第69話 紗代子 VS 翼山車局長

「ブヒョヒョヒョオオ! スポンサーを集めるブヒョォオオオオ! 金の成る木が手に入ったブヒョォオオオオ!!」


 ダンジョン探索局の 翼山車よくだし局長は有頂天であった。

 片井が流している生配信のテレビ放送権をゲットできるチャンスなのだ。

 彼の頭脳では算盤がパチパチと弾かれ、その数字は200億円を叩き出した。


「儲かる……。儲かるブヒョォオオオオ」


 彼は局内の部下を総動員して、片井ダンジョン探索事務所に連絡を漕ぎつけた。


 電話の対応は紗代子である。

 その返事は、気の抜けたソーダ水のようだった。


「はぁ……。社長の流している生配信の放送権を購入したいと?」


「ブヒョヒョヒョ! そのとおりだブヒョ!」

(さぁ、ここが重要だぞぉ。金額は慎重に、値打ちを付けてだ。ブヒョヒョ)


「特に、お金には困っておりませんので、この話はなかったということでよろしいでしょうか?」


「ま、ま、待つブヒョォオオオオ!」


「はぁ……。なにか?」


「に、二ノ宮くんとか言ったね。き、君が放送権の判断をするのかね?」


「ええ。社長が探索中の時は一切の権限を私に委ねてもらっておりますので。今回のお話は私に決定権がありますね」


「だったらぁあああああああああ!!」


「はぁ?」


「購入金額は気にならんのかねぇえええええええ!?」


「特に」


(クソアマがぁあ! すかしおってぇ。金額を聞いたら飛び上がるぞ!)


「ブハハハハ。これは朗報なんですぞ?」


「朗報ですか?」


「そう! そちらの事務所でも聞いたことのないような金額が転がり込むのです」


「はぁ」


(ブヒョヒョ。ここはじっくりと溜めてからぁ……)


「では、失礼してもよろしいでしょうか?」


「待つブヒョォオオオオ!」


「はい?」


「どうして、そう早くに電話を切ろうとするんだブヒョ!」


「ですから。特に求めていないと……」


「ま、まぁ、話を聞きたまえよブヒョ」

(ったく、このクソアマがぁ。貴様ん所を大儲けさせてやろうというこの心優しい大恩人の気持ちがわからんのかぁあ! こんな大金をサラッと言えるわけがなかろうが)


「特に必要ありませんので。それでは」


「10億ぅうううう!!」


「はい?」


(ブヒョォオオオオ! 聞いて驚けぇえ!! 小娘がぁ!!)

「10億円で放送権を買おうというのだぁあ!!」


「なるほど。……では、この話はなかったことに」


「ままま、待てぇえええ!! どうして!? なぜだぁああ!?」


「は?」


「10億円がわからんのかぁ!?」


「いえ。お金の価値は十分に理解しております」


「ま、まさか。わ、わしを誰だか知らんのか?」


「いえ。そんな……。よく知っていますよ。第2回S級ダンジョン対策会議に片井社長を呼ばなかった 翼山車よくだし局長ですよね?」


「ぬ、ぬぐぅ! なんでわしが片井なんぞを呼ぶ必要があるんだ!」


「片井なんぞ?」


「あ、いや! か、か、片井社長のことは、その……。な、何かの手違いなんだよ。ブヒョヒョ」


「はぁ? ようするにどうでもよい存在だと?」


「そうは言っておらん! 今や片井社長は日本を救う英雄になるかもしれんのだからな」


「ほぉ……。片井社長のことは、図書カード500円分の価値しかないと評価されていた 翼山車よくだし局長が、お考えを変えられたのですか?」


「ヌグググ……。ハハハ。そ、そんなこと、あったかなぁ??」


「緊急会議の時に言っておられたではありませんか。『こんなレベルの高い案件に君程度の人間に頼んでは申し訳ないよ』と」


「グフゥウウウウウウウウッ!」


「で? そんな局長が今更、どの面を下げて事務所に電話をかけて来ているんでしょうか?」


(小娘が! 調子に乗りおってぇえ!!)

わしは環境省直属。ダンジョン探索局、局長の 翼山車よくだし 金造だぞ!! 口の利き方に気をつけんか!!」


「気に触ったのでしたら、どうぞ、電話をお切りくださいな。私は忙しいのです」


「グヌゥウウ! わ、わかった! ならばビジネスだ! 単純にビジネスの話をしよう! 必ずそちらが得をする話だ!」


「ですから10億ぽっちでは」


「ぽぽぽ、ぽっちだとぉおお!?」


「はい。単純にビジネスならば、はした金かと」


「に、に、に、20億ぅ! どうだ!? これならば破格だろう!?」

(グフフフ。聞いたこともない金額に身体が震えたか?)


「少ないですね」


「なにぃいいいい!? ふ、ふ、ふざけるな! 20億だぞ!? どこの世界に配信者のくだらん生配信の放送権に20億も出すのだ!?」


「切りますよ?」


「待てぇえええええええッ!!」

(こ、この女。なにを考えておるのかさっぱりわからん!? アホなのか? 20億だぞ??)


「忙しいのですが?」


「さ、さ、30億! どうだ!?」


「話になりませんね」


「なにぃいいいい!? き、貴様ぁ! どういうつもりだ?」


「どういうつもりもなにも。30億ぽっちで生放送の放送権は譲れないと言ったのです」


「あぐぬぅうう……。しかし、さ、30億円だぞ!? 破格だろうが?」


「考えてもみてください。暗奏は世界中が注目しているダンジョンなのです。今やヅイッターのトレンドは1位を獲得。Yabooのトップニュースにも掲載。探索配信動画ランキングも堂々の1位です。明日になれば新聞の一面を飾り、各雑誌の取材も来るでしょう。今や、片井社長の生配信は絶大な人気を得ているのですよ。それが、たったの30億? 話になりませんね」


「で、では一体、いくらなら売ってくれるのだ?」


「そうですねぇ……」


 と、紗代子はパソコンのキーボードを叩いた。


「100億ですね」


「ひゃ、100億だとぉおおおお!?」


「別におかしい話ではありません。そもそも、この放送権に至っては、探索局以外からも依頼が殺到しているんです。海外からだって、凄まじい数の依頼が来ているのですよ?」


「ぐぅうう……」


「それに、どうせ。独占権も必要なのでしょう?」


「はう!?」

(こ、この女……。何者だ?)


「あなたの話し振りでは、スポンサーの独占契約が既に確約済みなのでしょう。暗奏はSS級認定の事案なんですよ? 社長の生配信に各国が注目し始めているんです。そんな配信を独占すればワールドカップやオリンピックと同等の広告料が入るでしょう。100億でもお釣りが来るはずです」


(クゥウウウ。こ、ここまでわかっておるのかぁ……。しかし、背に腹はかえられぬ。儲けは200億もあるのだからな)

「わ、わかった。その100億で──」


「お待ちください」


「は!? ま、まだ何かあるのか?」


「500円の図書カード。それが片井社長の評価でしたよね?」


「そ、そ、それは……。今は別格じゃわい。片井社長の評価は変わっておる!」


「そうですか。では、現在の評価を上乗せしていただきましょう」


「な、なにぃいい!?」


「100億円に……。プラスして、現在の片井社長の評価です」


(グゥヌゥウウ。このアマぁ、舐めよってぇ! 片井に渡すはずだったのは、環境省から支給された300万円だ。つまり、残り2999500円か。ちぃ! くだらん出費だが致し方ない)


「わ、わかった払おう」


「そうですか。ありがとうございます。では──」



 と、紗代子はニヤリと笑った。




「1億円で契約成立ということで」




 局長は目を剥く。


「にゃにぃいいいいいいいい!? ひゃ、ひゃ、ひゃ、150億だとぉおおおおおお!?」


「ええ。社長の正当な評価ですからね。50億円の上乗せ。当然ですよね?」


「ふ、ふ、ふざ、ふざ、ふざけるなぁあ!! ご、50億なんて、認められるかぁあああッ!!」


「本当は500億と言いたかったのですよ? それを譲歩したのです。感謝して欲しいくらいですがね」


「あがががが…………」


「どうします? やっぱりやめますか?」


(グヌゥウウ……。総利益が200億で権利購入が、150億なら……。ま、まだ50億は儲かる。グゥウウ。かなり買い叩かれたが、し、し、仕方ない)

「わ、わかった。そ、それで頼む。しかし、独占だぞ! テレビ放送の一局だけで生放送をするんだからな!!」


「ええ。それは構いませんけどもね。現場にいるコウモリカメラの設定は変えれませんよ? つまり、ネット配信の映像からテレビ局に繋げるだけになります」


「……ううむ。やむを得んか」


 結局、 翼山車よくだしは150億円で放送権を購入した。

 片井ダンジョン探索事務所は大儲けである。




────

次回、鉄壁さんの暗奏探索回です。

お楽しみに!


え?  翼山車よくだしの処罰が甘いって?

お客様、まだまだ序奏でございますよ。

こんなもので終わらせるつもりは毛頭ありませんから。

ご安心くださいませw


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