第39話 最強対決

「クハハ! 私の突きは王の突き! 頂点に君臨する一撃!! 何者にも止めることはできんのだぁああ!!」


 その槍の刃先は特殊なオーラを纏っていた。

 稲光を放ち禍々しく輝く。


 凄まじい力の集約だな。

 やはり、あれがスキルの効果だ。


 対するは、俺の壁。

 それは100倍に強化された魔法壁。

 稲妻を放ち、周囲に豪風が吹き荒れる。

 俺が全力を出した、最強の防御壁だ。


 さぁ、貫けるかな?

 100倍の魔法壁。



王の突きキングトラストぉおお!!」

 

 

  輝騎てるきの槍は凄まじい速度で俺の壁に向かう。


 そして、




ザシュゥウウウウウウウウウンッ!!




 俺の壁を貫いた。


「な、なんだと……!?」


 壁は貫通した箇所から力が失われていく。瞬時にして稲光と共に消滅した。


「ま、 真王まおくんの壁がぁあ……」

「ああああああ、社長の魔法壁がぁ……」


 大ピンチだ。

 俺の全力の壁が破壊されてしまった。


「そんな……。バカな」


 俺は絶望するように膝を崩した。


「ギャハハハーー!! グワハハハーーーー!! ダハハハーー!! バハハハハハハハハーーーー!! 私がぁぁあ!! ヌハハハハハハァアア!! 私が勝ったぁぁぁあーーーーーーー!!」


 俺は顔を伏せるだけ。

 そこに追い討ちをかけるように、


「フハハハハ! これが王の力だあぁあああ!! 王の力の前では全てが無力なのだぁあああああああああああああああ!!」


「無力か……」


「ヒィーー……。笑い過ぎて腹が痛いわ。プクク。バカが。貴様のようなクソ庶民が王の私に勝てるはずはないのだ。勝機など1ミクロンも存在せん。プククク。バカが勝ち誇ったように魔法壁を出しおって。なにが「俺の本気」だよ。プクク。バカ丸出しだなぁ。おまえの魔法壁はなんの効果もない無力な壁なのだよ」


「無力……」


「ククク。鉄壁の探索者が聞いて呆れるな。無力な探索者に改名した方がいいのではないかなぁ? クハハ! また笑いが込み上げてしまったぞぉおお。グハハハハ!! いかん、止まらんではないかぁあああ!! おまえはお笑い芸人になった方がいいのではないかぁああ!? ムハハハ! ダメだ!! 面白すぎて腹が捩れるぅうう!! ギャハハハーー!!」


「無力……という言葉の意味を知っているか?」


「フハハハ! 何を聞くかと思えばそんなこと……バカなおまえに教えてやろう。冥土の土産というヤツだな。無力とは、おまえの魔法壁のことなのさ。また、クソ庶民であるおまえ自身のこととも言えるなぁあああ。グハハハハーーーーーーーー!!」


「……無力とは力の無いことを言うんだ。無い力、と書いて無力」


「フっ。だから、それはおまえのことさ。噛み締めろ。バカが」


「本当にそう思うか?」


  輝騎てるきは槍を構えてニヤリと笑う。


「だったら証明してやるよ。おまえの壁が無力だということをなぁあああ!! 今度は深々と刺してやる! 魔法壁を貫いて、貴様の体を貫通させてやるぞぉおおおお!!」


 観察してわかったんだがな。

 このスキルは刃先に貫通能力のあるオーラを付与する技なんだ。

 おそらく、そのオーラはどんな強固な物体も貫いてしまう特性を持っているのだろう。

 その証拠に、 輝騎てるきの動作は人並だ。強者の所作ではあるものの、銃ほどの速度はない。

 銃より遅いのに俺の魔法壁が弾けないのは、刃先に付与された特殊なオーラの影響なんだ。





王の突きキングトラストぉおお!! 死ね片井ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」





 ならば、その刃先に触れさえしなければ貫通することはない。

 つまり、刃先以外の持ち手である柄の部分だ。

 そこならばスキルの影響を受けないんだよな。


攻撃アタック 防御ディフェンス


「ガハハ! 無力だと言っただろうがぁあああああ!!」


 違うね。

 切先の前に出現させるんじゃないんだよな。

 柄の方の空間にさ。

 縮めたバネのようにね。


 魔法壁を出現させるのさ。


 そして、瞬時に、




「壁を広げる」




 すると魔法壁はバネのように空間を押し広げた。



バチンッ!!



 壁の側面は勢いよく槍の柄を弾く。



「なにぃいいいい!? 私の槍がぁああ!?」



 槍は軌道変えた。

 クルクルと弧を描きながら浮上。


グサリ。


 ダンジョンの天井に深々と突き刺さった。


「バカなぁあああ!! 魔法壁が槍を弾いたというのかぁあああああ!?」


 うん。成功だ。


「俺が絶望してたのはさ。完全に振りです」


「なんだとぉおおおおおおおお!?」


「おまえのスキルを解析するのに時間が必要だったのさ。それに言ってみたかったんだよね。「バカな」ってさ。あれって悪役のセリフっぽいじゃない」


「クソがぁあああああああああああああああ!!」


「でも、演技する必要もなかったのかな? なんか1人でバカみたいに大笑いしてさ。すごい時間を作ってくれたよな。おかげで分析する時間は有意義に過ごせたよ。話し始めるきっかけを作るのに苦労したくらいだ。無力の話をきっかけにして、やっと話が切り出せるようになったもんな」


 そう言って天井に刺さった槍を見つめる。


 あーー。


「でも正直、100倍の壁を貫通したのは驚いたな。発生させるのは苦労するしね。時間を稼げて本当に良かったよ。槍を弾くタイミングも考えないといけないからさ。分析が完了する前に畳み掛けるように攻撃されてたらヤバかったかもな」


「あぐぬぅうううううううううううっ…………!!」


「でも、なんかペラペラとさ。頼んでもいないのに、すっごい喋ってたよね? 王というか、町中で見かけるおばちゃんの井戸端会議って感じだったよ。「お笑い芸人になった方がいい」てさ。まさか、俺の就職先まで推薦してくれるとは思わなかったなぁ」


「アググググググググググゥウウウウ……!!」


「顔が真っ赤だが大丈夫か?」


「お、お、俺はぁあああ!! 俺は勝っていたぁあああああああ!! 貴様の魔法壁は貫いていたんだぁああああッ!!」


「おいおい。人聞きの悪いことを言うなよな。大事なのは攻撃を防ぐことだ。俺はおまえの攻撃を完璧に防いだからな。このとおり、傷1つない」


「ぬぐぅううううううっ!!」


「それに、この試合は初めからおまえに有利だったんだろう? 貫通スキルはどんな魔法壁も貫くスキルだ。おまえはそれを知っていた。初めから勝てる試合を挑んでいたんだ」


「はぅうう!!」


 目を逸らしたな。

 図星か。


「例えるならそうだな……。おまえはチョキを出し、俺がパーを出すことになっていた。それじゃあ勝てないのは当然だよな」


「ぬぐぁああ! ク、クソがぁ!!」


「パーが勝つには工夫が必要ということだ。最も、工夫するには事前にわかっていた方がいい。俺は初めから気づいていたのさ。貫通スキルの違和感にな」


「……い、い、い、違和感だとぉ?」


「俺の魔法壁を初めて貫通した時さ。槍が止まっていただろ? 切先が魔法壁を貫通しただけでさ。その状態で止まっていたんだ」


「……な、何が言いたいのだ?」


「その時にピンと来たのさ。なにかがおかしいってな。貫通スキルが槍の全体に付与されているなら魔法壁を貫通してダンジョンの壁に突き刺さるはずだからね」


「は!」


「持ち手の部分。つまり、槍の柄にはスキルが付与されていなかったのさ。だから、その部分で槍が止まるんだよ」


「はぐぬぅうううううううううっ!!」


「だからな。俺に必要だったのは、スキルの性質を見極める分析。そして、その槍を魔法壁で弾くタイミング。それらを整理する時間だけだったのさ」


 女子たちは飛び跳ねた。


「んきゃあああ!! 完璧な計算だよ! パーでチョキに勝っちゃった!! すごいよ 真王まおくん!!」

「流石は社長です!! 圧倒的な戦略! 無駄のないロジック。圧勝です!!」


 さて、


「長々と語ったわけだがな。これにだって意味があるんだ」


 俺の眼前には魔法壁が、煌々とその美しい光を放っていた。


 これを作るには十分な時間だった。


「特別に強化された魔法壁だ。喜べよ。おまえのサイズに合わしといたからさ」


「ク、クソがぁあああああああああああ!!」


  輝騎てるきは亜空間から槍を取り出した。


 やれやれ。今更、攻撃かぁ。

 それは完全に遅すぎるよな。


 んじゃあ、俺からのプレゼントだ。






「壁……パンチ」






ドォオオオン!!




 魔法壁は俺の打撃によってぶっ飛んだ。

  輝騎てるきは槍を構える暇もない。そのまま彼の全身をベチャリと潰す。




「ほげらぁあああッ!!」




 そのままダンジョンの壁に突っ込んだ。

 

 魔法壁とダンジョンの壁とでサンドイッチ。







「あぎゃあああああああああああッ!!」





 

 全身の骨がボキボキと砕ける。

 体の随所から穴の空いた排水管のようにピューピューと血が吹き出た。


 やっぱり、兄弟なんだなぁ。

 兄貴の時にも、こんなセリフを言ったっけ。



「無力ってのはおまえの槍の方だったみたいだな。あと、おまえの方がお笑い芸人に向いているのかもしれないぞ?」


 

 さて、ボスは倒したがな。

 この霧はいつ治るんだろう?


 コウモリカメラは以前として配信映像が撮れていなかった。


 周囲の霧は更に濃くなる。


 やれやれ。

 どうやら、まだ仲間が残っているようだな。

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