第74話 テレビ VS 生配信 (中編)

「ふざけるな!! たかだかダンジョン配信で1700万人なんぞありえるかぁああ!!」


「そう言われましても……」


「貸せぇええ!」


 と、 翼山車よくだしはタブレットを奪い取った。

 そこには更に100万人が増えた1800万人の視聴者数が表示される。


「し、信じられん。どうしてこんなことが? 深夜の1時ごろは300万人程度だったろうがぁあ!!」


「海外からのアクセスが急増しているようですね」


「海外の!? なぜだ!?」


「どうやら切り抜き動画が話題になっているようです」


「き、切り抜きだとぉおおおお!? ど、どういうことだ!?」


「バトルシーンだけが切り抜かれて、海外の文字が字幕付きで拡散されているようです」


「にゃにぃいいいいい!?」

(さては、あの女かぁあああ!!)




  翼山車よくだしは片井ダンジョン探索事務所に電話をかけた。


「二ノ宮ぁああああああ!! 貴様どういうつもりだぁあああ!?」


「んもう。うるさいですねぇ」


「切り抜き動画だぁああ!! 契約違反にもほどがあるぞ!! 今すぐやめんと訴えるからなぁああ!!」


「はぁ? 私は違反なんてしておりませんが?」


「生配信の独占権利をわしが買っただろうがぁあああ!!」


「ええ。ですから。海外には売っておりません」


「切り抜いておるだろうがぁああああ!!」


「それは過去のアーカイブ動画分じゃないですか。生配信じゃないですよ?」


「そんなもんは詭弁だろうが!!」


「いいえ。そもそも。生配信の放送権を譲っただけで動画自体は当社の商品です。それをどう加工して拡散させようが我が社の勝手ですよ。文句を言われる筋合いはありませんね」


「あぐぅううううううううう!!」


「どうしたんです? 配信は相当な話題になっていますよ? CM広告費用だけで相当な儲けが出ているのではないのですか?」


「そ、それはぁ……」


「そもそも、切り抜きがネットで話題になればテレビの視聴率だって上がるでしょう? どう考えたってあなたに利益があるじゃないですか。そちらは芸能人とか著名人のコメンテイターがついて豪華なんですから。ネットよりもたくさんの人が見るでしょう。なにを怒っているのかさっぱりわかりませんよ」


「あぐぐぐぐぐぐ……」


「私の計算では……。200億は儲かるのではないでしょうか? 私どもに150億円払うので、まぁ儲けは50億程度になるかもしれませんがね。それでも50億円も儲かるのです。問題なんてないでしょう?」


 流石の紗代子でも、特殊なシステムは知らなかった。

 スポンサーボーナスのペナルティは100億円である。

 

 そもそも、これはテレビの普及率から考えても、テレビが圧倒的に有利な条件であった。

 国内のネット配信で1千万再生などはヒット曲でもないかぎりあり得ない数値。

 よって、罰金100億円という、絶対的に厳しい条件が付け加えられているのである。


「グヌゥウウウウウ! は、話しにならん!!」


 電話はガチャンと切られた。

 紗代子は眉を寄せるだけだった。


「えーー。意味わかんないわぁ??」


  翼山車よくだしはブルブルと震えた。


「ディ、ディネルアよ。今、視聴率はどうなっておる?」


「33%ですね。先ほどより上がっています」


「あ、上がっているとはいえ3300万人じゃないか。……か、片井のはどうなっておるのだ?」


「2200万人ですね」


「なにぃいいいいいいいい! 迫ってきておるぅうう!!」

(止まれぇえええ! 止まってくれ片井ぃいいいいい!!)


「CMに入りましたね。あ、視聴率が25%まで落ちました」


「にゃにぃいいいいいいいいいいいいい!? か、か、か、か、か、片井のはいくらだ!?」


「2300万人です」


「ぬがぁああああああああああああああ!!」


「また下がりました。視聴率24%」


「うごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「片井さんは2240万人まで上昇しています」


「せ、迫ってきておるぅううううううううううううううう!!」


「片井さんの方は緩やかに上がっていますね」


「うぐるぁああああああああああ!! ストップゥウウウウウ! ストップだぁああああああああ!!」


「片井さん2250万人」


「ぬぁああああああああ! 止まれ止まれ止まれぇええええええええええ!!」


「視聴率は23%まで落ちました」


「ぐぉおおおおおおおおおおおおお!! 少数点まで報告しろぉおおおおおおおおお!!」


「視聴率22.88%。片井さん2250万人。その差は38万人です」


「止まれ止まれ止まれ止まれぇええええええ!! 止まってくれぇえええええええええええええええええ!!」


(終わるぅううう! わしの人生がおわってしまうぅうううう!! 片井の視聴者数がテレビを超えれば50億の赤字だぁあああああああ!! 貯めに貯めこんだわしの貯金が消えるぅうううううう!! うぐぁあああああああああああああああああああ!! 神よ仏よキリストよぉおおおおお!! どうかこの 翼山車よくだしをお助けくださいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!)


 と、空を仰いだその時である。

 彼の思いが天に届いたのだろうか。


「あ、CM終わりました。30%まで回復しましたね。片井さんのは2300万人です」


「ぐふぅうううううううううううううううううううううううう!!」

(助がっだぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!)


わしは負けん! 負けんのだぁああああああああああ!!」



──

次回。

テレビVS生放送。決着編です。

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