第48話 5人姉妹の美少女エルフ


 俺が 翼山車よくだし局長に表彰されてから数日が経つ。


「「「  真王まおさま、お帰りなさいませーー! 」」」


 と、元気な声で出迎えてくれるのは5人の褐色エルフたち。

 福音ダンジョンの一件以来、元の世界アンダルハイヤーに帰れなくなった彼女たちは、俺のビルで暮らしているのだ。

 俺が単独で探索に行って帰って来ると、こうやって出迎えてくれる。


「出迎えなんてさ。別にいいんだけどね」


「とんでもありません! ご主人様のお帰りを出迎えるのは当然でございます!」


 ご主人様ねぇ。

 俺は超庶民派だからな。

 なんだかこしょばいよ。


 ビルに入るとその美しさに目を見張る。窓ガラスも床もピカピカである。


「これっておまえたちがやったのか?」


「はい。ご主人様のビルですから。掃除するのは当然です」


 うーーむ。

 エルフたちは本当に働き屋なんだな。


 普段は紗代子さんをリーダーにして事務の仕事を手伝ってくれている。


「社長。ネマたちの給料なのですが」


 ネマとは褐色エルフの長女だ。

 といっても、同じ顔なので、誰が誰かはわからないけどね。


「5人とも休みなく率先して働いてくれております」


 ふむ。


「じゃあ、給料が必要か。一般の事務職の相場ってどんなもんだろう」


「手取りで25万くらいでしょうか。掃除やコピー、簡単な受付が業務ですからね。ですが、それは大卒者の場合です。彼女らは高校生以下の現代知識ですから、正社員の基準には満たしておりません。今時、パソコンや携帯も触れないのは大きな障害でしょう。ですから12万円程度が相場でしょうか」


 なるほど。

 じゃあ、12万円を基準にして……。


「30万円に固定しようか」


「さ、30万ですか?」


「うん。彼女たちにとっては、この世界は孤独だ。親族も友人もいないんだからな。だったら収入くらいは安定した方がいいだろう」


「お、お優しい……。社長の行動には毎回驚かされます」


「うーーんと、固定給とは別に年2回とその他、特別ボーナスもつけてさ。有給休暇も充実させてあげよう」


「流石は社長です。承知しました」


 紗代子さんはエルフたちにそれを伝えた。

 すると、5人の姉妹は俺を囲んだ。


「「「  真王まおさまぁあああ! 」」」


「なんだなんだ?」


 給料に不服があるのかな?


「「「 ありがとうございます!! 」」」


 ああ、なんか喜んでくれてるみたいだ。

 良かった。

 

 よく見ると目に涙を溜めている。

 そんなに?


「給料が貰えるのがそんなに嬉しいのか?」


「はい! こんなに沢山の給金をいただけるなんて夢のようです!」


 平均よりちょっと上なだけなんだがな。


「アンダルハイヤーでは自給自足が主軸でした。給金などは、稼げても月に千円程度です」


 千円ってのは日本の金額に換算してるのだろうが、まるで子供のお小遣いだよな。


「それは少ないな」


「私たちの世界では、平民が資産を持つなんて考えられないのです。資産を持てるのは王や貴族だけ。こんなに綺麗な家に住んで、清潔で安全で、高い給金までいただけるなんて……。うう……。もう、本当になんてお礼を申し上げて言いかわかりません」


「ははは。まぁ、そんなに恐縮しないでくれよ。働いてくれてるならそれなりの対価は当然だからさ。それに、アンダルハイヤーに帰る方法が確立すれば、おまえたちは自分たちの世界に帰れるんだ。それまでの辛抱だからさ。働いて快適に過ごしてくれればそれでいいよ」


「あ、あの……。 真王まおさま?」


「なんだ?」


「ず、ずっと、ここにいさせていただくことはできないでしょうか?」


 え?


「帰りたくないのか?」


「そ、そういうわけではないのですが……。アンダルハイヤーと日本が開通すれば家には自由に帰れますし……。ま、 真王まおさまには一生をかけて恩返しがしたいのです」


 い、一生って……。

 んな大袈裟な。


 そういえば彼女らの仕事振りって正確にはわからないよな。

 俺が面倒を見ると言ってしまうと、負担がかかるのは教育係になる紗代子さんだ。

 

 ちょっと紗代子さんに聞いてみようか。


 俺は小声で耳打ちした。


「ネマたちの仕事振りってどうなの? 紗代子さんの負担になってない?」


「彼女たちは現代知識に疎いです。ハッキリ言って、その点はマイナスでしょう。しかし、素直さと誠実さ。努力して仕事に取り組む姿勢は高く評価できます。またなにより、社長を敬愛する姿勢には好感が持てます。ハッキリ申し上げて、将来性しか感じ得ません」


「つまり、優良社員ってこと?」


「はい。今は教えることが多いですが、時間が経つほどに有能な社員に育つのは間違いありませんよ」


「じゃあ、紗代子さん的には部下にしたい感じかな?」


「そうしていただけると助かります」


 よし。

 決まりだな。


「いいよ。好きなだけ住んでくれ」


「「「 うはああああああ! ありがとうございます 真王まおさまぁああ!! 」」」


 俺は彼女らに抱きしめられた。


「ぬぐぉ!」


 スベスベして柔らかい。

 そして、お香みたいな良い香り。

 

真王まおさまぁあ! 私、がんばりますね!」

「私もぉおお!」

「全力を尽くします!」

「嬉しいです! すごく嬉しいです!」

「あはぁあ!  真王まおさまぁああ!」


 ああ、誰が誰かはさっぱりわからんが、とにかく喜んでくれてるから良しとしようか。


 しばらくすると、彼女たちは配信に興味を持つようになった。携帯もパソコンも、現代人のように使えるのだ。


「ネットサーフィンってやめられないね」

「あ! そのスタンプ可愛い!」

「ねぇねぇ、このサイト面白いよ」

「占いが無料できるサイトがあったよ! 今日のラッキーアイテムは傘だって」

「ブラインドタッチが難しい……」


 ネットが使えるようになったから、そういう所に目がいくようになったのだろう。

 なにやら、俺の配信も観てくれているようで、


攻撃アタック 防御ディフェンス!  真王まおさまの配信はカッコいいです!」

 

 俺のマネらしいが。姉妹の中ではブームらしい。

 でも、本人の前でするのは恥ずかしいから辞めてくれよ。


真王まおさま! 私たちも配信者になれないのでしょうか?」


 と、長女のネマは言う。

 どうやら、5人姉妹の意向らしい。


「モンスターと戦うんだけど、戦闘はできるのか?」


「あうう。で、できません。エルフといっても色々で、弓と矢で勇敢に狩りをする者もおりますが、私たち姉妹はもっぱら家事が大好きなのです」


 ふぅむ。

 非戦闘員をダンジョン探索に巻き込むほど危険なことはないからな。


 戦闘をやらずにダンジョンの配信者にはなれんと思うが……。

 

 あ、いや。待てよ。


「探索の配信じゃなくてもいいんだ」


 俺は彼女たちの部屋にコウモリカメラをセッティングした。

 エルフたちはコウモリを見てるだけで大喜び。

 カメラに向かって俺のモノマネをする。


「えーーと。写ってるかな? あーあーマイクのテスト中」

攻撃アタック 防御ディフェンス

「えーー、あーー、みなさんこんにちは、どうも俺です」

「壁パンチ」

「ウルチャ、ありがとうございます」


 やれやれ。

 どんだけ俺の配信見てんだよ。

 可愛い声だけど、喋り方は俺にそっくりだ。


 よし、セッティングはバッチリだ。


「あのカメラから配信されるからな」


「は、配信されるのですね?」

「配信。配信♪」

「ドキドキする」

「あはぁ。楽しみぃ」


 あ、そうだ。

 アカウントを作っとかなきゃだな。


「ネマのスマホを使おうか」


 彼女のアドレスで配信アカウントを作ってぇっと。


 エルフたちは俺の仕草に興味津々である。

 身を乗り出すようにしてスマホの画面を覗き込む。


「すごいですね 真王まおさま。一瞬であかうんとを作ってしまいましたよ!」


「ははは」


 まだ、この辺は難しいようだな。

 アカウントを作るくらいは誰でもできるからな。


 ネマは長女らしく質問する。


真王まおさま。ここはダンジョンではありませんが、私たちはなにを配信すればいいのでしょうか?」


「ダンスだな」


「「「 ダンス? 」」」

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