第51話 片井ビルが発展しすぎて楽しすぎる
片井ビルは只今、大盛況である。
配信は、俺がやっている『防御魔法で探索チャンネル』とエルフの5人姉妹がやってる『ジ・エルフィー。エルフの5人姉妹』がメイン。
事務は紗代子さんを筆頭に大忙し。
エルフたちは真面目で最高の社員だ。リーダーである紗代子さんのことは様付けで慕っている。
彼女の教育のおかげでエルフたちは現代知識が増え、立派な事務員に成長してくれている。
並行して、ジ・エルフィーの活動も目覚ましい。まぁ、こっちは彼女たちからすれば趣味みたいなもんらしいが、事務所の売上の半分は彼女たちの配信で占めていると言ってもいいだろう。
俺が提案する、ダンスや企画はコケることを知らない。どの配信も大人気。
5人姉妹でクイズをやったり、挑戦企画をやるだけで大盛り上がりである。
この前は炭酸の強いコーラに、ダンジョンで採取した魔晶石を入れたらどうなるかって企画をやったっけ。
ネネがコーラを飲む役だったのだけど、炭酸が爆発して彼女の鼻からコーラが吹き出たんだよな。
みんなは大爆笑だった。
配信のコメントは沸いていて外国の人に大ウケ。『イッツ、アメイジング!』なんて書き込みされちゃってさ。腹が捩れるよ。
また、検証企画なんかもやったっけ。
エルフの姉妹らは、初めから日本語が話せたんだよな。
コメントで読めるのも日本語の文章だけ。なぜか外国語は読めないんだ。
それで、海外のエルフの事情と照らし合わせて、どこまで会話がわかるのか、理解度を検証してみた。
付随して、方言なんかも追求してみる。
不思議なことに彼女たちは「なんでやねん」などの関西弁まで理解していたのだ。
おそらく、その国の土地に根付いている言葉は、ダンジョンの魔力によって彼女たちの脳とリンクするのだと思う。
つまり、アメリカのダンジョンからエルフが発見されれば英語を話すエルフになるということだ。
こんな発見を、俺の企画で彼女たちを通して配信していく。
配信の視聴数は鰻登り。
コメントは、
『面白い!』
『最高!』
『純粋すぎる!』
『可愛いい!』
『もっと観たい!』
と、大絶賛だ。
ウルチャをすれば1日10万円以上は当たり前。
もう、投げ銭のチャリーンという音に慣れてしまったよ。
初めて聞いた時に感激していたあの思い出がすでに懐かしい。
ネットの掲示板も盛り上がっていた。
ジ・エルフィーだけの掲示板まで設立されて、熱いコメントが錯綜している。
こうなってくると、
「ファンクラブの立ち上げもいいかもしれないな」
「社長、のでございますか? 鉄壁さんのファンクラブなら相当な人数が見込めるかと。もちろん、会員No.1番は私で決定ですけどね。これだけは譲れません」
なんで俺だよ。
「ジ・エルフィーね」
「ああ。そっちですか」
「会費とかも取ってさ。特別グッズの販売やトーク配信をするんだ。掲示板を見てると姉妹のそれぞれにファンがついてるからさ。ダンジョン探索配信じゃできないファンサイトだけの特別な配信とかさ。事務の合間にササっと撮影して流すとかどうかな?」
「そんな簡単な動画に需要ってあるのでしょうか? トークなんか大した内容を喋れないような気がするのですが?」
「んーー。きっと、普段の私服のコーディネイトとかさ。ファンは気になると思うんだ。何気ない仕草とか表情。そんなのもファンにとっては嬉しいんだよ」
推測だけどね。
「はぁーー。流石はプロデューサー。そんな所に気がつくなんて……隙がないですね。素人の私ではとても思いつきそうもありません」
「いや……。まぁ、まだヒットするかはわからないけどさ」
「では、お試しでファンサイトのホームページを作ってみますね」
「ああ、外注で作るんだね。任すよ」
「いえ。私が作りますからご安心ください」
え?
紗代子さんは事務の統括で多忙なのでは?
「負担にならない?」
「ええ。最近ではネマが先頭に立って事務を指揮してくれてますからね。私の仕事は楽になってきてるんですよ」
ネマとはエルフ姉妹の長女である。
彼女の努力もすごいが、教育した紗代子さんもすごいよな。
そんなわけで、片井ビルは大忙しなのだ。
しかし、まだまだやりたいことはある。
仕事のアイデアは泉のように湧いてくるんだ。
あれもやりたい!
こんなことも!
ぐぬぅ、アイデアが止まらん。
うう、楽しすぎだろ!
創意工夫でドンドンと俺のビルが発展していく。
こうなってくると、圧倒的な人手不足だよな。
俺はこのことを西園寺社長に相談した。
「うむ。では10人ばかり優秀な人材を出向させよう」
即決で快諾。
流石は社長だ。
本当に頼りになるな。
やってきたのは10人の美女たち。
はい?
どうして女ばかり?
しかも見た目よ。
女子アナみたいな人ばっかり来たけどさ。
仕事はどちらかというと裏方で、地味な事務をやってもらうんだぞ?
「片井さんの事務所は美人揃いだからな。男を入れたらトラブルの元さ」
なるほど。
配慮がすごいな。
「ちなみに、同性愛者も排除しているからな」
「え? 俺は気にしませんが?」
「私だって気にしないさ。だから、西園寺不動産には同性愛者が普通にいるよ。ただな。片井さんの所にはやれないね。女同士であっても、恋愛はトラブルの元だからな。あとな、守秘義務は徹底する人材ばかりだ。あなたが「鉄壁の探索者」であることは口外しないようにキツく言い聞かせているので、その辺も安心して欲しい」
はーー。
徹底してるな。
そこまで考えてくれているのは嬉しいよ。
しかしそれにしても、
「綺麗な人、ばかりですね? まるでテレビに出てる人みたいだ」
「まぁ、できる人材を集めたらそうなっただけさ。ただ、過去にはそんな経歴の者もいたかもな。女子アナとかモデル」
道理で綺麗なわけだ。
「安心してくれ。全員フリーだからさ」
はい?
「ああ、彼氏とか旦那はいないということさ」
「なぜです?」
「仕事が恋人なんだろう」
……なんという人材を。
「あとな。念のため個人の内情を調査しておいた」
「なんですそれ?」
「出向が降格だと思われたら困るからな」
「なるほど」
「片井さんの正体を明かしたら、みんなは身を乗り出して喜んでいたぞ」
「まさか、俺の配信を知ってる人だったんですか?」
「そういうことだな」
なんか気恥ずかしいな。
「信頼できる人だと伝えたら、全員、相当に喜んでいたな」
ああ、それは気を遣ってあげないとな。
「嫌なのか?」
「いえ……」
そんなことはありませんけどね。
──彼女たちは出向してきてくれてるからさ。
まぁ、社長の俺は気さくに話しをするわけだ。
彼女たちにしてみれば上司の圧力がなによりのプレッシャーだからな。
俺としては調子よく働いて欲しいんだ。
だから、笑顔をまじえて楽しく……ね。
するとな。
後ろから、得も言われぬ気配を感じとるんだ。
ゾクリ……。
振り向くと
一見すると穏やかな笑みなんだがな。
なんだこの感じ?
一定の距離を保ちながらも、決して会話には入ってこない、微妙な空気。
俺の額からじんわりと汗が滲み出てくる。
探索では感じたことのない危機感だな。
そんな時は、急いで彼女の側に行くようにしているけどね。
そうするといつもの笑顔に戻ってくれるんだ。
その日の晩はとんでもなく甘えてくるからな。にんにくを食べて精力をつけておかないと保たないよ。
出向された女性社員は、それはもう仕事ができる人たちばかりだった。
これは給料でお礼しないといかんよな。
「紗代子さん。出向者の給料ってどうなるんだろうか?」
「通常は出向元と同額。もしくは出向先に合わすのが通常ですね。2社間で条件を決めるのが普通です」
ふぅむ。
西園寺社長からは給料の権限は俺に一任されているからな。
「じゃあ、西園寺不動産で貰っていた1.5倍を払うことにしよう」
「え!? そんな額、聞いたこともありませんよ? 事実上、出世じゃないですか!」
「まぁ、忙しい会社に来てくれてバリバリ働いてくれてるからね。その辺は充実したいんだ」
「そうは言っても。みんな定時で仕事は終わってますよ? 優良企業すぎませんか?」
「それは紗代子さんが現場を纏めてくれているからだよ」
そう言うと、彼女は全身を真っ赤にした。
「しゃ、社長のお力です……」
「ははは。まぁ俺なんか大したことはしてないさ」
さぁて、そうなると人件費だぞ。
出向者の給料だけで月額800万円は飛んでいきそうだからな。
最近は、紗代子さんとエルフたちの給料も更に上げたし、人件費の出費がえげつないんだ。
アイデアを実現して収入を増やさないとな。
「ジ・エルフィーのファンサイトはどうなったかな?」
「はい。社長が社員の増員をしてくれたおかげで、ほぼ完成しております。あとは月額の会費設定だけですね。いくらくらいにしたらよろしいでしょうか?」
会費か。
「考えたこともなかったな」
「調べた所。アイドルのファンクラブの場合。年間平均5千円程度ですね。月額にすると400円程度になるでしょうか」
ふぅむ。
「んじゃあ、300円でいってみますか」
「か、格安ですね」
「薄利多売でいこうよ。安い方がファンも喜ぶだろうしさ」
「うう……。優しすぎる……」
採算が取れない場合は、値段を上げるかファンクラブ事業の撤退になるけどさ。
何事もやってみてないとわからないよな。
そして……。
「社長。先ほど、ファンクラブのサイトをオープンしてみました」
「うん」
「予想外のことが……」
「ああ、もしかして、全く人気ないとか?」
そりゃそうか。
思いつきでやってんだからな。
「あんまりにも反応が悪いんならさ。ファンクラブの閉鎖も視野にいれてさ……」
「いえ。予想外とはそっちではありません」
はい?
「既に10万人も登録してくれているのです」
「じゅ、10万人?」
ま、まだ半日も経ってないぞ!?
「
ま、瞬く間って……。
まだ上がるってことか。
会費が300円で、それが10万人だから……。
「ちょ、それって月額の会費だけでエゲツないよね?」
「3千万円になります」
ひぃやぁあああ……。
儲かりすぎぃ。
数日後。
会員数は30万人で落ち着いた。
いや、それでもすごすぎだってば。
金額にすると……。きゅ、9千万円。
これ月額だよ?
事務所で管理してる配信料と合わせたら脅威の1億越えである。
ふぉおお……。
自社のことだが流石に引いたわ。
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