第85話 魔法壁100倍 VS スーパーダークハンド


〜〜片井視点〜〜


 俺は100倍の魔法壁を発生させた。


 その存在は次元に歪みを作る。

 辺りは強風に包まれていた。


 それに対抗するように、オメガツリーは 闇の手ダークハンドを合体させて超巨大な手を作った。


『グハハハ! ならば、我も最強の力を見せてやるわぁぁあッ!!』


 ほぉ、何十本と 闇の手ダークハンドを合体させている。


闇の手ダークハンドの力を極限まで貯めた 超闇の手スーパーダークハンドだ』


「随分と強そうな手だな」


闇の手ダークハンドの集合体。100倍の 闇の手ダークハンド。あらゆるモンスターの頂点に君臨する力だ』


 ふむ。

 100倍対決か。面白い。


「じゃあ、最強の手と最強の壁。どっちが強いか勝負といこうか」


『フハハハ! 下等な人間が。上位種の我に勝負だと? 家畜が主人に勝てる訳がなかろうが』


 やってみないとわからないよな。


 あ、そうだ。

 これだけは確認しておこうか、


「おまえを倒せたら、樹の中に取り込まれている人間は助かるんだよな? 2352人」


『ククク。もう遅いわ』


「なに!?」


『我に 超闇の手スーパーダークハンドを出させたことが、もう遅いと言ったのだよ。おまえには1%も勝ち目はないからな。ククク』


「じゃあ、俺が勝てば全員、助かるんだな?」


『我に取り込んだ人間は殺さずに精気を吸っておるのだ。殺す道理はないさ』


「なんだ。それを聞きたかったのにさ」


『助かる道理もないということだぁああ!! 死ねぇ魔法使い!!』


  超闇の手スーパーダークハンドは凄まじい勢いで俺に向かって来た。


「ペラペラとよく喋る奴だな。その語彙力は人間から吸収したのか?」


『そういうことだ。貴様も我の養分となれ! 魔法使い!!』


 あのなぁ。


「魔法使い。なんて呼ぶなよな。俺にはみんなが付けてくれた愛称があるんだからさ」


『貴様の魔法壁なんぞ、塵と化してくれる!』


 俺は深く振りかぶった。


「俺の名前を教えといてやるよ」


 さぁ、目一杯の壁パンチだぞ。




「俺は、鉄壁の探索者。またの名を──『鉄壁さん』だ」




 俺の拳は壁を撃った。






バグゥウウウウウウウウンッ!!






 100倍の魔法壁は 超闇の手スーパーダークハンドと接触。


『ヌハハ! 我の力に平伏せぇええええ!!』


 それは一瞬の出来事。

 稲妻とともに閃光が走ったかと思うと、 超闇の手スーパーダークハンドを消滅させた。


『なにぃいいいいいいいい!?』


 魔法壁の慣性は止まることを知らない。

 そのまま、オメガツリーの顔面に直撃した。



『ガギャピィイイイイイイイイイイイイイイッ!!』 



 えーーと。


「よく聞こえなかったが……。「我の力に平伏せ」とかなんとか言ってなかったか? 人間の知識を吸い取ってんならさ。知っているかもしれんが、そういうの黒歴史っていうからな」


 オメガツリーの顔面は崩壊。

 紫色の汁は血液だろうか。

 とにかく、出血がすごい。相当なダメージだろう。


 このまま奴が消滅してくれればダンジョンは無くなる。

 

 しかし、


『……フハハ。わ、我……は……無……敵……だ……』


 傷がジワリジワリと治っている。

 あれだけの傷を回復させてしまうのか。

 超回復スキルだな。厄介なスキルを持ってる。


 やれやれ。



「んじゃ、もう1発。攻撃アタック 防御ディフェンス100倍。からの」



 追撃。



「壁、パンチ」



ベゴォオオオオオオオオオオオッ!!



『アガビィイイイイイイイイイイイイイイイッ!!』



 叫び方が独特だな。


『む、無……駄……だ……』


「やれやれ。んじゃあ、その回復力を後悔させてやるか。攻撃アタック 防御ディフェンス100倍」


 からの。


「壁パンチ」


『アギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


「壁パンチ」


『ヌズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


「壁パンチ」


『ミチョバァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 はぁ……はぁ……。


 初めてだな。

 こんなに100倍の壁パンチを撃ったのは。




『む、む、む、無駄……だ……』




 やれやれ。

 まだ回復するのか。

 本当に無駄かもな。

 ある程度ダメージはありそうだが、回復の力の方が上回る感じか。


『敵が硬い!』

『流石はボスだな。強ぉ』

『マジか。これどうやって倒すんだ?』

『鉄壁さんファイトーー!!』

『これ倒せるのか?』

『回復スキルがチートだってば』

『どうやって倒すんだ?』

『無理ゲーじゃん』


 んじゃあ、もう1発。100倍の壁パンチといきたいところだがな。

 俺の体力も限界か。


「鉄壁さん! これ!」


  衣怜いれがハイポーションを渡してくれた。


 貴重な1本だが飲んでおこうか。


「サンキュウ。ゴク……ゴク……」


 うん。

 体力全開だ。


「さて……」


 奴の超回復スキルがある限り、追撃したところで奴を倒せそうにないぞ。

 

 そんな時である。


「D級ぅううううう!!」


 と、誰かが叫ぶ。


 おっさんの声だが誰だ?

 聞き覚えのある声。



「D級! 攻撃はやめろ! オメガツリーの顔面は弱点ではないぞ!!」



 D級とは俺のことか?


 声のする方を見ると、それはS級探索者の……。


 ああ、


光永みつなが


光永みつながさんと言えーー! 俺は目上なんだぞ! このD級がぁあああ!!」


 暗奏攻略に先陣を切ったS級探索者パーティー 栄光なる歓声グローリーシャウトのリーダー、 光永みつながだ。

 声の状態から、なんか元気そうだな。


 でも、体はオメガツリーによって7割は取り込まれているのか。

 辛うじて動くのは顔と左手だけのようだな。


「まさか、貴様がボスルームに到達するとはな。信じられん」


「偉そうに言うなよ。助けにの来たのにさ」


「ぐぬぅうううッ!」


「それにしても、よく喋れるくらいの意識を持ってるな」


 他の人は仮死状態みたいな感じなのにさ。


「魔力を溜めてやり過ごしてたのだ。こういう時のためにな!」


「なにを狙ってたんだ?」


「き、貴様にいい情報を教えてやろうというのだ! 我々、S級探索者パーティー 栄光なる歓声グローリーシャウトが見つけた奴の弱点をな!!」


「へぇ。どうしてそんな貴重な情報を俺に?」


「こいつを倒してもらうために決まっているだろう。オメガツリーの弱点は頭頂部にある。地上から遥か先、その高さ128メートル。そこにオメガツリーの頭脳があるのさ。それがこいつの弱点だ!」


 ふむ。

 地上から見上げても脳みそは見えんな。


「随分と高いところにあるんだな」


「それが奴の余裕でもあるのさ。そんな高い弱点を攻撃できる敵はいないからな」


 まぁ、想定はしていたけどな。

 顔がダメなら他を探すしかなかったし。

 でも、


光永みつなが。もっと早くに教えてくれよな。100倍の壁パンチを無駄撃ちしちゃったじゃないか」


「ぬぐぅうう。ちょ、ちょっと気を失っていたんだ。貴様の攻撃で目を覚ましたということだ」


 なるほど。

 ギリギリの精神力でなんとか耐えていたというわけか。


「オメガツリーの情報はもうない感じ?」


「うむ。しかし、弱点が頭頂部であることがわかれば十分だろう」


「十分とは?」


「配信をしてるんだろ? 私の情報は政府に届くはずだ!」


「え? いや……。まぁ、そうかもだけど」


「おーーい! 私は援軍を要請する! S級探索者の追加投入をしてくれぇええ!!」


 やれやれ。


「そんなことできるわけないだろ」


「なぜだ!? みんなでやればオメガツリーを倒せるかもしれないんだぞ!!」


「時間がないんだよ。もう、監査官は現地に来てるんだ」


「なにぃいいいいいい!? では、SS級認定を受けたのかぁあああ!?」


「それはまだなんだ。現地では総理が対応してくれてる」


「そ、総理が……」


「なので、もう時間が……10分しかない」


「た、たった10分だとぉおお!?」


 10分で128メートルに登って頭脳を破壊する。

 

「に、逃げろ……」


 え?


「なんか言った?」


「逃げろと言ったんだぁああ! おまえたちだけでオメガツリーが倒せるもんか! 取り込まれて養分にされるのがオチだ!!」


「そういうわけにもいかないんだ。このダンジョンの攻略にはさ。日本の未来がかかっているんだからな」


「バ、バカ。無理するな! 命を大切にしろぉ!」


 へぇ。


「あんたが、そんなことを言うなんて意外かもな」


「うるさい! オメガツリーは最強だ。おまえたちが敵うもんか。無駄死にするだけだ! とにかく逃げろ。こいつはまだ完全に回復していない。今が逃げるチャンスだ!!」


 ふーーん。

 まさか、俺たちの身を心配してくれるなんてな。

 しかも、自分の救出すら求めないなんて、


「ちょっと、見直したわ。 光永みつなが


「敬語使えーーーー!!」


 オメガツリーは元気を取り戻した。


『クハハ! 愚かな人間よ。他者のために自分の命を捨てるなど、無能のすることだ』


 ほぉ。いうじゃないか。


「それは人間から得た知識か?」


『ククク。我は人間の上位種だぞ? これは、頂点に君臨する存在が導き出した絶対的な答えなのだよ』


「絶対的な答えねぇ。随分と自信があるんだな」


『ククク。弱者は強者の力になるのさ。それが自然の摂理。これを弱肉強食という』


「やれやれ。浅い知識だなぁ。強いんだったらさ。弱い者を助けてやればいいじゃないか」


『クハハ! だから無能だというのだ。他者の命などどうでもいい! 尊重するのは我の命のみ。唯我独尊。最強の存在は我1人でいいのだよ!』


「寂しい奴」


 オメガツリーは 闇の手ダークハンドを伸ばした。

 それは俺たちを通り越してダンジョンの奥を探る。


 なにやってんだ?


 と、思うや否や。

 その手はグレイトメタルゴブリンを掴んで戻ってきた。


『我の血肉となれぇええ!』


 それを自分の体の中に取り込んだ。

 グレイトメタルゴブリンは力を吸われて消滅した。


『グハハハ! 弱者は我の力となれば良いのだよ』


 同じダンジョンモンスターなのにな。

 仲間って言葉を知らないようだ。

 自分が強くなるためには、誰の犠牲でもいいのか。

 本当に、


「酷い奴だな」


 タイムリミットまで、残り10分。

 回復アイテムのハイポーション、残り2個。

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