第67話 暗奏探索とテレビの実況
「鉄壁さん! 来たよ! グレインハウズ3体!」
それは木のモンスターだった。
グレインハウズはS級モンスターなんだがな。
そんな奴が雑魚モンスターのように出てくるんだから、このダンジョンの難易度が容易に想像できるだろう。
「
俺は敵の攻撃を全て防御する。
「イッチー。今だ!」
「はい!」
イッチーとは一文字曹長の配信名。
流石に曹長とか本名はまずいからな。
彼女は政府の命令に反した犯罪者ってことになっている。
だから、俺が名付けたんだが、意外と慣れてきたもんだ。
「
鋼鉄の鞭を剣のようにして敵の体を破壊する。
流石は曹長だ。実力的にはS級の探索者に相当するらしい。
彼女に続いたのは
「たぁああああああッ!!」
彼女の大剣が敵の体を切り裂く。
2人の同時攻撃が炸裂。
なんとか1匹を撃破。
残り2匹は……。
「壁、パンチ」
俺の攻撃で殲滅する。
グチャァアアアアアアアアアッ!!
2体のグレインハウズは魔法壁とダンジョンの壁に挟まれる。
強烈な力に全ての体組織は破壊され、煙りのように消え去った。
暗奏の中ではとんでもないバトルが繰り広げられていた。
俺のチャンネル史上、最強の探索といっても過言ではないだろう。
付随して、コメント欄は大盛り上がりである。
『すげぇええええ!!』
『かっこいい!!』
『迫力満点!』
『新キャラのイッチーも強いな!』
『映画超えてるわ』
『これ、DVD化したら絶対買うやつ』
『配信史上、ダントツでカッコイイ』
『面白すぎて寝れんw』
チャンネル登録者は2倍以上に膨れ上がっていた。
その勢いは止まることを知らない。
もう、ジ・エルフィーの登録者150万人を軽く超えているよ。
☆
一方、その頃地上では。
テレビ放送にて暗奏の件が放送されていた。
『先ほど、福音ダンジョンの功労者、イレコさんがダンジョンに突入した模様です。S級ダンジョン暗奏は、これより封鎖が実施されます!』
レポーターの報道に、ネット民は大混乱。
『はぁ? 封鎖ってどゆこと!?』
『いや、千人の探索自衛官は??』
『鉄壁さんが攻略に進んでおりますが?』
『テレビ、嘘つくな!』
『イレコちゃんを生き埋めにするつもりではあるまいな?』
『配信見ろしww』
『配信。配信』
『テレビと連携取れてないのか?』
ヅイッターには様々な憶測が流れる。
これには報道関係者が全員で首を傾げた。
あるテレビ局では、
「ディレクター! 千人のダンジョン自衛官の安否はどうなったのかと苦情が殺到しております!」
「放っておけ。俺たちは上の命令に従うだけだ。暗奏は封鎖すること前提なんだよ」
「それじゃあ、この鉄壁さんの配信を見てくださいよ!」
「……マジかよ。これ明らかに攻略に向かってるぞ。暗奏は封鎖するんじゃないのか? 上からは封鎖前提の報道規制受けてんだぞ!?」
「地域住民から銃声が鳴ってるって苦情が殺到しています。テレビ局でも取材しろって」
「うるさい! そんなことより鉄壁さんの生配信が問題なんだよ!? こいつ何考えてんだ!? 政府の命令無視してんのか??」
「生配信の映像をテレビでも使えればいいんですけどね」
「バカ。そんなことできても政府の命令が優先だよ。封鎖前提の報道規制なんだからな。ダンジョン攻略してるなんて報道してみろ! 俺たちの首が飛ぶぞ!」
深夜1時。
総理官邸では、大和総理が机を力強く叩く。
大会議室の大型スクリーンには、防御魔法で探索チャンネルの生配信映像が流れていた。
「なぜだ!? どうして!? この鉄壁さんとは何者だ!?」
「ブヒョォオオ……。お、おそらくD級探索者の片井という者でしょう。私はまったく状況を把握しておりませんし、片井なんぞよく知りませんがね。沖田
「ほぉ……。では
「こ、功労者というほどでも……。まぁ、よくは知りませんが」
「道理で強いわけだ。圧倒的強さに目を奪われる。
「ハ、ハハハ……。ご冗談を」
(500円の図書カードレベルなんだよブヒョヒョ)
「しかしわからんな。どうして、彼は我々の指示を無視しているのだ?」
「ええ本当に。私もまったく皆目検討がつきません。彼は、どうしてこんなことをしているのでしょうか? 封鎖もせずに攻略に向かうとは暴挙にもほどがありますな。総理の指示を無視するなんて外道の極み。善良な国民とはとても思えません。非国民にもほどがある! 誠に遺憾でございます!」
その部屋には各自主要人物らが座っていた。
国家の一大事に緊急会議を開いていたのである。
総理は防衛大臣に聞く。
「鎧塚防衛大臣。現場の被害状況はどうなっておるのだ?」
「はい──」
と、静かに答えたのは、鎧塚 古奈美。42歳。
政界切っての美人大臣。
どう見ても30歳。というのが世間での評価だ。美魔女と呼ばれ、熟女マニアのアイドルである。独身なのが余計にマニアの心をくすぐるのだろう。
若い頃はモデルだったらしく、そのスラリとした容姿に男たちは目を奪われた。
その見た目とは裏腹に、才覚に優れ、軍師としての評価が高い。
その冷徹な判断から氷の女王とも揶揄されることも。
また、おそろしいほどの美乳でも有名だった。
張りがあって形がいい。
本人は気にしているので、できるかぎり胸元の開かない服を着ているらしい。
至極真っ当な話をしていても、美乳すぎて話が入ってこないのだ。
そんな鎧塚はメガネの奥に鋭い目をキラリと光らせた。
もちろん、張りのある美乳は健在である。
「暗奏突入の際に黒い手に連れ去られた犠牲者は72人。これで行方不明者は2352人になります」
「ふぅむ。それで、現場を纏めているのは誰だ?」
「現場を統括しているのは桐江田一尉です。現在、連絡待ち。現場が混乱しているため、まだ連絡が取れておりません」
「今回の作戦は一尉の独断なのだろうか? それとも片井の暴走か? 現場の状況は確認できたのか?」
「状況では沖田
「この配信は明らかに攻略に向かっているよ。それに現場では封鎖の動きはしていないのだろう?」
「……」
鎧塚は目を細めた。
(はぁ……。まいったわね)
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