第42話 衣怜の宣言
ダンジョンは人だかりだった。
人が山のように重なっている所……。
おそらく、あの山の下敷きになっているのが
「ぐぉおお! は、離せ愚民どもぁああああああ!!」
うん。間違いない。
警察が臨場してるけど、逮捕しようか戸惑っているな。
犯罪の証拠がないんじゃ捕まえることは無理だ。
俺と紗代子さんはそそくさと隠れて、遠巻きに見ることにした。
ここからは
「みなさん! 集まってくれてありがとう!」
群衆は彼女の存在に歓喜した。
「うお! 生イレコだ! 可愛い!!」
「うひょーーーー! イレコちゃーーん!」
「悪党は俺たちが捕まえたぜーーーー!」
「警察呼んだけどさぁ。証拠がないと逮捕できないって言うんだ!」
やっぱりか。
動画や音声の決定的な証拠はない。
「お、おまわりよ……。私は無実だ……。くだらん女の戯言に付き合うのはいい加減にしてくれたまえ! 逮捕をしたいというなら証拠を出してみろぉおおお! 離せ、この愚民どもがぁああああ!! 貴様ら全員、傷害罪で訴えてやるからな!!」
「証拠ならあります!」
「なにぃいいいい!?」
「げっ!」
彼女たちは
その時についた傷は紗代子さんの回復魔法によって治っている。
「彼女たちは、そこにいる
場は大歓喜。
正義の心を奮い立たせたと言っていいだろう。
みんなで悪を成敗したことに、熱い気持ちが湧き立ったのである。
エルフを助けたこと。そして、悪者の逮捕。
加えて、ズイッターフォロワー90万人のイレコの登場である。
もう、その場は異様なほどに盛り上がっていた。
こりゃ、俺の出番は無さそうだぞ。
「な、なぜだ!? なぜおまえが生きている!?」
「おまわりさん。彼らは銃を持っています。私は3発も撃たれました」
周囲はどよめく。
銃という単語が犯罪に拍車をかけたのだ。
「ふ、ふ、ふざけるなぁああ! な、な、なにを根拠にそんなことをぉおお! ざ、戯言を言うなぁあ小娘がぁあああ!!」
「今、携帯していないのは収納スキルで隠しているからです」
「き、聞けおまわり! 私はそんな物は持っていない! あれはあの女の戯言だ! 言葉だけならなんだって言えるさ。私の罪はエルフの誘拐だけだ!」
「……本当に、どこまで罪を重ねるのか」
「だ、黙れ小娘! 根拠のないことを言うな! き、貴様の体に傷はない! そ、その証拠に撃たれた傷なんてないじゃないか!」
やれやれ。
頭の回る奴だな。
エルフの誘拐だけで、罪を軽くしようとしてるんだな。
しかし、
「これを見てください」
と、3発のへしゃげた銃弾を見せる。
「私に向かって撃たれた銃弾です。仲間の防御魔法によって銃弾は防がれました。それから、えーーと……」
硝煙反応だ。
事前に伝えてはいたが聞きなれない言葉に難しすぎたか。
俺は刑事ドラマとかで覚えていたからな。
しょ、う、え、ん、は、ん、の、う。
伝われ、俺のジェスチャー。
「しょ……。硝煙反応が
よし!
よく言えた!
全て、俺の台本通りだ。偉いぞ
警官は
「おい! ちょっと、ダンジョンの入り口に入るから、収納スキルの中を調べさせろ」
さて、最後のシナリオだ。
「おまわりさん。彼は麻薬も所持しています」
「な、なにぃいい!?」
これで
奴の悪行は全て警察に突き出す。
「き、き、貴様ぁあああああ!!」
「あなたの悪行は許さない。エルフたちのことも、私に銃を撃ったこともね」
「クソアマがぁあああああ!!」
「そして、なにより許せなかったのが、
「ぐぬぁあああああああああああああッ!!」
「ク、ク、クソがぁあああああ!! ぜ、全部、貴様の筋書きかぁあああああ!?」
そういうことだ。
これらの証拠は、全部自分がやってきたことなのさ。
エルフを誘拐し、
銃を所持して、俺に麻薬を見せつけた。
全部。
全 部 な 。
自 分 が や っ て き た こ と な ん だ よ !
牢獄で罪を償うんだな。悪党よ。
「ぬがあぁあぁああぁあああああああッ!!」
警察の調べは1時間以上続いた。
その間に
集まったファンたちは倍以上に増えていた。
ヅイッターの話題が人を呼んだのである。
こりゃもう、ドームでやるイベントだぞ。
そこら中で動画が撮影されて、もうお祭り騒ぎである。
♯タグ『
身バレは怖いが静観しよう。
俺と紗代子さんはフードで顔を隠していた。
それにしても、すさまじい人だかり。
本当に
俺はアイドルの彼氏なのか……。
などと思っていると、警察の事情聴取から解放された
「なぁ! イレコ! 素朴な疑問なんだけどさ。どうして探索者のコスプレでダンジョン入ってんだ?」
「前々から謎だった!」
「イレコちゃん、探索者なの?」
「その格好……。鉄壁さんの相棒である、秘書のコスプレだよね?」
「イレコが秘書ちゃんじゃないかって噂があるんだけど?」
「イレコ! 教えろし! ここまでみんなを巻き込んだんなら教える義務があるぞなもし!」
ああ、質問攻めだな。
でもな、これはスルーが最適解なんだ。
スルーしろ
俺はジェスチャーを送った。
スルー しろ 笑って 誤魔化せ
うん。
もうこれしかない。
「みんな……。今日は集まってくれて本当にありがとう。みんなのおかげで悪者が逮捕できました」
最後の挨拶だな。
みんなに感謝を伝えてその場を締めるんだ。
よし。タクシーを呼んでおこうか。
俺と紗代子さんは別のタクシーで帰ればいいだろう。
「それで……。私がダンジョンにいる理由なんだけど……」
うんうん。
それはスルーでいいからね。
笑って誤魔化してさ。秘書ちゃんのコスプレをしてるとかなんとか、理由はいくらでもあるだろう。
「私。秘書なんです」
うんうん。
そうそう、秘書なんです。
……え?
あ、いや、違うぞ?
そこは秘書ちゃんのコスプレをしているという設定でだなぁ。
周囲は騒ついた。
いや、そりゃそうだろう。
「私が、鉄壁さんと一緒に探索している秘書なんです!」
ええええええええええええええ!?
いやいやいやいやいやいやいやーー!!
「私……。て、鉄壁さんと付き合ってます!」
はいーーーーーーーー!?
交際宣言したーーーー!!
絶叫の嵐。
中には泣き崩れる者もいた。
「うぉおおおお! やっぱりぃいいいい!!」
「俺のイレコがぁああああああ!!」
「ありえねぇえええええええ!!」
「イレコ氏、それはないでござるよぉおおおお!!」
「マイエンジェル、プリティイレコぉおおおおお!!」
「おおん、おおおおおおおおおん!!」
「イレコぉおおお! ぬほぉおおおおおお!!」
ああ、ファンの夢が崩壊した。
付随して、同じくらいの熱量の咆哮が飛び交う。
「私の鉄壁さんがぁあああああ!!」
「鉄壁さんんんんんんんん!!」
「拙者の鉄壁氏ぃいいいいいいい!!」
「鉄壁さんがイレコに奪われたぁああああ!!」
「鉄壁さーーーーーーーん!!」
「俺の鉄壁さんがぁあああああああ!!」
「イレコちゃん、嘘だと言ってぇええええ!!」
「イレコちゃんが鉄壁さんと……し、信じられない……」
「鉄壁さぁあああん! うぉおおん、うぉおおおん!!」
いや、これはわからん。
この人たちはイレコのファンだろう?
どうしてこうなるんだ?
「み、みんな。今まで黙っていてごめんね。でも……」
そう言って、
「今……。幸せです」
ああああ。
追い討ちをかけるなよ。
などと呆れていると、周囲から拍手が飛び交う。
パチパチパチパチパチパチパチパパチパチ!
膝を崩していた者たちは立ち上がり、涙を拭って笑みを見せた。
「おめでとう!」
「鉄壁さんなら、まぁいいや!」
「素直に嬉しいでござるよ!」
「鉄壁さんの彼女がイレコちゃんなら仕方ないわね」
「お似合いのカップルだよ」
「今日はいい酒が飲めそうだ!」
ファンの1人はどこで入手したのか、花束まで持ってきた。
赤い薔薇とピンクのスイートピーである。
「イレコちゃん。交際宣言。おめでとう。お幸せに」
「ありがとう!」
スマホのシャッター音がそこかしこに響く。
「みんな大好き! ありがとうーー!」
おいおい。
やりすぎだよ。
この事件がヅイッターのトレンド入りしたのは言うまでもない。
Yabooニュースにもなっていた。
やれやれ。とんでもないことになったな。
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