第49話 鉄壁さんのプロデュース
ダンジョンダンス。
まぁ、普通の地球人が部屋の中で踊ったら、それは普通のネット配信なんだがな。
褐色のエルフ。しかも5人姉妹が部屋の中で踊ったら、それはダンジョン配信の匂いがするだろう。
そもそも、褐色のエルフは人口が少ないからな。配信されるなんて希少なんだ。
加えて、彼女たちには
いわば、探索者のコスプレだな。
部屋の中とはいえ、ここでダンスをすればダンジョン配信といっても違和感はないはずだ。
ダンジョンに無関係な動画は運営に削除されるが、この動画ならば規約範囲内だろう。
と、まぁ、色々と趣向は凝らしているがな。
素人が思いつきで配信なんかしてもそうそうにバズったりはしないんだ。
日本だけでも配信者は300万人以上いるって言われている。
親戚の叔父さんなんか、探索でゲットしたアイテム紹介の配信が、たったの3人だったからな。
俺のチャンネルがバズったのは、ただ運が良かっただけにすぎん。
「10人も観てくれれば御の字だけどさ。そんな配信でもいいのか?」
「はい! 1人でも観てくれたらそれだけで嬉しいです」
「あは! ネネもね。1人でも観てくれたら嬉しいよ!」
「私もです。パソコンやスマホで自分の姿が見れるのが嬉しいです」
「1人でも観てくれたら凄く嬉しいです!」
ふふふ。
欲がないな。まぁ趣味としてはいいのかもしれん。
1人だったら俺が見るし、あっという間に目標達成だよ。
彼女たちが満足すればそれでいっか。
「よし。うんじゃ、ダンスの練習をしてみるか」
ネネは大喜びでコウモリカメラの前に立った。
「あは! コウモリの前でダンスを踊るんですね!」
対象的に、長女のネマは小首を傾げる。
「あ、あの……。どんなダンスを踊ればいいのでしょうか?」
「ネマは知らないのか? ダンジョンダンス」
「も、申し訳ありません」
「ネネは知ってるよ! こうやるんだよね?」
と、ネネはお尻を左右に振り始めた。
「そうそう。よく知ってたな」
「エヘヘ。
ふむ。
姉妹でも閲覧してるものが違うんだな。
ネネと俺とで他のエルフたちを教える。
今は学校だから仕方ない。
「こうやって踵を上げて、お尻を左右に振るんだよ」
俺がやると中々にギャグだな。
「流石です! ダンスもさまになっていますね!」
いや、感心されたら恥ずかしい。
数分後。
なんとか形になった。
「よし。んじゃあ配信するからな。ネマたちは、顔出しは大丈夫なんだよな?」
「はい。ネットに映りたいです!」
まぁ、アイドル願望ってやつか。
配信のタイトルは俺が考えた。
『エルフの5人姉妹。ダンジョンダンスを踊ってみた』
うむ。
中々に目を引くタイトルだ。
顔出しOKだから、サムネは彼女たちの美しい容姿を強調しておこう。
あとはトークだが、各人には自己紹介の言葉を考えてもらっている。
ある程度、ワイワイとトークで花を咲かせてもらって緩い感じでダンジョンダンスを踊ってもらえばいいか。
「いくぞ。配信3秒前。3、2、1……」
と、カウントした所で気が付く。
あれ? なんか既にコメントが入っているのだが?
コメント欄がめちゃくちゃ動いてるぞ。
『可愛いなぁ』
『最高。眼福』
『自己紹介欲しい』
『全員可愛い』
『たまらん』
『チャンネル登録しました』
なにぃいいい!?
コメントが20分前から入っているぞ!?
ネネの顔が若干引き攣っていた。
そういえば、さっき彼女がコウモリを触ってたな。
「ネネ。正直に言うんだ。この『配信開始』と書かれた所。押したか?」
「す、す、すいませーーーーん。押しちゃいましたぁあああ!!」
うぉおおおお!
「い、いつからだ?」
「ダンスの練習をするところからです」
ぬぐぅう……。
既に配信が開始されていたのか。
コメントをさかのぼって読んでみる。
『ダークエルフって珍しいな』
『みんな美少女やん』
『マジ可愛いって』
『褐色肌がいいよね。個性的でメチャクチャ可愛い!』
『ダンスの先生? 裏山』
『撮影スタッフじゃね?』
『撮影スタッフ羨ましいわ』
うぉおお……。
俺がスタッフ扱いになってる……。
『O h! beautiful girl!』
『マジ天使』
『可愛的姑娘』
『طفل لطيف』
なんか海外勢も多いな。
英語は辛うじてわかるが、他のはなんて書いてあるのかさっぱりわからん。
雰囲気からして褒め言葉なのは間違いなさそうだ。
『スタッフ裏山!』
『俺もスタッフになって指導したいです』
『スタッフ狡すぎる。役得』
『エルフちゃんの手取り足取り……。尻取り胸取り』
幸い、ダンスの指導はカメラの外だったからな。
顔バレは防げたようだな。
俺の出演は声だけになっているようだ。
今の視聴者数はどうなっているんだろう?
なに!?
「い、1万人だと!?」
まだ、始めて20分程度しか経ってないんだぞ。
チャンネル登録者数ゼロ人から始めて1万人の視聴は多すぎだろ!
海外勢も興味津々なのか。
世界的に観てもダークエルフって希少だからな。
ネネが俺の名前を呼ぼうとした。
「ま──」
「わぁああああああ!! ストップゥ!」
なんて呼ぼうものなら、俺の身元が特定されちゃうっての。
まさか、俺がスタッフとして参加するとは思わなかったからな。
名称なんて考えてなかったよ。
うーーん。俺の名前だけピー音を入れたいな。
自主規制の音って『ピーを入れる』っていうから……。
じゃあ、名前にも入れてもらう感じで、
「俺のことはPと呼んでくれ」
めちゃくちゃ適当だけどこれでいいだろう。
プクク。
自主規制音のピーが俺の名前って身内ウケがすごい。
あとで
エルフたちは満面の笑みを見せた。
「Pさま。よろしくお願いします!」
「Pさま。今日はがんばります!」
「Pさま。カメラのセッティングありがとうございます!」
「Pさま。今日はダンスがんばりますね!」
「Pさま。ネネはテンション上がってます!」
……あれ?
なんか様を付けすると意味が違くないか?
案の定。
『え? ダンスの先生じゃないのか!?』
『プロデューサーかよ!』
『偉い人だったw』
『下っ端だと思ってましたスマソ』
『アイドルユニットなの?』
『企画モノか』
『Pさま。俺もデビューさせてください』
『プロデュースされてるダークエルフってカッコいいな』
『Pさま。よろしく』
な、なんかプロデューサーになってるし。
視聴者数は3万人を超えていた。
ふぉおお。
なんか盛り上がってきてる。
────
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