第50話 エルフの姉妹、大進撃!

 俺はエルフたちに自己紹介を頼んだ。

 彼女らはカメラを意識しながら、まるでアイドルにでもなったかのように笑顔を振り撒く。


「みなさんこんにちは! ダークエルフのネマです! 5人姉妹の長女です!」


「こんにちは次女のネミです! 趣味は裁縫! でも、家事全般が大好きです。よろしくお願いします!」


「三女のネオです。過激なことが結構好きかもしれません。例えばこういうポーズとか」


 と、言って大きな胸を寄せて谷間を作る。


 うぉおおい。


「ネオ。エロいのは禁止だ。運営の削除対象に該当する」


「失礼しました。ま……Pさまはこういうのお嫌いですか?」


 ……俺の好みはこの際関係ないだろ。


「コホン。じゃあ、あと2人だな」


「私はネナです。結構、泣き虫で、この前ネットにアップされてる映画を観て泣いちゃいまいした」


 それって違法アップロードのヤツじゃないだろうな?

 頼むからそういうことを配信で言うのはやめてくれよな。


「ネネだよ! 一番末っ子でーーす。大好きなのは姉さまです。でもね。一番大好きなのはねぇ……ニヘヘェ」


 と、俺に熱い視線を送る。


 あのなぁ。

 俺は画面外だから意味がわからんないだろうが。

 ……まぁ、意味がわかっても困るが。


「頑張りますので、よろしくね。えへへ!」


 ふぅむ。ヒヤヒヤしたがなんとか終わってくれた。

 こうして見ると、若干だが個性があるんだな。

 顔的には5人とも一緒だから誰が誰かはわからなかったが、差別化は必要かもしれん。

 今度、配信がある時はメイクを気にしてキャラを作るのも悪くないな。


 よし。


「じゃあ。今日は君たちにダンスを踊ってもらう。今、流行りのダンジョンダンスだ」


 彼女らは満面の笑み。

 コメントは期待で盛り上がっていた。


 しかし、期待値を上げてしまうとやりにくいよな。

 一応、断っておくか。


「今回は編集するわけじゃないし。緩い感じで踊るだけなんで、あんまり期待しないでくださいね」


 著作権フリーのダンスミュージックを用意する。

 ディックトックで大流行りのヤツだ。

 

「じゃあ、準備はいいか?」


「「「 はい! 」」」


「ダンススタート!」


 ハイテンポなテクノっぽいミュージックが流れる。

 それに合わせて腰振りダンス。

 左右にフリフリ。


 ううむ。

 

 エルフたちはリズム感が良いな。

 なにより自分たちが一番楽しそうだ。


 スラリと伸びたスリムな脚。

 引き締まったウエストを起点にしてボンと出たヒップがフリフリと左右に動く。

 上半身は腰に合わせて可愛らしく添えられる感じ。


 5人の褐色エルフが横並びでダンスを踊る。

 妖艶で、それでいて明るく、健全だけど、なんかエロい。


 うううむ……。

 中々に壮観だな。


 湧き上がるこの気持ちはなんだろう? 例えるならば、一流のモデルを目のあたりにした高揚感、とでもいおうか。

 彼女たちって、一般的な女性と比べて腰の位置が圧倒的に高いんだよな。

 なんというか、カメラに映っているだけで絵になるというか……。

 しかも、エルフには珍しい褐色肌。

 これは……。一見の価値あるかも。


 ダンス曲は3分で終わった。


 ネネは踊り足りないとばかりに残念がる。


「ああん。もう終わっちゃったぁ」


 他のみんなもネネと同じような感じだ。

 エルフって踊るのが好きなのかもしれないな。


「よし。んじゃ、配信を終了しようか。みんな視聴者に別れの挨拶だ」


「みなさん。今日はありがとうございました!」

「ダンス楽しかったです!」

「セクシーダンスもやってみたいわ」

「うう。感激して泣きそう」

「ネネは楽しかったーー! ありがとうねーー!」

 

 こうして、エルフたちの配信は終わった。


 早速、1階の事務所に戻る。

 丁度、 衣怜いれが学校から帰って来たので、みんなでアーカイブの動画を視聴する。


「社長。すごい再生数ですよ! もう50万回も観られてます」


 ご、50万だと!?


「早いな……。まだ半日も経ってないぞ?」


「ダンスのシーンだけ繰り返して観られているのかもしれませんね」


 うーーむ。

 人気歌手の動画って凄まじい再生回数を叩き出すからな。

 そういう感じなのかもしれんな。


「じゃあさ。ダンスの部分だけを切り抜いて編集できる?」


「お任せください」


 うん。頼もしいな。


 エルフたちはアーカイブの動画を何度も繰り返し観ていた。

 自分たちがネットに映っているのが嬉しくて仕方ない感じだ。


 チャンネル登録者は……。


 げ!


「5万人!?」


 たったの数時間で!?

 これはすごいな。


「もう、こんな所で働かなくても配信者で独立できるかもしれないぞ」


 そう言うと、エルフたちは悲しそうな顔をした。


「そんなことを言わないでください。私たちは 真王まおさまのお側にいたいです!」

「調子がいいのは 真王まおさまがプロデュースしてくれたおかげです!」

「そうです!  真王まおさまが面倒をみてくれたからです!」

真王まおさまがいないと私たちは動けません」

「ネネは 真王まおさまにダンスを教わって、ずっとお側にいたいです!」


 やれやれ。

 俺なんか、完全に裏方だったんだがなぁ。


  衣怜いれは眉を寄せる。


「んーー。でも彼女たちの言うとおりかもね」


「なにがだよ?」


真王まおくんってプロデューサータイプなのかも」


「俺がぁ?」


「だって、カメラのセッティングしかり、ダンスの指導しかり、配信内容の構成しかり。全部、 真王まおくんがやってるじゃない」


「……それは、彼女たちは何もわからないから当然じゃないか」


「それがもうプロデューサーなんだよ。これはすごい才能だと思うよ」


 いやいや。


「才能なんてないって。エルフのダンスがウケてるだけだって」


「それはあると思うけど。原石を輝かしたのは間違いなく 真王まおくんだよ」


 おいおい……。


 エルフたちは 衣怜いれの言葉に同調する。


「そうです!  真王まおさまがいないと私たちは何もできません!」

真王まおさまあっての私たちです!」

真王まおさまのお力で配信が上手くいきます!」

「やっぱり 真王まおさまはすごいです!」

「ネネは 真王まおさまとならずっと楽しい配信ができそうです! だから、もっともっとプロデュースして欲しいです!」


 うーーん。

 一緒に配信かぁ……。

 悪くないかもな。


「わかった。おまえたちのプロデュースをしてみよう。片井ダンジョン探索事務所で面倒見るよ」


「「「 ありがとうございます! 」」」


 こうして、エルフたちの配信者プロデュースが始まった。


 ユニット名はジ・エルフィー。

 エルフに因んだ名前にしてみた。theを付けたのは海外に向けてわかるようにだ。

 昭和の有名歌手グループに似てるけど、いい名前だと思う。


 紗代子さんは1時間以上もある配信動画の編集をしてくれた。それは30秒のダンス動画になった。

 この編集には 衣怜いれも参加する。

 彼女のアドバイスは的確だった。曰く、如何にして派手にテンポ良く編集するかがキモらしい。


 こうしてできたジ・エルフィーのダンス動画はSNSに投稿された。


 当然。関係者である 衣怜いれは自身のヅイッターで拡散する。

 その効果もあって、30秒のダンス動画は、たった1日で500万回再生を記録。

 ジ・エルフィーのチャンネル登録者は1日にして10万人を突破した。


「社長。ジ・エルフィーの仕事依頼が殺到しております」


「とりあえず、配信動画を増やすことを念頭におこう。コラボやインタビュー依頼なんかは全部断ってくれ」


「承知しました」


 ダンスのバリエーションが欲しいか。


衣怜いれは新しいダンスの協力をお願いできるか?」


「うん! 任せて」


 こうなったら衣装も凝りたいな。

 水着の配信なんかもいいかもしれん。今は冬だが、室内配信なら可能だろう。

 彼女たちには個別でSNSをやってもらおうか。

 そこから情報発信すれば更なる集客に繋がるだろう。

 うーーん。アイディアが止まらないぞ。


 1週間もすると、とんでもない結果になっていた。

 チャンネル登録者数は100万人を超え。

 俺のメイン配信。防御魔法で探索チャンネルの60万人を簡単に抜かれてしまった。

 

「社長。とんでもない事態でございます」


 と、紗代子さんは深刻な表情を見せる。


「今月の売り上げは来月に払われます。つまり新年早々に入金されるわけですが……。その額が1千万円を超えるようです」


 ついに来たか。大台。

 1ヶ月で1千万円。

 こりゃ、豪華なお節が食えそうだ。


 エルフたちは配信とは別で事務仕事に精を出してくれている。

 このビルの清掃だって毎日だ。

 こうなってくると、


「人手不足だよね?」


「はい。仕事の依頼量を考えれば、人員は増やした方が賢明かと。そうすれば売上は倍増します」


 うーーん。

 これ以上、お金が欲しいわけではないんだがな。

 自社が発展した方が、みんなが楽しく暮らせるよな。


「人員募集か……」


 でも、社内トラブルは避けたいし……。


 悩みどころだが、楽しくもあるな。

 機会があれば、西園寺社長に相談してみるか。

 

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