第76話 最深部到達?

〜〜片井視点〜〜


 13時。

 暗奏封鎖までのタイムリミット14時間。

 

 現在の進行は32階層。

 ダンジョンに入って15時間でここまで来た。


 S級探索者の 光永みつながが40階でダンジョンボスを見つけたからな。

 最深部がそこだとしてもなんとか間に合いそうではあるよな。


 問題なのは黒い手に連れていかれ行方不明者の2280人だ。おっと、この人数は暗奏突入の際に72人増えたんだったな。だから、2352人だ。


 ここまでなんの手掛かりもない。

 人の骨すら見つかっていないから、おそらくモンスターに食われているということはないだろう。

 

 あと、気になるのは……。


 この感じ。

 まったりと重くるしい嫌な空気。

 例えるなら、真夏日に冷房が効いた部屋から外に出た時みたいな。

 暖かい外気がムアァって押し寄せてくる感じ。

 

「鉄壁さん。来たよ!」


「ああ」


 俺たちの目の前には10本の黒い手。


 この手はどこからやって来るんだ?


攻撃アタック 防御ディフェンス


 全て防御。


「壁、パンチ」


 一撃で殲滅。


「お見事!」

「ありがとう鉄壁さん!」

「流石はお兄ちゃんだ!」


 ふぅ。


「さっきは1時間前……」


 手が強襲してくる間隔が短くなってきてるな。

 黒い手自体の攻撃力はさほどだが、その本体が見えない。

 一体どこから襲ってくるのやら。


「わぁ、お兄ちゃん! 鉄のゴブリンだ!!」


 やれやれ。

 グレイトメタルゴブリンか。

 通常のメタルゴブリンの3倍の大きさ。

 15メートルを超える鉄肌のゴブリン。

 ダンジョンを進むと敵も強くなるな。


衣怜いれとイッチーは左右に散開。エリンは透明になって身を隠せ」


「うん!」

「了解した!」

「ちーむわーく!」


 来たぞ。

 2本の大きな斧攻撃。


攻撃アタック 防御ディフェンス40倍」


 俺たちのチームワークは洗練されていた。

 

「たぁあああああ!!」

鞭技ウィップアーツ  鉄破壊アイアンブレイカー!!」


 そして、



「壁、パンチ」



 S級のモンスターを瞬く間に撃破する。

 決して余裕とまでは言いにくいが、無傷で倒せているのは大きい。


 加えて、配信も盛り上がっていた。


『フヒョォオ! いつ見ても鮮やかぁあ!』

『つよーー!』

『無双すぎるw』

『爽快!』

『S級とは?w』

『無敵w』

攻撃アタック 防御ディフェンスがさりげに40倍じゃないと防御できないんだよな』

『3人の同時攻撃は痺れる!』

『めちゃくちゃかっこええ!』

『切り抜き早よ。何回も見たいっての!』


 これは日本語だけをピックアップしたけどさ。

 今や、コメントの半分以上は外国の言葉なんだよな。

 もう、なに書いてんのかさっぱりだ。

 多分、日本語と似たような感想なんだと思う。


 そんなこんなで探索を続けること7時間。

 俺たちは、ようやく40階層に到着した。


「すごいです鉄壁さん。 光永みつながさんは24時間でここにやってきました。その記録を追い越して22時間で到着してしまいました!」


 タイムリミットまであと7時間を残しての到着か。


 しかし……。


「鉄壁さん。おかしいよ? ボスルームが無い!」


 どういうことだ?

  翼山車よくだし局長は、確かに40階と言っていたのに……。


「お兄ちゃん! 黒い手が来たよ!」


 やれやれだ。


攻撃アタック 防御ディフェンス。壁、パンチ」


 俺は黒い手を撃破して、携帯を取り出した。


 紗代子さんに連絡してみよう。

 配信中だから名前には気を使って。


「もしもし。事務さん」


「社長! お疲れ様です!」


「生配信は見てる?」


「もちろんです! おかしいですね。最深部のはずなのに」


「情報が間違っていたのかもしれない。そちらから局に確認してくれないか?」


「わかりました! すぐに動きます!」


「ありがとう。俺たちは引き続き奥に進む」


「お気をつけて」


「うん。頼むよ」


 さて、足を止めてるわけにもいかないな。


「理由はわからんが、進むしかなさそうだな」


 そうして2時間後。

 暗奏封鎖のタイムリミットまであと5時間に迫る。

 ダンジョンは45階に到達していた。

 依然としてボスルームは見えない。


 そんな時。

 紗代子さんから連絡が入った。


「ガマガエルを問いただしました!」


 ガマガエルとは 翼山車よくだし局長のことだろう。

 生配信中だしな。名前を出すのはまずいから、この際許してもらおうか。

 さて、どんな内容だったんだ?


「S級探索者パーティーの 栄光なる歓声グローリーシャウトは間違いなく40階に行っていました。そこが最深部だったそうです! 会話のやり取りをしていた音声データでも確認を取りましたから、最深部が40階層なのは間違いありません!」


「そうか……」


 そうなると、やれやれ……。

 答えは1つしかないな。


「ダンジョンが成長してるってことか」


 暗奏はより深く広がった。

 これじゃあ最深部がどこだかわからない。

 最悪のシナリオだな。


「でも、おかしいんですよね」


「なにが?」


栄光なる歓声グローリーシャウトのデータでは24時間で到達したのは20階だったんです」


 ん?


「どういうこと?」


「彼らは24時間で20階に行くのが限界でした。それが次の音声データでは40階に到達した、となっているんですよ」


「…………つまり、瞬時に移動した。ってことかな?」


「はい……。原因はわからないのですが、ガマガエルを問い詰めても、やっぱりわからなくて……。申し訳ありません」


「いや。ありがとう。十分に役に立ったよ」


 情報を整理すると……。


「ちょ! あ、あんたたち! ダ、ダメだってば!! い、今、生配信中なんだからぁあ!!」


 ん?

 なんだなんだ?

 電話越しの紗代子さんとこが騒がしいな。



「「「 Pさまぁあああああ!! 」」」



 こ、この声は……。

 ジ・エルフィーか。


「ネネです! Pさまのことが心配です!!」

「ネマです。ずっと応援しています頑張ってください!」

「ネミです! 私も応援しています! 負けないでください!」

「ネナです! うう、なんだか泣けてきちゃいます!! 頑張ってくださいね!」

「ネオです。Pさまのことは心から応援しております。早くお会いしたいです」


 こいつら……。

 まったく困った奴らだなぁ。

 鉄壁さんとPさまは別人って設定だったのにさ。

 これじゃあ世界中にバレちゃうじゃないか。


「「「 Pさまぁあああああ!! 」」」


 ああ、もう心配しすぎてそれどころじゃないのか。


「心配させてすまないな。必ず帰るからさ。俺を信じて待っていてくれ」


「「「 はい! 信じます! 」」」


 ははは。

 やれやれだな。


 案の定、コメントは荒れていた。


『ジ・エルフィーキターー!』

『え? ジ・エルフィーがなんで??』

『コラボ!?』

『まさかのコラボwww』

『Pさまって言ってるけど!?』

『ネオ推しです』

『どういうこと!?』

『コラボだよね? めっちゃ豪華な応援!』

『ネネちゃんが可愛いよね』

『鉄壁さんとジ・エルフィー。夢の共演か?』

『いや、ネナがいい』

『ネマが一番っしょ』

『鉄壁さんがPさまってこと? まさかだよね?』

『ちょw ジ・エルフィーの応援とかガチ豪華!』


 ああ、こりゃ話題になるな。


 同接は1億5千万人か。

 もう、日本の人口超えちゃったよ。


「「「 Pさまぁあああああ!! 」」」


 やれやれ。

 ダンジョンには謎があるし、鉄壁さんとPさまの関係が世間にバレるしで、問題が山積みだな。

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