第36話 紗代子さんの覚醒

「社長。これ……。魔法ですよね?」


 おお! 

 青のオーラ。


「水属性の回復魔法だよ」


「あ、頭の中に 回復ヒールって浮かんで来ます」


 紗代子さんは 回復術師ヒーラータイプか。


「でもこれって、社長のパーティーでは使わないんじゃ?」


「ははは……。まぁそうかもね」


 俺が魔法壁で攻撃は防ぐからな。


『おめでとーー!』

『他のパーティーなら重宝されたけどねぇw』

『水属性なら攻撃魔法もじきに覚えるかもーー』

『おめーー!』

『事務さん、おめでとうございまーーす!』

『鉄壁さんのパーティーがより強固なものになったw』


 うむ。

 みんなも祝ってくれてるな。

 まずは良かったよね。

 

 紗代子さんは随分と嬉しそうだ。

 魔法の力に浮かれてる感じ。

 フフフ。楽しい探索だな。




 地下10階には大きな岩場が広がっていた。


 今回の目的は温泉の岩を採取するところだからな。

 前半の紗代子さんの件で本来の目的を忘れそうだったけどね。


 ここなら良い岩が採れそうだぞ。


「社長! あの岩素敵です!」

「鉄壁さん! この岩、形が可愛いよ!」


 うむ。

 女子たちは大喜びだな。

 持ち運びは 衣怜いれの収納スキルがあるから便利だ。


「硬ぁあ! この岩、硬くて大剣じゃ削れないわ」


「どれ」


 俺はグローブを嵌めた。

 それは所々に鋼のプレートが付いていて強化されている。


「鉄壁さん。それ。新しい装備?」


「ああ。このまえグレインハウズを倒した時にさ。壁を叩いただろ? その衝撃を和らげるために特注で作っておいたんだ」


 拳の前に小さな攻撃アタック 防御ディフェンスを作る。

 それで岩を打つ。


「おりゃ!」


バゴーーーーン!!


「うわ、すごい威力」


 これで運べる大きさになったぞ。

 コメントは大盛り上がり。


『出たーーーー!』

『待ってました壁パンチ!』

『来たよ壁パン』

『壁パンマンw』

『カッコいい! 見たかったんだ!』

『グローブめっちゃいい!』

『コスプレする奴いるな』

『最高だよね。壁パンチ!』


  衣怜いれは笑った。


「壁パンチが進化してるね」


「壁パンチ? なんだそれ?」


「鉄壁さんの使ってる技の名前だよ。ネットで盛り上がってるんだけど知らない?」


 知らないな……。

 やれやれ。

 いつの間にか技名が付けられていたのか。

 まぁ、便宜上はあった方がいいのかな。


「じゃあさ。その壁パンチで俺が岩を砕くから、良さそうな岩を探してくれ」


「うん」

「はい社長」


 俺たちは岩探しに没頭する。


 もうしばらくしたら昼飯にしようか。

 簡易的ではあるが、 衣怜いれが弁当を作ってくれたんだ。

 本当に楽しいピクニックだよな。


 突然。霧が立ち込めてくる。


「なんだろう?」


 温泉なんかがあると霧になりやすいんだけどな。


 などと思っていると、


『あれ? 通信障害?』

『もしもーーし!?』

『鉄壁さーーん』

『事務さん、秘書ちゃーーん』

『映ってないよぉ?』

『声も聞こえないんだけどぉ?』


 なんだ?

 妙なコメントだな?


 瞬間。

 紗代子さんの悲鳴が響く。


「きゃあああああ!!」


 また、モンスターが出たのかな?


「へへへ。こんなところでバッタリ出会うなんてよぉお。奇遇だなぁ片井」


 やれやれ。

 その声は、


「赤木……」


「よぉ。片井ぃ」


 赤木が紗代子さんを抱きしめて身動きができないようにしていた。

 その腕には銃を持ち、彼女のこめかみに突きつける。


 おいおい。


「コウモリが見えないのか? 冗談は顔だけにしてくれよ」


「るせぇえ! クソ片井がぁああ!!」


バキューーン!


 赤木は俺の横の地面を撃った。

 すさまじい速さで小さな穴が開く。


 うむ。

 この威力。どうやら、あの銃は本物らしいな。


 それにこの霧。もしかして魔法か?


 俺たちは黒ずくめの探索者に周囲を囲まれていた。

 その中に背の小さい者がいる。


 あいつが霧の魔法を発生させているようだな。

 コメントの反応といい、あの霧がコウモリの録画機能をダメにしているんだな。


「クハハ! 気づいたか? この霧はギガミストールつってよ。あらゆる録画を防止する魔法なんだわ」


 やはりか。


  寺開じあくの時はノーマルのミストールだったな。

 コウモリ1台を録画不能にする効果だった。

 今回はその強化版か。


 つまりはこの状況。

 何も証拠が残らないということだ。


 こいつら何者だ?

 凄まじい殺気だな。使っている魔法といい。かなりの手足れだぞ。

 赤木の力で集められる人材じゃないだろう。

 正体はわからないが、友好的じゃないのは確かだな。


「へへへ。片井ぃい。久しぶりだなぁああ」


 青野原と緑川が見えないな。

 赤木の単独行動か。

 持っている銃といい、どこかの組織と手を組んだな。


「随分なことをしてくれるじゃあないか」


「ギャハハハ! それはおめぇが悪いんだぜ片井ぃいい!! 俺に土下座なんかさせっからよぉおお!」


「土下座はおまえたちが勝手にしたことだろう」


 壁パンチで魔法壁を飛ばせば、あの銃は弾けるな。


「おおっと、動くなよぉお!! この姉ちゃんの頭が吹っ飛ぶぞ?」


「目的は俺なんだろ? 紗代子さんは関係ないはずだ」


「タハーー! 物分かりがいいなぁあ!! 流石は鉄壁さんだぜぇええ!!」


 やれやれだ。

 少し譲歩してやるか。


「紗代子さんを離せ。条件として、おまえが壊した事務所の壁。その補習費用に10万円請求していたがな。反故にしてやる。もちろん、この件も黙っておくさ。おまえが銃を所持していることもな。口外しないことを約束しよう。これでどうだ?」


「んーー。まだ足りねぇなぁ……。ケハハ」


「か、片井くん……。ごめんね。私がダンジョンに行きたいなんて言ったから……」


 紗代子さんはボロボロと涙を流す。

 もう敬語を使うことすら忘れちゃってるよ。


「あーー。心配しないでよ。すぐに助けるからさ」


「うう……。ごめん……」


 紗代子さんを泣かすなんて許せないな。


「おい赤木。なにが足りないっていうんだ?」


「ククク。もうわかってんだろう? 俺の欲しい物をさぁあ」


 やれやれだ。


「おまえの命さ。片井ぃいいい」


 銃を使って計画的に殺人を実行しようなんてな。

 もう、探索者でもなんでもない、


「落ちたな赤木」


「てめぇのせいだぜ片井ぃい。てめぇのせいで俺の人生はめちゃくちゃだぁあああ!」


「俺のせいにするなよ。全部、自分のせいじゃないか。探索パーティーから俺を追放したのだって、事務所で俺に喧嘩を売ったのだって、全部、おまえがやっていることだぞ。今だって」


「うるさい! うるさい! うるさーーい!! てめぇは黙って俺の命令を聞いてればいいんだよぉお。このビチ糞片井がぁああああ!!」


 俺が使う魔法壁の射程距離は50メートルだ。

 赤木までの距離、およそ10メートル。

 余裕で魔法壁を出せる距離だ。

 奴に気づかれないように。


 少しずつ……。

 あの場所に発生させられれば紗代子さんを助けられる。

 

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