第70話 片井の実力
〜〜一文字凛視点〜〜
深夜1時。
暗奏に突入して3時間が経つ。
私たちは地下15階まで進んでいた。
ハッキリ言って相当早い。
S級探索者パーティー、
この調子ならその記録も超えてしまいそうだな。
これも片井さんの実力があってこそだ。
彼は想像以上の実力者だった。
昇級試験は受けておらず、最低等級のD級だが、その実力はS級といってもいい。
いや、それ以上かも。
身体能力は去ることながら、洞察力、思考、センス。全てが高レベルだ。
今だって。
「イッチー! そっちに行ったぞ!」
「はい!」
戦っているのはスピードスターワイバーン。
飛行する竜のモンスター。
その移動速度は超高速。肉眼で捉えることはできない。
S級モンスター認定の中でも相当に厄介な敵である。
討伐方法なんて極秘中の極秘。
S級探索者の中でも討伐した者は少ないだろう。
むしろ、殺された者の方が多いかもしれない。
そんな敵を3体も相手にしているのだ。
「
信じられない防御センス。
スピードスターワイバーン相手に、私たちは無傷で戦っている。
片井さんは砂を掴んで少量づつ落としていた。
それは砂時計のようにサラサラと落ちる。
そうすると、わずかな気流でその砂が動くのだ。
その砂の様子で敵の動きを察知する。
こんな方法を敵の初手を受けた瞬間から思いつきでやっている。
す、すごすぎる……。
「そっちか。
ガジィイイイイイイン!!
魔法壁にぶつかると、ワイバーンの体が見える。
そこを、沖田さんの大剣が、
「たぁああああああああ!!」
ザグゥウウウウウウウウン!!
「鉄壁さん。やったよ!」
「よし。あと2匹だ」
抜群のコンビネーション。
パーティーの指揮系統は片井さんが完璧だ。
指示を出すタイミングが抜群にいい。彼の気配を読みとって初動を準備している沖田さんの動きには無駄がない。
加えて魔法壁の防御は鉄壁。
さ、最強すぎる。
「イッチー! そっち!」
「は、はい!」
私だって負けてられない。
「
強烈な衝突音と同時。
スピードスターワイバーンの姿が見えた。
「
私の鞭がワイバーンの羽根をもぎ取る。
すかさず頭部を粉砕したのは沖田さんの大剣だった。
グチャァアアアアッ!!
よし。
残り1匹だ。
片井さんがすごいのは探索者のスキルだけじゃない。
「えーー。このように、砂を少しずつ出してぇ。ほら、動くでしょ? 気流の方向を読んでぇ。そこをね──」
もう余裕で解説してるし。
「──
いやいや。
これS級モンスターだよ?
見えないほど素早い飛行攻撃をこうもあっさりと防御しちゃう?
この討伐がネットに流れるのって世界初じゃないかな?
こんな余裕で解説してもいいのだろうか?
「壁、パンチ」
ベチャァアアアアアアアアアアッ!!
ああ……。
簡単に倒しちゃった……。
『うひゃあああ! かっけぇえええ!!』
『強さヤバすぎッ!!』
『爽快!』
『流石は鉄壁さん!』
『この敵ってS級だろ? 討伐シーンなんてネットにないのだが?』
『この映像、世界初じゃね?』
『スピードスターワイバーンの姿をはっきり見たのも始めてなのにw』
『無敵すぎるw』
『超貴重映像』
『いつ見ても最高!』
『無双wwwwwwwwww』
『今日は徹夜っす。寝れねぇw』
そりゃ、コメントも沸くよね。
片井さんが人気の配信者なのがよくわかる。
ふと、彼が何かに気がついた。
「ん?」
視線の先には空間の歪み。
あれ?
なんだか、妙な違和感が。
大きさは片井さんの腰くらいの高さかな。
小さな物体が動いているように見えるのだけど。
全体が透けて見える……。透明?
私たちの視線に気がついたそれは走って逃げようとした。
「逃がさん。
ゴツン。
それの逃げる先に魔法壁が設置されたのだろう。
接触音が鳴り響くと、地面に横たわる少女が現れた。
「痛ぁああっ!」
それはツインテールのエルフの少女だった。
彼女は確か、暗奏の入り口で泣き叫んでいた女の子だ。
エルフだから正確な年齢はわからないけど、見た目は10歳くらいだろうか。
透明になっていたのは彼女のスキルかな?
片井さんは私たちの思いを代弁してくれるように聞いてくれた。
「透明になっていたのはおまえの力か?」
彼女は悪態をつく。
「……ふん!」
「透明になって俺たちの跡をついてきてたのか?」
「…………だ、だったらどうだってのよ!」
「危険なモンスターがウジャウジャいるってのにさ。なんで入ってきたんだよ?」
「…………に、人間は信じられないもん」
この言葉には返す言葉が出ない。
私たち自衛官は政府の命令で、彼女の母親を見殺しにしようとしていたのだからな。
号泣する彼女を邪魔者扱いしていた。
彼女は私たちを指差した。
「人間男。人間女。人間女。あんたたちは信用できない! お母さんは私が助けるんだ!」
ああ、そのためにこんな危険なダンジョンに……。
「暗奏の黒い手に囚われたのは3人のエルフだった。その1人がおまえのお母さんなのか?」
少女はコクンと頷く。
「助けるって……。おまえは透明になる力以外に、なにか使える能力を持っているのか?」
「……な、ないけど」
これには私たち3人がため息をつく。
気持ちを代弁してくれたのは、やはり片井さんだった。
「無茶だなぁ」
「で、でも……。透明になってお母さんと一緒に逃げればいいもん!」
「……なるほど。戦闘を俺たちに任せれば、まぁ、できなくもないのか」
「ふん……!」
ああ……。
もう15階だし。
引き返せなんて言えないしな。
とんでもない人員が増えてしまった。
私たちの不安とは他所にコメントは湧きに湧き上がっていた。
『お母さんを助けにとか、ええ子やん!!』
『悪態が気になるけど美少女だから許す』
『可愛いは正義』
『ちょwwリアルに可愛えええ』
『エルフのロリっ子』
『お母さんを助けるとか泣けるわ』
『俺得www』
『天使やん』
『めっちゃ可愛い』
『クソ。次から次に面白いな』
『ロリと聞いて飛んできますた』
『お母さん、助かるといいな』
『鉄壁さんに頼むんや!』
『イレコの母乳もある』
『鉄壁さんなら必ず助けてくれるよ!』
『娘にしたい』
『尊い』
ああ、ネットって色々な人がいるなぁ……。
同接250万人か。
しかも、まだ増えてるな。
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