第41話 王の逃亡

〜〜 輝騎てるき視点〜〜


「うぐぅう……」


 体のあちこちが痛い。

 骨の再生が上手く機能していないのだ。


輝騎てるきさま。回復にはまだまだ時間がかかります。しかし、今はこのダンジョンを抜け出すことを優先いたしましょう」


 部下の桐江田 夢が私に肩を貸す。

 彼女が霧の魔法を発生させて、回復魔法で私を助けてくれたのだ。


「こ、この私が逃げるなんて信じられん」


「片井の力は本物です。やはりギーベイクの言葉は正しかった」


「ふん……」


 褐色肌のエルフの男。

 ギーベイク。

 私が繋がっている異世界、アンダルハイヤーの間者だ。

 

 私の槍と片井の壁。どちらが強いか聞いた時、奴はこう答えた。

 

『カタイの力は本物だ。それに魔法壁を強化できる能力は謎が多すぎる。彼と戦うのはやめた方がいい』


 気に食わん。

 私の槍が圧倒的に勝っていたのだからな。

  王の突きキングトラストは確実に片井の壁を貫通した。


「勝っていたのは私なのだ……」


「そうです。 輝騎てるきさまが勝っていました」


 なのに!


「うぐぅ!」


 体に力を込めると身体中から出血した。


「いけません。まだ、傷口が完全には閉じていないのです。私の魔法では、なんとか歩けるくらいに治すのが精一杯なのです」


「ぐぬぉおおお……」


 なんたる失態。

 これが王の姿かぁ!?


「あり得ん。絶対にこんなのは嘘だぁあああ!!」


 私は幼少期から1番だった。

 なにをやっても1番だ。

 成績優秀。スポーツ万能。見た目だって1番だ。

 バレンタインのチョコレートを貰うのは学園でいつもトップだった。


 無能な兄は入賞すらしなかったテニスの試合だって、私は1位だった。

 その他、水泳、乗馬、バイオリン。全ての競技で私は1番だった。


 高学歴、高収入、高身長。

 女にもモテてモテて仕方がない。

 ダンジョンの外には高級外車を停車させている。

 誰もが羨む、ハイヤーだ。


 それに引き換え、あの片井はなんだ!?

 奴の過去を調べて呆れてしまった。

 もう鼻で笑うしかなかった。

 月収7万円の超低収入の底辺配信者。

 幽霊が出ると噂されるほどのボロボロのマンションに住み、牛松屋の牛皿を食べれれば1日ハッピーになれるクソ庶民だ。


 それが、ほんの少しバズったのをきっかけに、まぁまぁな生活水準に達しただけにすぎん。


 片井の小根はクソ庶民!


 街中で配っているエロバイトの広告が入ったティッシュをありがたがって生活で使用するほどのクソ庶民。

 財布の中にはポイントカードがたくさん入っていて、ポイントで無料の買い物ができれば1日ハッピーになれる超クソ庶民なのだぁ!


 そ、そんな人間に……。


 私が……。


 ま、負けた……。


「負けただとぉおおお!!」


 あり得ん。

 絶対にそんなことはあり得んのだぁあああ!!


「私は王だぁああ! 王なのだぁあああ!!」


「そうです。 輝騎てるきさまは王なのです。その証拠に、片井の仲間を殺したではありませんか」


 そうだ。

 そうだった。


 ククク。


「仲間の女を殺したんだったなぁ」


「はい。見事に銃弾が3発命中いたしました。射的の腕は世界一。即死でございます」


「グフフフ。見たか、その時の片井の顔を?」


「はい。焦っておりました。仲間の女は号泣です」


「クフフ。王に逆らうから絶望することになるのだ」


「はい。天罰でございます」


「クハハ! 愚民に天罰が下ったか。グハハハ!」


「そうです。下したのは 輝騎てるきさまです」


「ヌハハハ! そうだ! 天罰を下したのは私だぁああああ!」


 王に逆らうからそうなるんだ。

 私に逆らったことを激しく後悔するがいい片井ぃい。


輝騎てるきさま。出口です。もうすぐダンジョンを出れます」


 おおおお!

 眩しいぞ、地上の光。


  輝騎てるきの輝は輝くという文字。

 私の人生は輝き続けるのだぁあああ!!


輝騎てるきさま。銃を仕舞った方が宜しいかと。あと、着ている服も着替えた方が人目につきません」


「うむ」


 銃は収納スキルで亜空間にしまっておこう。

 地上に出て検問に引っかかると厄介だからな。


 この血だらけのスーツも着替えようか。

 新しいブランド物のスーツにな。


 私は、ブランド物のロゴがデカデカと主張したピカピカのネクタイをしっかりと絞めた。


「ふふふ。さぁ、脱出だ」


 ドレスコードが設定された高級レストランに入場するように。エレガントで優雅に。地上に足を踏み入れてやろう。


 片井よ。

 今は大目に見てやるがな。


 最後に勝つのは私だ。


 次に会った時は、生き残っているもう1人の女を貴様の目の前で殺してやろう。

 圧倒的な敗北感を与えてやる。

 私の強さに絶望し、逆らったことを後悔をするのだ。

 土下座をして命乞いをするかもしれないな。

 クフフ。

 その時に殺してやるぞ。

 絶対的な敗北を味合わせてやる。


 勝つのは私だ。

 

 今はその準備期間。

 謂わば、王の休息だ。


 私は兄とは違う。

 病院のベッドで寝込み、警察の監視下にある無能な兄とは圧倒的に違うのだ。


 私はこの地上の光のように、常に輝いている存在なのだからな。


 ダンジョンから出ると、日の光が全身を包む。

 

 ああ、眩しい。

 ふふふ。私の人生を象徴するようだ。

 ククク。


「て、て、 輝騎てるきさま……」


「どうした?」


 目が慣れると周囲が見渡せる。

 そこには数千人の人間が集まっていた。


「なにぃ!?」


 その者らは、険しい視線で私を見つめる。


 嫌な予感が全身を走る。

 しかし、大丈夫だ。

 麻薬。銃。その他、危険視されるアイテムは全て亜空間に収納したのだからな。


 私に犯罪の証拠はないのだ。

 私は王。完璧な存在。


「おい。あいつがエルフの誘拐犯かよ?」

「あれ、 寺開じあく財団の 輝騎てるきじゃね?」

輝騎てるきがエルフの人身売買をしてるのか?」

「最低だな。異世界からエルフを誘拐するなんてよ!」

「犯罪者!」

「クソ野郎が!」

「許させねぇぞ!」

「絶対に許せないわ!」


 なにぃいいいいいいいいいいいい!?

 なぜ、こいつらがエルフのことを知っているのだぁああああ!?




〜〜片井視点〜〜


 俺は 衣怜いれに確認した。


「じゃあ、ネットの掲示板に 輝騎てるきの悪行は載せてくれたんだね?」


 これが俺の作戦。

  輝騎てるきの悪行はギガミストールの魔法によって撮影ができなかった。

 録画はおらか、録音さえもできない。

 ここで、証拠は残らない。

 でも、


「ネットは通じるんだよなぁ」


 ダンジョン内は地下のアンテナの影響を受けるらしくてな。

 ネットは快適にできるんだ。

 配信でも、みんなの書き込みは生きてるしね。

 今回はそれを利用した。


 俺が戦っている間にね。

  衣怜いれに書き込みをしてもらった。

 コウモリカメラは使えなくても、ネットは使える。

 スマホを使って、ネットの掲示板に 輝騎てるきの悪行を載せることにしたんだ。


「ダンジョンの入り口で待ってもらうようにしたけどさ。何十人かは反応すると思うんだ。それで警察に連行してもらえばさ。 輝騎てるきは終わるよな」


「あーー。それでね。 真王まおくん」


「ん? なんか気になることがありそうだな?」


「んーー。掲示板に匿名の書き込みだと、弱いと思ったの」


「匿名でもさ。緊急募集って告知したら結構反応あるんだぞ?」


「あ、うん。なので、掲示板にも載せたんだけどね」


「え? その感じじゃ、他にも募集をかけたってこと?」


「私のヅイッターでね。てへ」


 いや。てへって……。


「もしかして、超人気コスプレイヤー。イレコのヅイッターで呼びかけたのか!? フォロワー85万人だよね!?」


「あーー。今は90万人に増えてます」


 あちゃあ……。

 やっちゃったなぁ。

 これは確実にネットニュースになるやつだ。


 イレコのヅイッターにはこう呟かれていた。


『みんな、力を貸して! エルフの誘拐犯に銃で撃たれました! ガチです! 今、史上最大の犯罪に遭遇してます! その犯人がこのダンジョンの入り口から出てきますから、通報して捕まえてください!』


 それは入り口の写真付き。

  衣怜いれが撮っていた記念写真が、まさか、こんな所で役に立つなんて思いもしなかったな。

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