またの名を、
「てっぺ──」
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
あ、着いちゃった。
「上手く決まらないもんだな……」
奴の本体は地面にめり込んで緑色の血を纏った肉片と化していた。
動く気配は全く感じられない。
「ふぅ。長かったな……」
その瞬間。
脳内に声が響く。
『新しいスキルを覚えました』
おお!
強敵を倒した時にだけ、稀に受けられる
「鉄壁さん。私、新しいスキルを覚えちゃった」
どうやら
イッチーとエリンにはないようだな。
この声はスキルを覚えた者だけに聞こえる天の声なんだ。
ボス討伐のサービスってところだな。
スキルの確認をしたいが……。
サラサラサラ……。
これはオメガツリーが砂になっている音だ。
大きな樹のように聳え立っていたオメガツリーの体は、光る砂になって溶け始めた。
本体が消滅したから、抜け殻になったこっちも消えていくんだろう。
コメントは大盛り上がりだ。
『やった!! 討伐完了!!』
『うぉおおおお!! 攻略おめでとう!!』
『ありがとう鉄壁さん!!』
『日本の平和は鉄壁さんに守られた!』
『おつかれさまーー! 信じてたーー!』
『ありがとうございます!』
『うぉおお! 助かったぁああああああ!!』
『最後の壁キックすごかった!!』
『今夜は宴会です! おめでとう!』
『イレコちゃんもイッチーさんもエリンちゃんも、みんなお疲れさまーー!』
『英雄爆誕!』
『乙です。やっと寝れるwww』
『めっちゃ嬉しい!』
『最高!!』
『はーーーー。よかったぁああ。この国が救われたぁ』
『安眠できそう』
『鉄壁さん、お疲れーー!!』
ふぅ。
視聴者にもお礼を言っておこうか。
「みなさん。応援。ありがとうございました」
オメガツリーの体は完全に消滅。
そこには囚われていた2352人と大きな宝箱が残っていた。
宝箱?
普通、魔晶石なんだがな。
スキルといい、宝箱といい。
気になることが目白押しだな。
地響きが起こる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
ダンジョンが消滅する前兆だ。
────
次回、地上ではテレビのインタビューがあるようですよ。あの赤いモヒカンの人が出るとか……。
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