第64話 暗奏へ


〜〜片井視点〜〜


 22時。


「ライトを照らせ! これからイレコのパーティーが暗奏攻略に向かう。我々は彼女ら3人を全力で援護するんだ!」


 凛々しい声を出したのは桐江田一尉である。小柄な人で、まるで子供みたいだけど、一文字曹長の上司みたいだからな。指揮官としては頼りになるようだ。


 生放送は始まっていた。

 一文字曹長からの許可は貰っている。

 上層部の撹乱が目的らしい。

 一尉の姿にたくさんのコメントが寄せられていた。


『なんか、可愛い一尉だなw』

『JSやんwww』

『一尉ってことは相当な格上だよな?』

『なんちゅうロリww』

『合法ロリw』

『子供でも一尉になれるのか?』

『でも、喋り方だけを聞いてたら仕事ができる感じだぞ。声は可愛いが』

『美少女の上司とか萌える』

『JS自衛官w』

『桐江田一尉たんカワユス』

『あーー。なんか緊張してきた』

『どうなるんだろう?』


 一尉は続けた。


「暗奏の周囲30メートルに近づくと黒い触手が現れる。その手は人ほどの大きさがあって、捕まるとダンジョンに引きづり込まれてしまう。イレコのパーティーが触手に捕まらないように援護しなくてはならない。援護のゴールは30メートル先にある暗奏ダンジョンの入り口だ。中に入ることさえできれば探索者の力が使える」


 そう。

 地上では、俺たちは普通の人間なんだよな。

 探索者が能力を使えるのはダンジョンの中だけ。

 故に、地上でのモンスター討伐は慣れていない事案なんだ。


 桐江田一尉が招集をかけてくれたのは300人の探索者だった。、彼らが援護チームとなって、俺たちを守ってくれる。100人は防御魔法の得意な探索者たち。もう100人は暗奏対策会議から付いて来てくれた上位の探索者連中だ。

 そして、後方支援で銃火器を使う100人は探索自衛官たちだった。


 一尉はみんなに説明する。


「銃火器類、および弓矢などの飛び道具の使用は後方の隊だけに限定する。主軸はあくまでも前衛者だ。防弾盾で敵の攻撃を防ぐことになる」


 ほぉ。

 

「黒い触手を倒すのが目的じゃないのか……」


 この疑問には男装をした一文字曹長が答えてくれた。


「黒い手は硬いんです。普通の人間の力では切り落とすことはできません。それに跳弾も怖い」


「ちょうだん? なんです、それ?」


「銃弾が跳ね返る現象ですよ。硬い物を撃つと発生するんです。当たるとかなり痛い。目に入れば失明。火傷だってします。だから、至近距離の発砲はできません」


「なるほど」


「しかも、傷を付けれる部分は弱っている表面だけです」


「弱るって?」


「黒い手は地上に出ると外気によって消滅が始まります。表面が蒸発し始めるんです。攻撃が通るのはその表面くらいなのです」


 なるほど。

 ダンジョンモンスターは地上には出れないからな。

 地上に出た瞬間から消滅が始まる。

 黒い手は消滅する前に人間を掴んでダンジョンに連れ去るんだ。

 だから、メインは盾を使った防御になるのか。


 あ、


「そういえば、あなたの名前。考えてなかった」


「ああ……。配信名というやつですね」


 彼女は政府の反逆者だからな。

 名前や階級をネットで晒すのはまずいだろう。

 えーーと、一文字曹長だからぁ。


「イッチーでいいですか?」


「イ、イッチー?」

「あは! 可愛い名前。私はそれでいいと思うよ」



 探索者たちには防弾盾があてがわれていた。

 警察が犯人を制圧する時に使う装備だな。


「ったくよぉお。なんで俺たちがおまえらのために命をかけなきゃなんねぇんだよぉ?」


 それは赤髪のモヒカン頭の男だった。

 体のあちこちにタトゥーを入れている。

 どうやら舌にはピアスをしているようだ。

 探索者みたいだが、明らかに態度が悪い。


「俺の名は赤森 ファイアってんだ。炎魔法の達人だぜ。A級探索者だ。へへへ」


 炎と書いてファイアとはキラキラネームだな。

 それにしても赤髪で苗字に赤が付くやつはこんなヤツばっかりなのかなぁ?


「この2人のどっちかが鉄壁さんかよぉ? んーー? どっちも弱そうな体つきじゃねぇかよぉお。ギャハハハ!」


 赤森は、フードを深々と被る俺と一文字曹長の顔を覗き込んだ。

 おいおい。鬱陶しい奴だな。


  衣怜いれは露骨に嫌な顔を見せた。


「やめてください!」


「ヒャッハー! イレコちゃん、近くで見ると超イけてんな!」


「邪魔するなら帰ってくださいよ!」


「バーーカ。俺様がおまえを守ってやるって言ってんだよ。女は男に頼ってりゃあいいんだよ。ケハハ。俺の力に惚れちまうかもしんねぇぞ。ヌハハ!」


「…………むぅ」


「ふん! 鉄壁野郎と俺様と、どっちが強いか証明してやるよ。使える方を仲間にするのが道理だろうがよ」


「あなたが鉄壁さんに勝てるとは、とても思えませんけどね?」


「ヒャッハー! ま、楽しみにしてろよ!」


「あなたわかってます? 今、生配信中なんですよ?」


「ギャハハ! んじゃ俺も有名人になっちまうかもな!」


 そう言ってコウモリカメラに向かって顔を突き出した。


「視聴者どもよ。鉄壁野郎より俺様の方が実力があるってことを見せつけてやるからな!」


 余裕で顔出しとか、中々の根性してるな。

 そこだけは認めてやろう。


『なんこいつ? うざ』

『うぜぇえw』

『モヒカンwww』

『氏んでよし』

『髪型よ』

『うっざ』

『雑魚じゃんw』

『イレコちゃん。斬ってよし』


 そういうコメントになるよなぁ……。


「てめぇらコラ!! 俺様に向かってなんだそのコメントは! 暇人のオタクどもがぁ! こっちは命かけとんじゃい! てめぇらの住所を調べてぶっ殺してに行くからな! 舐めとったら承知しねぇぞ!!」


 色々な探索者が集まっているからな。

 こんなのも混ざるか。

 まぁ、1人でも協力してくれりゃあ戦力にもなるだろう。


 桐江田一尉は大きなホワイトボードを取り出した。

 そこには俺たちのパーティーとそれを援護するチームが絵描かれていた。


「イレコパーティーの周囲を、盾を持った探索者で囲む。そのまま一直線に暗奏の入り口まで駆けあがる。前回、千人の探索自衛官が入った時は10人の犠牲者が出てしまった。しかし、今回は援護チームを強化したからな。銃火器類の補填。加えて、探索者を増員したことによって遥かに強固な守りとなった。イレコパーティーを中心に四方に100人。残り200人を後方からの援護。主に銃火器を中心に使う援護隊とする。目標は怪我人を0人にすることだ!!」


 ふむ。いい心がけだ。

 それに200人の振り分けが絶妙だな。

 前衛を増やさないのは渋滞を避けるためだろう。


「全員、準備はいいか!?」


「「「 おおーー!! 」」」


 うむ。

 頼もしいな。


「ヒャッハーー! 祭りだぜ、ヒィーーハァーーーー!!」


 赤森……。

 めちゃくちゃ目立ってるな。


 俺たちを中心に隊列が組まされたのは暗奏の手前60メートルからだった。


 桐江田一尉はメガホンを片手に小さな手を掲げた。

 そして、その手を一直線に振り下ろしたのと同時に号令をかける。

 




「イレコパーティー援護作戦、開始!!」




 ネット上では混乱が起こり始めていた。


『イレコちゃん援護ってどゆこと??』

『暗奏の攻略には、千人の探索自衛官を投入したんじゃないのか?』

『千人の自衛官がエルフを助けに行ってるってニュースで観たけど?』

『千人の探索自衛官はどうなってんだ?』

『鉄壁さんって援軍なの?? 一般探索者が政府の指示で生配信してるの??』


 そんな疑問が徐々に拡散されていくのだった。

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