第86話 めざせ頭頂部!

 オメガツリーの弱点は頭頂部。

 その高さ128メートル。

 そこに弱点の頭脳があるという。


 コメントは不安の声が流れる。


『あと10分だろ? どうやって登るんだよ?』

『128メートルとか空も飛べないしさ』

『無理じゃね? ボス高杉』

『鉄壁さんならやれる! 方法はわからんけど』

『デカすぎだって』

闇の手ダークハンドも厄介なんだよな』

『ボスの回復能力もウザい。 闇の手ダークハンドも無限に出てくるし』

『がんばってぇえ』

『ウルチャでしか応援できん』

『うぉーー! 負けるなぁあ』

『鉄壁さん! あなたしかいないんだぁあ!!』

『頼む! 勝ってくれぇえ!!』

『鉄壁さんに、この国の未来がかかっているんだぁ』

『無理せずに逃げるという選択肢もあるんやでぇ』

『壁づたいに登っても落とされるのがオチ。詰んだ』

『え、詰み?』


 みんなの気持ちはわかるがな。

 今はなんとしても頭頂部に行く必要がある。

 このダンジョンに入る前から計画はしていた。

 事前情報でデカいボスだと聞いていたからな。


「無理だ! 頭頂部に登る前に 闇の手ダークハンドで攻撃されるのがオチなんだよ! おまえたちは逃げろぉお!!」


「安心しろよ 光永みつなが。今、助けてやるからさ」


「ぬぉおおい! 敬語使えぇえええええ!!」


 じゃあ、いきますか。


衣怜いれ! イッチー!」


「うん! 例のやつだね!」

「はい! 例の作戦ですね!」


 もう時間がない。

 考えるよりやるしかない。


攻撃アタック 防御ディフェンス


 俺は魔法壁を真横にして階段のように何重も発生させた。

 2人はそれを駆け上って行く。



タタタタタタタタタタタタタタッ!!



 魔法の射程距離は50メートルだ。

 その間に魔法壁の階段を発生させる。

 つまり、彼女たちの跡を俺が追う形をとる。


『うぉおおお!! その発想はなかった!!』

『まさか、攻撃アタック 防御ディフェンスで階段作るとは!!』

『前代未聞www』

『登れるんかいw』

『流石は鉄壁さん!!』

『すげーーーーーーーーー!!』

『天才の発想w』

『いけるぅうううう!!』

『いっけぇえええええ!!』

『やっつけろぉおお!!』


 こんな戦い方は初めてだからな。

 詳細はやりながら微調整だ。


  光永みつながは叫んだ。


「気をつけろ!  闇の手ダークハンドが襲ってくるぞ!」


「ああ」


 そんなことは百も承知。

 だから、


攻撃アタック 防御ディフェンス


 防御用の魔法壁も発生させる。


  闇の手ダークハンドは俺の魔法壁によって阻まれた。


 オメガツリーは意識を持ち直している。

 どうやら回復が完了したらしい。


『ククク。愚かな。我が頭頂部には誰も行ったことはないのだよ』


 そう言ったかと思うと、イッチーの頭上に 超闇の手スーパーダークハンドを作った。


 いかん。

 あの手は100倍の魔法壁じゃないないと防御ができない。


 案の定。

  超闇の手スーパーダークハンドは俺の魔法壁を破壊し始めた。


 イッチーは移動速度を上げた。


「鉄壁さんの階段が!!」


「待て、イッチー。焦るな!」


 地上から約60メートル。

 およそ、オメガツリーの半分を登った計算か。


 こうなってくると、やることはシンプルだ。

 100倍の魔法壁で 超闇の手スーパーダークハンドの攻撃を防ぎながら、通常の魔法壁で階段を作る。

 しかし、


 同時はキツイ。


 やることは単純だが、俺の魔力の消費量がエグい。


鞭技ウィップアーツ 光紐フラッシュロープ!」


 うん?

 彼女のスキルか。

 光るロープがダンジョンの壁からオメガツリーの体まで伸びてるな。


「イッチー。なにをするつもりだ?」


「鉄壁さん! 防御に徹してください!」


 つまり階段は作るなと言うことか。

 じゃあ、どうやって登るんだ?


 彼女は光るロープに体を乗せた。

 それは弾力があって、リングに設置されたロープのようにグィイイイインとしなる。


 ああ、察し。


 んじゃあ、俺は100倍の魔法壁を作って防御に徹しようか。


鞭技ウィップアーツ 噴流跳ねジェットバウンド!」


ギュゥウウウウウウウウウウウウウン!!


 おお、すごい速度で飛んでった。


 よし。

 彼女を襲いかかる攻撃は、


攻撃アタック 防御ディフェンス100倍」


 で、防御だ。


「私の 噴流跳ねジェットバウンドなら60メートル以上は飛行が可能です!」


 加えてすさまじい速度だ。

 これなら一気に頭頂部に……。


「110メートル! 頭頂部までもうすぐです!!」


 ふと、この計画の欠点に気が付く。


 60メートルだと?


 いかん。

 俺の魔法壁の射程距離は50メートルが限界なんだ。

 俺が地上から70メートル以上登っていないと頭頂部付近の防御ができない。


『フン……。小娘が出しゃばりよって。貴様の命を吸収するのはやめにしよう。殺してやる」


 イッチーは圏外だ。

 俺の魔法壁が届かない!


『貴様ら人間には『絆』という強い力があるらしいからな。そんなくだらないモノは我が破壊してやる。この女が死ねば絶望して闘志も失せるだろう』


 奴の 闇の手ダークハンドは大きな拳を作った。

 その拳はイッチーに襲う。


「イッチー防御だ!」


 それでも、防御の姿勢は雀の涙だった。

  闇の手ダークハンドの攻撃は彼女の防御ごと跳ね飛ばした。


バギィイイイイイイイイイイイイン!!


「きゃああああああッ!!」


 彼女の装備には 潜伏ハイド 防御ディフェンスが仕込んである。

 この魔法は射程距離が関係ないからな。ダンジョン内ならどこででも発動できる。

 しかし、防御できるのは銃弾程度の威力まで。通常の魔法壁の半分以下の防御力しかないんだ。


 彼女は落下した。その全身からは大量の出血をしながら。

 辛うじて生きている。 潜伏ハイド 防御ディフェンスのおかげだ。

 しかし、意識がないぞ。


「イッチー!!」


 こうなったら魔法壁を出して落下の衝撃を和らげる。

 地上に落ちたらおしまいだ。

 

攻撃アタック 防御ディフェンス


『フン!  超闇の手スーパーダークハンド! 貴様の通常の魔法壁ならばこの手で破壊してくれるわ!』


バリィイイイイイイインッ!!


 くっ!

 魔法壁が壊された!


 50メートル付近まで登っていた 衣怜いれが動く。

 彼女の体を掴もうと手を伸ばした。


「イッチーさん!!」


 しかし、その手は届かない。


「お姉ちゃん!!」


 エリンの声が虚しく響く。

 

 このままいけば地面に激突だ。

 100メートルからの落下だぞ。

 とても、 潜伏ハイド 防御ディフェンスでは防ぎきれない。


 即死。


 ハイポーションでも治らない。


 終わり。


 彼女が、死ぬ。

 



「イッチーーーーーーッ!!」




 俺の叫びが天に届いたのか。

 彼女は強力な風に包まれていた。

 まるで透明のクッションにでも落下したように。



ボワァアアアアアアン!!



 と、バウンドしたかと思うと、再び風に包まれて優しく地面に着地した。


 な、なにが起こったんだ?




暴風魔法レイジングウインド。お、俺の暴風魔法で……、彼女を助けた」


 

 

 こ、この声は?


 それはS級探索者の彼だった。

 その半身はオメガツリーに取り込まれているものの、なんとか動く片腕で魔法を発生してくれたのだ。


「このバケモンがぁああ。人間を舐めるなよぉおお!!」


 ははは。

 自分の魔力が残り少ないってのにさ。

 それでも他者を助けるのか。





「やるじゃないですか。 光永みつなが





 S級探索者も捨てたもんじゃないな。



────

次回。

翼山車よくだし VS 大和総理。

乞うご期待!

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