第2章 S級を超えるもの
第46話 鉄壁さんは表彰される
「D級探索者。片井
そう言って、局長は表彰状と金一封を渡してくれた。
この男がこの組織のトップなのか……。
まるで肉の塊だな。
例えるならば、太り過ぎたガマガエル。
体重は200キロ以上はありそうだ。
何を食っているのか知らんが、表彰状の文言を読んでいる時の息が猛烈に臭かった。
あれはモンスターの遺体が腐った時の臭いだな。
くわえて汗がすごいんだ。
渡してくれた表彰状が汗でベトベトだよ。
うぇ……。
金一封が入った封筒までぐっしょりだ。
まぁ、俺の仕事を讃えてくれてるわけだからな。
あんまり文句は言っちゃいけないが。
さて、封筒にはいくら入ってるんだろう?
ふふふ。こういうのお年玉を貰う子供みたいにウキウキするよな。
例えるならば金一封ガチャ。
「さぁて、いくら入っているのかなぁ?」
封筒の中には、500円分の図書カードが1枚入っているだけだった。
ここはダンジョン探索局。
都心部の一等地にデカデカと存在する立派な建物。
環境省がダンジョンの発生に付随して設立した組織だ。
政府の組織って金が入るのだろうか?
建物はピカピカで、高価な芸術品があちこちに飾られている。
まるで、海外のセレブの豪邸って感じだ。
「局長がやり手でね。羽振りがいいのさ」
と、俺の疑問に答えてくれたのは西園寺社長。
彼女は大手不動産会社の社長なので環境省との繋がりがあるらしい。
今回の表彰は彼女の推しがあったとか。
俺は
ダンジョンに関連する凶悪犯罪を防止したことを讃えられたわけだ。
俺は、廊下のあちこちに飾られた美術品を見ながら眉を寄せた。
「羽振りがいいって……。ここ政府の組織ですよね?」
「一言で伝えるのは難しいな。……例えるなら。自衛隊って赤字経営だろ?」
んーー。
考えたこともなかったな。
国防の仕事ねぇ。
儲かるかっていわれたら……。
「そりゃあ、儲ける手段がないですからね。出費ばかりだ」
「一方、警察は収入がある」
……考えた事なかったけど。
警察の収入ってなんだろう?
あ、
「反則金かな? スピード違反とかのさ」
「そうだ」
「へぇ。んじゃあ、警察は儲けてるのか」
「いや。一般的に反則金は国に納付される。その金で信号機とか標識を作っているそうだ」
「そうなんだ」
「それでここ。ダンジョン探索局だ」
「なにで儲けるんです?」
「ダンジョン関係のレアアイテムさ」
おお。
「でも、レアアイテムって発見した探索者の物でしょ?」
「そうでもない。国宝に指定されるほどのレアアイテムは国が率先して権利を購入したりしてな。独占するんだよ。もちろん、格安で、だ」
そういえば、
「アイテムじゃないけど、
「その管轄は環境省。ダンジョン探索局なのさ」
ふぅむ。
異世界と通じるダンジョンの権利を国が独占するのか。
「買収したレアアイテムは美術館に飾られたりしてな。その美術館の経営が探索局だったりするんだ」
「じゃあ、美術館の利回りが局に入るってことか。そりゃ儲かるな」
「環境省の錬金術師」
うん?
「なんですか、それ?」
「
「へぇ……。じゃあ、お金を作るのが上手いんですね」
「そのカラクリは謎だがな。
「それって公式の金ですか?」
「表向きはな。だが、その内訳は不鮮明でな。限りなくグレーに近い。裏金も含むのがもっぱらの噂話さ」
やれやれ。見た目どおりの醜悪さだな。
「片井さん。金一封は小切手でも入っていたか? 少々、無粋だが金額が気になってしまうよ」
「ああ。図書カード1枚でしたよ」
「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
「ははは。500円です」
「か、か、か、片井さん!!」
「帰りに本屋でも寄って帰ろうかな。欲しいラノベがあるんですよね。
「っか、か、片井さん!!」
?
「なにか?」
「と、と、図書カードって?」
「ああ、これで金額分の本が買えるんですよ」
「システムを聞いているんじゃぁあああ、ないんです!!」
「えーーと? ああ、種類ですか。もちろん、成人向けも買えますよ」
「そんなことを聞いてるんじゃああああなぁあああああい! どうして私に成人向けの話をしてきたのか凄まじく気になるが、今はそんなことはどうでもいい!!」
「どうしたんです? なにか気になる事でもあったんですか?」
「大アリだ!! 金一封が図書カードだなんて、あり得ない!!」
いや、そう言われてもな。
「封筒にはカード1枚しかありませんが?」
「あ、あなたがやってきた功績を考えてくれ!」
功績と言われても……。
大したことはしてないからなぁ。
「あ、あなたは西園寺不動産に関係する厄介なダンジョン駆除を率先してやってくれている!!」
「ははは。そりゃあ、いつも社長にはお世話になってますからね」
「30……。いや、50以上は駆除してくれたか?」
「まぁ、早いダンジョンなら1日で3箇所とか駆除しちゃいますからね」
「あなたはそれだけ貢献しているんだ! 西園寺不動産しかり、日本の国益になっている!!」
「ははは……」
んな、大袈裟な。
「今回の1件だってそうだ!
「は、ははは……」
だから、大袈裟だってば。
「私はあなたを推薦した! この偉業を称えるようにと。環境省を問い詰めたんだ!」
「あ、ありがとうございます」
「それなのに……。くぅううううう!!」
な、なんか怒ってる?
「職業柄、環境省からの表彰事案は数々受けてきたよ。だから、わかるんだ」
「な、なにが?」
「本来ならば、300万円以上は貰える案件なんだよぉおおおおお!!」
へぇ……。
随分と貰えるんだなぁ。
「くぅうううう……。そ、それを……。と、図書カード1枚……」
「500円ですね。ははは」
彼女は大きく頭を下げた。
「すまない!! 片井さん!!」
「え、えええ!?」
「あなたに恥をかかせてしまった!! 本当に申し訳ない!!」
「あ、いや……」
「私の謝罪に免じて、どうか怒りを鎮めて欲しい!! 本当にすまない!」
「いや、怒ってないので」
「あなたは優しい人だ。だからわかる! 私を気遣っているんだよな? 私の面子も考えてくれているんだよな? ああ、額を聞いて良かったよ。このままではあなたの優しさに甘える所だった! 本当に申し訳ない!!」
うぉおお……。
なんか恥ずかしくなってきたぞ。
本当になにも考えていなかったからな。
ただ単純に、帰りにラノベの新刊を買えることを喜んでいただけなんだ。
まぁ、新刊を500円で買えないのは百も承知さ。足りない料金分は自分の金を出すつもりだったが、そこは少ししか気にしてなかったしな。本当に少しだけなんだ。
彼女は再び、深々と頭を下げた。
「どうか! 許して欲しい!! こんなことであなたとの関係にひびが入ったら、私は生きていけない!!」
そんなに!?
「あ、いや。頭を上げてください。ガチで気にしてませんから」
せめて千円にしてくれよ。とか、少ししか思ってないから。
「すまない!!」
「いや、だ、大丈夫ですから。本当に、気にしてないので。頭を上げてください」
「うう……。ゆ、許してくれるだろうか?」
許すもなにも怒ってないのだがなぁ。
不服なのは500円で新刊が買えないってことくらいで……。
「ゆ、許しますよ。なので、頭を上げてください」
「うう。ありがとう。ありがとう片井さん」
いや、もう泣きそうですやん。
「あの……。西園寺社長にはいつもお世話になってるんで、なにか多少のトラブルがあったとしても、本当に全然気にしないでくださいよ」
「うう……。私なんか、なにもやっていないよ」
いや、やってるやってる。
片井ビルの改修費しかり、片井温泉しかり。全部、彼女が金を出してくれたんだからな。
それに、
「この前貰った、お歳暮っていうんですか? 北海道のカニ20人前。めちゃくちゃ嬉しかったですよ」
「うう。あんなのは当然さ。あなたから受けた恩恵に比べれば微々たるものだよ。あなたが優先してくれたダンジョン駆除の影響を考えたら、500億以上の価値があるんだからな」
不動産のことは詳しくわからんが、彼女が俺に親切なのは間違いない。
「みんなでカニすきをやったんですがね。エルフたちなんか、初めて食べるタラバガニに狂喜乱舞してましたよ。他のみんなも大喜びでした」
「うう。それならば良かったが……」
「だから、いつも感謝してます。些細なことで気にしないでくださいって」
「……うう。片井さんは優しいな。なんていい男なんだ──」
と、言った後。
ボソッと呟く。
「──
え?
「なんか言いましたか?」
「あ! いや。こ、こちらのことだ。カニが気に入ってくれたのなら、また送らせてもらおう。今回の謝罪も込めてな」
「いや、参ったな。催促したみたいになっちゃった」
「こんなことで、あなたが受けた屈辱が晴れるかはわからないが、ぜひ、やらせてくれ」
「ははは……。じゃあ、期待してます」
カニすきをやる時は社長も誘おうか。
みんなで食べれば楽しいかもな。
「それにしても、あのガマガエル。許せんな」
ガマガエルって……。
局長のことだよな?
「ごうつくばりで有名なのは知っていたがな。あれほどとは」
うん。
やっぱ局長のことだな。
「さっき言った金一封の300万円はな。税金から負担されるんだよ。環境省から予算が降りているはずだ」
「へぇ……」
そんなシステムなのか。
「受領者が領収書を書くわけじゃないからな。いくら渡したのかは記録に残らないのさ」
「え? じゃあ、もしかして……」
「抜いたのさ。図書カードの分、500円だけ差し引いてな」
ふぅむ。
残りの金は局長のポケットマネーに消えたわけか。
あ、待てよ。
「
ご丁寧に封筒には名前まで書いてある。
「これって金額を割り振って渡してるとかですかね?」
「残り290万円以上をか?」
考えにくいか。
ここで俺が封筒を開けて中身を確認するわけにもいかないしな。
一旦、事務所に帰ろうか。
そして、事務所にて、俺は2人に封筒を渡した。
「わは! 社長! 10万円の商品券が入っていましたよ!」
おいおい。
マジかよ。
「あは!
やれやれ。
あからさまに差がついたな。
複雑な気分だよ。
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