第71話 エルフの少女


〜〜 衣怜いれ視点〜〜

 

 小さなエルフの少女が現れた。

 透明になれる能力を使って隠れながらついてきちゃったみたい。

 自分のお母さんを助けるために。


  真王まおくんが色々と聞いてるけど、彼女の態度はよろしくないな。

 人間に不信感を持っているみたいだ。


 日本政府は、彼女のお母さんを見殺しにして暗奏を封鎖しようとしていたんだから、気持ちはわからいでもない。

 もちろん、探索自衛官を千人投入してのことだから、政府がまるきり悪いというわけでもないのだけど。

 子供にはそんな事情わかるわけもないわよね。

 それに、ピクシーラバーズではエルフは酷い扱いみたいだったし。暗奏の事件と相まって人間不信が爆発しているのだと思う。


  真王まおくんは、そういうことを察してあげてるんだろうな。

 終始優しい態度だ。


「さっき、魔法壁にぶつかったろ。大丈夫だったか?」


 彼女はプイと顔を逸らした。


 あらら。

 すぐには心を開いてくれそうにないか。


  真王まおくんは腕時計を見た。


「もう1時か。急がないといけないとけどさ。少し休もうか。食事と睡眠は取らないと終盤でヘタっちゃうよな」


 あ、


「じゃあ、テント出すね」


 と、私が用意をしようとした時である。

 凄まじい強風とともに黒い手がやって来た。

 その数10本を超える。


「やれやれ。またコイツらか」


 理屈はわからないけど、入り口で私たちを襲ったあの黒い手だ。定期的に襲って来る。


「お、お母さんを返せ!!」


 ああ、彼女の母親はこの手に連れ去られたんだな。


「おい少女。危ないから下がってろ」


「うう……」


攻撃アタック 防御ディフェンス


  真王まおくんの魔法壁が黒い手の突撃を止める。



「壁、パンチ」


 

 ワンパンで撃破。

 エルフの少女は興奮していた。


「お母さんを返せぇええええええええええええ!!」


「おいおい。気持ちはわかるが、あんまり大きな声を出すとモンスターが寄って……」


 それは一瞬の出来事だった。

 私の髪がほんの少し揺れたかと思うと、 真王まおくんは魔法壁を張っていた。




攻撃アタック 防御ディフェンス




 しかし、それは通常の厚み。

 S級のモンスターには通じないのだ。


「危ない!」


  真王まおくんはエルフの少女を抱きかかえる。

 それと同時に、魔法壁は大破。


 私たちは吹っ飛ばされた。


「きゃあああああッ!!」


 ダンジョンの壁にぶつかると、強烈な痛みが背中を襲う。


 うう……。

 こ、これは……。骨にダメージがいったかも。

 ハイポーションは収納スキルで亜空間の中。


「2人とも構えろ! スピードスターワイバーンだ!」


 ああ、ハイポーションを取り出す暇がない。


 おそらく、少女の声に反応してやって来たのね。


  真王まおくんが魔法壁を出してくれたから良かった。

 あれがなかったら3人とも死んでいたわ。


 一文字曹長は肩から出血している。

 相当なダメージね。

  真王まおくんは?


「グフッ……」


 と、吐血してる!!

 脇腹から出血だ!!


「鉄壁さん!」


「俺は大丈夫だ……。それより、少女。おまえは無事か?」


 彼女も傷だらけだった。

 相当に身体中を打ちつけたらしい。

 でも、 真王まおくんが庇わなかったら即死していたかも。


「う、うう……。に、人間男。私は助けなんて求めてない」


「……ああ、そうかもな。……別に頼まれたからやったんじゃないさ。俺が避けるところにおまえがたまたまいたんだよ」


 うう。

  真王まおくんの嘘つきぃ。

 完全に女の子を庇って自分がダメージ受けてたよね。

 ああ、でも優しい……。

 うう……好き。

 優しくて最高。好きすぎるぅ。

 今すぐにでも、コウモリカメラに向かって私の彼氏を自慢したい。



「おまえは透明になって自分の身を守れ」


「わ、私だって……。た、戦えるんだ。ハァ……ハァ……」


 そう言って、少女は小さなナイフを取り出した。


「バカ。今は身を守ることに専念しろ。そんな傷だらけで戦えるもんか」


「うう……」


「いいか? 探索パーティーってのはチームワークが重要なんだ」


「ちーむわーく?」


「ああ、そうだ。いわゆる役割分担だな」


「役割……分担」


「俺たちが敵と戦う。おまえは透明になって自分の身を守る。それが最高の作戦なのさ」


「うう……。で、でも……。私だって戦えるもん!」


「おまえが透明になって身を守ってくれてたら俺たちは自由に動けるんだよ。その方が効率的なんだな。勝算が上がるんだ。わかるか?」


「た、戦えるもん!!」


「戦ってるさ」


「え?」


「一緒にいるじゃないか。もうそれだけで十分なんだって」


 その時、凄まじい風が吹いた。



攻撃アタック 防御ディフェンス20倍!」



ガキィイイイイイイイイイイイインッ!!



 スピードスターワイバーンが魔法壁にぶつかったのだ。

 その衝撃が地面に伝わる。

 

 どうやら1匹みたいね。

 でも、私たちは深手を負ってしまった。


 その証拠に、すぐに攻撃に移れない。

 ワイバーンは体勢を持ち直して再び姿を消す。

 高速移動するその姿は、私たちの目では捉えることができなかった。


「い、今のは勘で魔法壁を張れた。さっき戦った3匹の戦いが効いていたらしい。でも、次はわからない」


 そうだよね。

 壁パンチが出なかったもん。

  真王まおくん……。相当キツイんだ。


  真王まおくんは汗を垂らした。


「なぁ。協力してアイツを倒さないか?」


「きょ、協力?」


「そうだ……。おまえは透明になって隠れる。俺たちがアイツをやっつける。チームワークさ」


「ちーむ……わーく」


「ああ。できるか? 役割分担」


「う、うん」


「よし。おまえの役割はなんだ?」


「透明になって身を守る。 透明化シースルー……」


 そう言って透明になった。

  透明化シースルーっていうのが彼女のスキルなのね。


「よぉし。良い子だ」


 ああ、 真王まおくんは将来良いお父さんになるわね!

 会話を聞いてるだけでもキュンってなるもん!

 優しい! もうすっごく好き!

 命が掛かってる時に不謹慎かもしれないけど、 真王まおくん大好き!!


衣怜いれ! イッチー! 3人でやるぞ!」


「うん!」

「わかりました!」


 コメントは、深夜1時とは思えないほどの盛り上がりを見せていた。


『ふぉおおお! 熱い展開ぃいいい!!』

『ロリッ子、ええ子やん』

『負けるなぁあああああ!!』

『鉄壁さんファイトぉおおお!!』

『4人ともガンバーーーー!!』

『マジ応援!』

『ウルチャで応援しかできん! がんばってください!』

『うぉおおおおおおおお!! やったれぇえええ!!』


 同接270万人。

 暗奏封鎖のタイムリミットまで、あと26時間。


 うう、負けないわよ。

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