第53話 翼山車局長とジ・エルフィー

〜〜 翼山車よくだし視点〜〜


「ブヒョヒョヒョ〜〜。堪らんのぉお〜〜」


 わしは局長室でPCの画面に目を奪われていた。

 そこには今話題沸騰中の配信者が映る。

 それは5人の美少女姉妹。

 しかも、肌は褐色のダークエルフ。

 そのユニット名はジ・エルフィー。


 彼女たちの腰振りダンスは世界的に大人気だ。

 画面内でも軽快な音楽に合わせてダンスを踊る。


 堪らん……。

 じゅるり。


 こういう女を局で囲いたいものだがな。

 局長室でダンジョンダンス。ブヒョヒョ、堪らん。


 ユニットをプロデュースしているのは「Pさま」と呼ばれる人物だ。

 こんな可愛いエルフに囲まれよって。まったく羨ましい奴。

 こいつは一体何者なのだろう?


 わしは視線を下に向けた。

 そこには金髪の美しいエルフたちがわしの足をベロベロと舐めているのだった。


「おいディネルア」


「はい」


 彼女は足を舐めるのを止めて立ち上がった。


 ブヒョヒョ……美しい奴だ。

 身長は170センチ以上はあるだろうか。

 胸は大きく、腰は引き締まり、脚はスラッと長い。

 トップモデルでも引けを取らんからな。

 ジ・エルフィーにも負けんだろう。

 美人エルフの局員を集めれば……。

 もしかしたら、わしにもそういうプロデュース能力があるやもしれん。


 彼女以外の4人もそうだ。


「おまえたちも立て」


 他のエルフも立ち上がると、ディネルア同様に美しいエルフだった。


 社長室にはディネルアを含めた5人の美人エルフが並んだ。

 実に壮観だな。これほどの部下を持つ人間は他におらんだろう。


 彼女らの顔は無表情だった。


 大方、わしがいやらしい要求をするとでも思っているのだろう。

 まぁ、それでもいいのだがな。今回は違うのさ。


「ブヒョヒョ。踊れ」


 ディネルアが目を瞬く。


「は?」


「踊れと言ったのだ。ブヒョ」


「ダンスでしょうか?」


「そうだ。この曲がいい」


 わしはジ・エルフィーの踊っているダンス曲を流した。


 エルフたちはピンと来る。


「ああ、これは今流行りのやつですね」


「そうだ。ジ・エルフィーだ。おまえたちの美貌ならば、彼女らに匹敵するだろう」


 しかし、ダンスはグダグダ。

 なんというか覇気がない。

 無表情でやるんじゃない!

 もっとこう、笑顔で楽しくできんものか?

 とても見てられんな。


「ええい! やめるブヒョ! 見てられんブヒョ!」


「少し練習が必要かと。それに衣装もスーツ姿ですし。あちらは探索者の装備とか水着で踊っております」


「うーーむ」


 こいつらに探索者の服を着させてもいいがな。

 どうも何かが違う気がする。


 それに白い肌は見飽きたしな。


「局員にダークエルフはおらんのか?」


「おりません。ダークエルフは希少種ですから」


「ふぅむ」


 ならば探してみるか。

 エルフに詳しいのは、支援団体だな。


「ピクシーラバーズと連絡を取れ。ダークエルフを保護していないか確認するんだ」


「保護されていたらどうするのですか?」


「もちろん、局員として採用だ。まぁ、写真審査は絶対だがな」


 ディネルアは電話で確認をとった。


「局長。やはりダークエルフは保護していないそうです」


 ふぅむ。

 支援団体にもおらんのか。

 では、あのPさまとかいう男。どうやってダークエルフを手に入れたのだろう?


「うーーん。わからん……」


 しかしそれにしても、エルフの5人姉妹といったらどこかで聞いたことがあるんだよな?

 どこだったか……。うーーむ。


「そうだ!  寺開じあくの人身売買だ!  寺開じあく  輝騎てるきの逮捕の時。保護されたのが5人のエルフだった」


 情報の開示は5人姉妹となっていたが、その映像は間違いなく褐色肌だったぞ。

 もしかして、あのダークエルフがジ・エルフィーということか?


寺開じあく  輝騎てるきから押収した物品はどこで保管しておるんだ?」


「証拠品として警察の管理下にあるかと」


「うーーむ。人身売買のエルフの面倒を警察がみるとは思えんな……」


 本来なら、支援団体ピクシーラバーズが迷子のエルフを引き受けるはずだがな……。

 ここにいないのならば、こういう厄介ごとはダンジョン探索者協会か。


「よし。では探索者協会に連絡を取れ。5人エルフの身元を聞き出すのだ」


 ディネルアは早速確認を取った。


「3週間前まで、協会で保護していたそうです」


「ブヒョッ!」


 ビンゴか!


「それで? 今、どこにおるのだ!?」


「協会では保護が難しいので、第一発見者に引き取ってもらったということです」


「誰だそれは?」


「片井という男の探索者だそうです」


 片井?

 ふぅむ。

 わしは男には興味がないからな。


 ふぅむ。片井、片井……。

 どこかで聞いたことがあるような……。


 あ!


「図書カードの男だ!!」


 西園寺の推薦で表彰をすることになった冴えない男の探索者。

 経歴はよく知らんが、 輝騎てるき逮捕の立役者。福音ダンジョンがアンダルハイヤーと繋がっていることを発見した功労者ということだな。


 まぁ、わしからしてみればあんな小僧はどうでもいいんだ。

 図書カード500円分の価値しかない。プクク。

 どうせ、偶然に現場に居合わせたラッキー探索者に違いない。

 公式では最低ランクのD級となっておったからな。

 そんな実力で 輝騎てるきに勝てるもんか。

 調べるに値しない、くだらん男だ。


 しかし、待てよ。

 エルフの保護を片井がやっているのなら……。

 あのPさまとは片井のことか?

 うーーむ。その可能性は高いな。

 ちぃい。探索者の実力はなくともアイドルを成功させる能力はあったのか。


「片井の連絡先はどうなっておる?」


「西園寺社長が窓口になっております」


「ここに登録されておらんのか?」


「ここで管理されているのはB級の探索者までです。それ以下の低級者は探索協会で管理しております。ですが、担当者に問い合わせた所、西園寺社長を通すように言われてしまったのです」


 まぁ、低級者など、本来はどうでもいい存在なんだ。


「よし。社長に連絡を取れ。片井と連絡が取りたい」


 ディネルアは西園寺不動産に連絡した。


「断られました」


「にゃにぃいいい!? ど、どういうつもりだブヒョ!?」


「忙しいとのことです」


「い、い、忙しいだとぉおおおお!?」


 そんなことが理由になるかぁああああ!?

 たかだか探索者1人の連絡先を教えるのに、おまえん所の都合は関係ないだろうがぁあああ!!


「ぐぬぅうう。あのアマぁああ。ちょっと美人だからといって舐めおってぇえええええ。わしを環境省直属の組織と知っての狼藉かぁあああ!!」


「あ、あの局長……」


「ぬぁあんだ!?」


「西園寺不動産の……。電話の受付なのですが」


「それがどうしたというんだ!? 今はダークエルフのことを考えろ! この無能が!!」


「はい……」


 ったく。


「……で、なんだというんだ!? 言え!」


「……カーシャでした」


「うん? 誰だって?」


「この前、局長がクビにされた。 須賀乃小路すがのこうじ カーシャが電話の応対者だったのです」


 なにぃいいいいいいいいい!?


「なぜだ!? どうしてカーシャが西園寺の所にいる!?」


「わ、わかりません」


「不動産業界には通達は回したんだろうな!?」


「も、もちろんです。名前を提示して 須賀乃小路すがのこうじ カーシャの雇用は断るようにファックスを流しました」


「連絡漏れか?」


「PCのメールでも念を押しました。間違いありません。西園寺グループにも送らせてもらっています」


「ぐぬぅううう!」


 だったらなぜだ!?

 なぜ、カーシャを雇用する!?


 わしに逆らった女が大企業で働くなんて絶対に許せん!

 生意気な小娘は野垂れ死ねばいいのだ!!


「クソアマどもがぁああああああああ!!」


 西園寺 磨魅絵まみえ

  須賀乃小路すがのこうじ カーシャ。


 2人は絶対に許さん!

 わしを敵に回したことを後悔させてやる。

 わしの両足を舐めさせてくれるわぁああああ!!






 そこは西園寺不動産の自社ビル。

 カーシャは電話を置いた。


「社長。ご指示通り断ったのですが、本当によろしかったのでしょうか?」


「ああ。片井さんの連絡先だろ。こちらから教える必要はないよ。それに、探索者の情報くらい、局なら調べる方法はいくらでもあるからな」


「だったら……」


「ふん。こちらの意思表示が重要なのさ。今後、西園寺グループはダンジョン探索局とは疎遠になる」


「不動産業界とダンジョン駆除は密接な関係。本当によろしいのでしょうか?」


「構わん。あのガマガエル。絶対に許さん」


(ひぃええ……。2人には軋轢あつれきがあるのか。社長を怒らせたら怖いな。局長には恨みがあるけど、全面的に喧嘩をする勇気はないわ)


「引き続き。片井さんの件には気を使ってくれ。些細なことでも、必ず私を通すようにな」


「はい。承知しました」

(社長の片井さん推しはすごいな。特別待遇なのが目に見えてわかる。社長が好きな人ってもしかして、片井さんなのだろうか?)


「ん? どうした? 私の顔になにかついているのか?」


「いえ……。その……。片井さんて人。探索者のようですがどんな方なのですか?」


「ああ……。なんていうのかな……。西園寺不動産に関係するダンジョン駆除を率先してやってくれている。まぁ、お世話になっている人だ」


(あ、少しだけ赤くなった……。もう絶対にピンと来たわ! 私の勘に間違いはない。社長が好きな人が、その片井って探索者なんだ!!)


「そういえば、まだ、おまえには紹介していなかったな。今度、入りに行くか」


「は、入りに? 何に入るのですか?」


「温泉だ」


(はい?)


 カーシャは首を傾げる。

 温泉は意味不明だったが言及は避けた。

 もしかしたら、探索は趣味で、本業は温泉経営をしている人なのかもしれない。

 そう思って、片井という謎の男に会える日を心待ちにするのだった。

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