第68話 美魔女の思い
美魔女の防衛大臣、鎧塚は眼鏡の位置を直した。
「桐江田一尉とは現在、連絡がとれておりません。現場が騒然としているのが問題でしょう。時間をいただければ解決するかと」
「……しかし、この非常時に連絡が取れないのは解せんな。一尉は国家を危険に晒すような人物なのか?」
「いえ。愛国心が強く。心根の優しい自衛官です」
(まずは時間を稼ぐことが先決か……。この会議は、連絡が取れない、ということでやり過ごそう。桐江田一尉の調査はこちらで完結したい。優しい彼女が謀反を起こすとは、とても考えられないからな。不本意な責任追求は避けたい。なんとしても、この会議はやり過ごす)
「ブヒョヒョヒョヒョォオオオ!! それはそれは部下が可愛いのですなぁあああ。鎧塚防衛大臣。ブヒョヒョヒョ」
鎧塚は目を細めた。
「私の部下がなにか?」
(……くぅ、ガマガエル)
「ブヒョヒョヒョォオ。調べはついておるのだよぉ。ブヒョオオ」
「なんのことでしょう?」
「とぼけなさんな。桐江田という苗字に思い当たる節があるでしょう。ブヒョ」
「……」
「ブヒョヒョヒョォオオオ!! 私は職業柄ね。探索者の身元調査は徹底するのですよ。そしたらね。ヒットしたのですよぉ。ブヒョヒョヒョオオ」
「なんの話ですか?」
「ブヒョヒョヒョォオオ。この前捕まった
桐江田 夢。
かつて、
「ブヒョヒョ……。不思議なことに桐江田 萌一尉と同じ苗字だぁああああ〜〜。おかしいブヒょねぇ? なんでだろうねぇええ? ブヒョヒョ……」
「…………」
「調べてビックリ!! なんと姉妹だったんですよぉおお!! 萌は姉。夢は妹です。自衛官が凶悪犯罪者の姉妹ですよぉおおおおおおおお!! これは大スクーープですぞぉおおおお!!」
「だから?」
「ブヒョヒョヒョォオオオオ! これは問題でしょう! 明らかに大問題。ブヒョヒョヒョォオオ。
「彼女の処分はもう少し時間をかけてからやるつもりでした」
「ブヒョヒョヒョ。まぁ、まだマスコミにはリークしておりませんからね。ご安心くださいよ。ブヒョヒョ。あなたの進退にも関わることでしょうからなぁ」
会議室は異様な空気に包まれた。
新たな問題の浮上に、誰もが口を閉じたのである。そんな中、彼だけは悦に浸る。
「ブヒョヒョォ。ご安心ください総理。今回のことは大きくするつもりはございません。ただ、事実を言っただけでございます。国防の根幹を揺るがす事案など、一公務員である私からすれば恐れ多い! とてもできることではありません。私からすれば、今回の事案は総理と国のために胸にしまっていた事案なのでございます。ですが、こうトラブルが続きますと言わざるを得ません。暗奏封鎖の事案は国家を揺るがす大事件なのです。小さな問題も解決して、スムーズに執行せねばなりません」
「うむ。そのとおりだ。
大和は深々と頭を下げた。
「いえいえ。この国を愛すればこその行動。当然のことでございます」
「うむ。では、話を進めよう。察するに桐江田一尉のメンタルに問題があったのかもしれんな。妹が逮捕されたのなら気も病むだろう」
「ええ。そのとおりでございます。とち狂って総理の命令を無視したとも考えられますよ」
鎧塚は痛いところを突かれたかのように、ピクリと眉を動かした。
(こうなったら、詳細を話すしかない……)
「現在、連絡が取れないのは2名です。桐江田一尉とその部下、曹長の一文字 凛」
「ほう。その部下まで」
「一文字は片井
「スカウトとは?」
「暗奏を封鎖するためです。防御魔法が得意な探索者を100人集めていました」
「では、その時に片井と接触しているのか?」
「はい。片井が攻略に向かっていることと因果関係があるのかもしれません」
大和は眉間に皺を寄せる。
「それにしても連絡が取れないのは解せんな……」
彼は腹を括った。
「これは内閣府令違反、及び、国家反逆罪に該当する。桐江田一尉、並びに一文字曹長に逮捕状を出す!」
鎧塚は小さなため息をついた。
(彼女たちが行方不明になった理由はわからない。……けれど、もしも片井が暗奏に囚われた2352人の救出に向かったのなら? S級パーティー
彼女は総理の命令をただ静かに受け止める。
「総理。提案なのですがね?」
「うむ」
「片井の生配信をテレビで報道するというのはどうでしょうか?」
「なに!? そ、そんなことをしては国民の混乱を招くのではないのか?」
「もう十分に混乱を招いていますよ。これを鎮めるためにはテレビで報道するしかありません。千人のダンジョン自衛官の安否が取れないこと、片井が攻略に向かっていること。全て報道するのです」
「状況はわかるが、近隣住民の混乱が増せば被害が拡大してしまう。まずは、混乱を鎮めること。そちらが最優先だ」
「同時に流せば良いのです。どちらにせよ、片井が探索の生配信をしている限り、暗奏の封鎖はできませんよ。そんなことをすれば見殺しにしたとして暴動が起きてしまいます」
「う、うむぅ……」
「私はこの国のことを一番に考えております。先ほどの事案もそうでしょう。桐江田一尉の件は、私の胸に仕舞っていたのですから。これも一重に国民を想うが故の行動であります」
(ブヒョヒョ。一尉の件は、なにかの時のために取っておいた貴重なネタたったのさ。まさか、こんなにも早く活躍できるとは思わんかったがな。グヒョヒョ)
「ふむ」
「そんな私が提案をするのです! これは国のためです! 国民のためにテレビ放送をするのです!!」
「その方が国民は納得するだろうか?」
「ええ! 開示こそが安心の最高の材料なのです。誠意を持って、私のように、清らかな心で!」
「うむ」
「情報を開示して国民感情の安寧を図るのです!」
「なるほど」
「では、その権限を私に任せてもらえないでしょうか?」
「ほぉ。つまり、片井がやっている生配信の権利譲渡の交渉をやってくれるというのだな?」
「当然であります。交渉はもちろんのこと。スポンサーはさることながら、総理の支持率が向上するように便宜を図りましょう!」
「私の支持率なんぞどうでもいい。大事なのは国の平和であり国民の命だ。今は、犠牲を最小限に抑えることが総理の責務なのだ」
「ええ。そんな総理の心情も工面しましょう! 私なら可能です! 報道の情報を操作して近隣住民の混乱を鎮め、片井に連絡を取り付け、直ぐにでも引き返すように説得しましょう。ですから、テレビの放送権を全て私に委ねてください!」
「うーーむ……」
「愛国。正義。奉仕。これこそが我が人生でございます! 今はテレビを使って国民感情をコントロールし、片井を戻らせて暗奏を封鎖する。それこそがベストの選択肢なのでございます!」
「わかった!
(いよし! いよぉし! いよぉおおおっしゃあああああッ!!)
ヨダレがジュビジュビと垂れるのを必死に我慢する。
それもそのはず、テレビの放送権を利用すれば、莫大なお金が探索局に転がり込むからである。これは全国民が注目する事件。謂わば、オリンピックやワールドカップなどの歴史的大ニュースと同格なのだ。
スポンサーを含め、放送権利などで動く金額は推定100億円以上に及ぶ。
ダンジョン探索局に帰ると、すぐさま部下に命令した。
「片井の連絡先を調べろ!! 生放送の権利を購入するんだ!!」
(ブヒョヒョヒョ。片井の帰還なんぞ。どうでもええわい! 図書カードが死のうが生きようがどうでもいい。重要なのは生配信の権利なのだぁあああ!! これさえ手に入れば莫大な金が生まれるぞぉおおおお!!)
そうして、電話に出たのが彼女だった。
「はい。片井ダンジョン探索事務所。二ノ宮です」
もちろん彼女は、片井が500円の図書カードしか貰えなかったこと。
暗奏の対策会議で、彼が
────
次回、紗代子VS
お楽しみに!
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