第87話 大和 VS 翼山車 (前編)
地上では総理と
そんな中、数秒おきに震度3を超える地震が起こり始めていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!
それはボスルームで動き回るオメガツリーが原因だと言われている。
「総理。3階までの全ての階段を封鎖、完了いたしました!」
「うむ」
「1階扉の溶接が完了しました! これで扉を破壊しない限り外には出れません」
「うむ」
封鎖作業は完璧だった。
下階に降りる階段には机と椅子がビッシリと敷き詰めらえている。
これを退かすのは至難の業。
加えて1階扉の溶接である。
外に出る場合は、相当な時間を要するだろう。
大和は腕時計を見た。
(鉄壁殿に提示したのは20分……。もう10分過ぎているから、残り10分か……。監査官の部下が封鎖された階段の机を除去して、1階の扉に到達。その扉を破壊するにはまだ時間がかかるだろう。あと20分は稼げるかもしれない。追加の10分は大きいな。時間に猶予ができるのなら彼に知られせてやってもいい)
「よし。鉄壁殿に電話を繋げてくれ──」
と、部下に命令した時だった。
悍ましい笑いがその場を凍りつかせる。
「ブヒョヒョヒョォオオオオオ!! これはこれは総理ぃ。こんな所においでとは驚きましたなぁあああ!!」
それは
その後ろには監査官が控える。
(なにぃいいいいい!?
彼の登場に、周囲にいるみんなの顔は青ざめた。
そんな中、大和は心を落ち着かせる。
(まずは現状確認だ。少しでも時間を伸ばす)
「
「おやおやぁああ!? どうして、とはどういうことですかなぁああ? まさか、監査官が下に降りるのを妨害したのではないでしょうねぇ?」
「まさか。私がそんなことをするはずがないでしょう。それより、屋上からどうやって地上階に降りたのですかな?」
「フン……! 下に降りるには苦労させられましたよ。屋上のヘリに戻りましてね。わざわざ救助用のロープを取り出してきたのです。それを使って5階の窓から地上に降りたというわけです。忌々しい地震のせいで、私は2階を過ぎた所でロープが切れて尾てい骨を強く打ち付けてしまいましたがね。痛てて」
大和がライトを照らすと、そこには5階の窓から吊るされた救助用のロープが見えた。
(まさか、あの巨体で外から出るとは……)
「しかし、
「ブヒョヒョォオオオオオオ! そんなことは世界の危機だからに決まっているでしょうがぁあああ!! 世界平和です!! 私は地球のために行動をしておるのですよぉおおおお!!」
「政府には段取りがある。あなたが単独でやった行動は責任問題だ」
「私に〜〜? 責任ですとぉおお? ブヒョヒョヒョヒョ! 私は時間短縮に尽力したまでです! 車よりヘリの方が早いに決まっておる!! そんなことは小学生でもわかること!! スピード重視!! 私の行動こそが最適解!! これは世界規模の事案なのです!! ヘリを使うのはもっとも最適な手段でしょうがぁああああああ!! 私に責任を追及するなど片腹痛い!! そんなことをすればダン国連が黙っていませんぞ!! 国際問題だ。ブヒョヒョォオオオオオオオ!!」
(
ダン国連とはダンジョン国際連合の略称である。
ダンジョン問題を世界的に解決しようとする機関で、全世界の9割以上が加盟している。
あの他国と接触を許さなかった北センチネル島でさえも開国して加入しているというのだから、そのすごさは想像に難くない。
ダンジョンという共通の敵によって世界が一致団結した珍しい好例といえるだろう。
「ブヒョヒョヒョォオオオ! ダン国連ですぞ! ダン国連んん!! 私のバックにはダン国連がおるのですよぉおおお!! 世界平和のためにはどうしようもありませんなぁあああああああ!! SS級認定は必須ぅうううう!! 世界平和ぁああああああああああああ!! ブヒョォオオオオオ!!」
ダンジョンによって全世界が平和的に協力する。
ダン国連を皮切りに平和活動は盛んになった。
世界的に有名な歌姫が広告塔として起用され、人類みな兄弟、と世界平和を謳う。
ダン国連を通じて核保有の撤廃運動までされているほどだ。
よって、ダン国連は世界規模で見ても強い支持を得ているのは明白だった。
因みに、監査官が派遣された
(
大和の思惑は当たっていた。
(ブヒョヒョヒョォオオ! 監査官を自家用ヘリで送迎したのは
要するに世界が
それもそのはず、なにせ、暗奏がSSS級のダンジョンに成長すれば、オーストラリアの二の舞。
この地球が滅亡の危機に晒されるのである。
ダン国連が対応を急ぐのは全世界の意志なのだ。
とはいえ、もしも、日本がSS級に認定を受ければ、外交的に圧倒的に不利である。
物価の高騰はもちろんのこと。北海道と沖縄の占領。全世界からの迫害。それら甚大な被害は明白であった。
「ブヒョヒョヒョ……。5階から下に降りる階段が封鎖されていました。もしや、意図的にやったのではないでしょうなぁ? そんなことがダン国連に知れればどうなりますかなぁ? この国は全世界から恨みを買うことになるでしょうなぁあああ? どうなんですか総理ぃいいい!? お答え願いますかなぁあああ?」
「そんなことをするわけがないでしょう。そもそも、私どもは、監査官のミスタージェネスに送迎車を用意していたのだ。護送車を大勢つけた特別仕様のね。それをあなたが、独断で自家用ヘリで送ったのだからな」
「うぐぅっ!」
「どういうつもりか知らんが、ヘリの夜間飛行が危険なことくらい所有者なら知っているのではないですかな?」
「ぐぅううううう!!」
「その件について、私の方からあなたには再三電話をしたのだがな。まったく反応がないようでしたしな」
「ぬぐぐ……。ミ、ミスタージェネスにおもてなしをしていたのです。おもてなしです! 電話なんてできるわけがないでしょう。そ、それよりおかしいでしょうが──」
後ろに控える監査官に聞こえるように。
総理の評価がダン国連で下がるように。
「本館が停電するなんて!! あなたが意図的にやったのではないのですかなぁあ!?」
大和は鼻で嘆息をついた。
そして、ピクシーラバーズの本館入り口を手差しする。
「あれを見ろ」
そこには大きな張り紙があった。
【立ち入り禁止。修繕工事中につき。全館停電中】
英語でもしっかりとデカデカと、
【During the repair work of pixie lovers main building】
「き、き、詭弁だぁああああ!! おまえはミスタージェネスの妨害をしたんだぁあああああ!!」
「はぁ?」
「だ、だってそうじゃないか! ヘリが着いた途端に全館停電! 4階以降の階段の封鎖!! どう考えても妨害工作だろうがぁああああああ!!」
「張り紙は、なかったかな?」
「ぬぐぅううう!!」
封鎖された階段。積み上げられた机に貼られた『修繕工事中につき通行禁止』の張り紙。
「き、き、詭弁だ! 工作だ!! 政府は妨害工作をしたんだ!! これは国際的に大問題ですぞぉおおおお!!」
「勝手にこちらに罪を擦りつけないでいただきたい。政府の指示を無視して単独行動を起こしたあなたのミスでしょう。修繕工事をしている本館の屋上にヘリを着陸させるなんてあり得ないことです」
「ぬぐうううううう!!」
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次回は後編です!
乞うご期待!
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