第37話 赤木と片井
赤木は違和感に気づいた。
「て、てめぇえ! 小さな魔法壁を女の目の前に張っているな!!」
あ、気づかれたか。
銃口と紗代子さんの間に魔法壁を張る作戦だったんだがな。
「動くなって言っただろうがぁあああ!!」
「だから、動いてないって」
「うるせぇええええッ! 俺の命令を聞けぇえええええええ!! 俺がおまえを支配するんだよぉおおおお!!」
赤木は銃を撃った。
パァァァアアンッ!!
その弾は一瞬で俺の胸元へと到達する。
「ギャハハハハ! お陀仏、ざまぁあああああああ!!」
数秒だけ時を戻して、説明しなければならない。
魔法には詠唱時間や魔力の溜めというのがあって、発生させるのには少し時間がかかる。
その点において、銃の瞬発力は魔法を凌駕していると言って良いだろう。
つまり、この武器の速さには魔法では勝てないのだ。
それは刹那の時間であった。
赤木が「ざまぁあ」と言わんがばかりに口角を上げる。
本当にそれくらい。奴の犬歯がチラリと見えるか見えないか。
銃弾は俺の胸元へと到達。
……したかのように見えた。
ギィイインッ!!
聞いたともないような接触音がダンジョンに響く。
「ぎゃははは! お陀仏ざまぁああ。……え?」
赤木は、倒れない俺の姿に目を見張る。
「な、な……!?」
地面には銃弾が転がった。その形はへしゃげている。
「ふぅ……」
俺は眉を上げた。
「なにぃいいいいい!?」
「なにって……。動いてないぞ?」
「そ、そういう意味じゃねぇええ!! 死ねぇええええ!!」
パン! パン! パン!
今度は連射で来たか。
「
ギィイイン!!
ギィイイン!!
ギィイイン!!
3発を全て防ぐ。
魔法壁は俺の眼前で青白く輝いていた。
「は、弾くだとぉ!?」
銃弾を弾くなんて初めてだけどさ。
こんな音が鳴るんだな。
「は、早い!! こいつ、なんで!?」
ふむ。
通常ならば、魔法の速さでは勝てない事象だからな。
説明は必要か。
「魔力伝達は空気の影響を受ける。つまり、距離があればそれだけ発生させるのに時間がかかるんだな。でもさ、自分の目の前ならどうだ? ゼロ距離の地点。それならば一瞬で出せる」
「ふ、ふざけんなぁああああ!! 詠唱時間はどうなってんだぁああ!! 魔力の溜めはぁああ!? 無詠唱でも魔法名称の発言には時間が掛かるだろうがぁああああ!?」
そういうのウルチャの質問で何度か答えたことがあるな。
「呪文の詠唱は脳内で補完してるから問題ない。魔力の溜めはゼロ距離なら必要ないんだ。銃弾を弾き返すくらいの厚さの魔法壁なら一瞬で出せる。それこそ、瞬きするくらいの一瞬でな」
「アグヌヌヌヌヌ……」
「あとな、
「ウヌゥウウ! き、貴様ぁああああ!! それだけの力を持ちながらぁあ! 俺たちに隠していたっていうのかよぉおお!!」
「別に隠していたわけじゃないさ。聞かれなかったから言わなかっただけだ」
「屁理屈言ってんじゃねぇええええ!!」
価値観の相違か。
「そういうのってさ。お互いに信頼していたら、話さなくてもいいんじゃないのか?」
「な、なんだとぉおおお!?」
「俺はおまえたちを信頼していたからな」
「んぐ……!!」
「仲間だと思っていたよ」
「ふざけんなぁああああああああああああッ!!」
ふざけてるのはおまえだよ赤木。
「こっちは人質がいんだぞ、こらぁあああああ!!」
銃口の前には立派な魔法壁が完成していた。
「ク、クソが!! 全員でかかれ! こいつらをぶっ殺すんだよぉおおお!!」
赤木の号令で周囲にいた黒ずくめの者たちは前に出た。
おっと、そうはいかない。
「長々と説明していたのはこのためなんだ」
俺の周囲には手の平サイズの魔法壁がいくつも浮かんでいた。
赤木を入れて8人か。
だから、8枚用意した。
この技名はちょっと恥ずかしいんだがな。
まぁ、みんなが考えてくれたんなら。
発言せざるを得ないよな。
必殺、
「壁パンチ」
それは8枚の魔法壁に向かって打ち込んだ連撃。
ダダダダダン! と小気味いい音が鳴り響く。
その壁は赤木たちに命中した。
「「「 グハァアッ!! 」」」
体にめり込んだ壁は奴らの骨を砕いた。
紗代子さんは泣きながら抱きついて来た。
「か、片井くん!!」
「怪我はない?」
「う、うん。助けてくれてありがとう。うぇーーん!!」
ふふふ。
普段、お姉さんな感じでもやっぱり女の子なんだな。
よしよし。
突然、オレンジの灯りが俺たちを包む。
全身に凄まじい熱気を感じた。
「か、片井ぃいいいいいい! お、俺はただじゃ死なねぇえぞぉおおお。ゲフゥウウ……」
赤木は血反吐を出しながら、フラフラと立ち上がる。
両手は天を掲げ、大きな火球を作っていた。
「テ、テラファイヤーボールだぜぇええええ!! こ、こんだけデカい火球ならよぉお。一瞬で黒焦げだよなぁあ。ギャハハハ!!」
S級魔法テラファイヤーボールか。
そんな強力な魔法をこいつが使えるとも思えんがな。
赤木の腕についてる腕輪。あれは魔力増幅のレアアイテムのようだ。
大方、銃と一緒に手に入れたのだろう。
勝ちを確信したみたいに笑っているがな、
「そんな大きな火球。爆発させたらおまえもただでは済まんぞ?」
「ギャハハハ! 一緒に地獄に堕ちようぜ片井ぃいいいい!!」
「おまえ、俺のバズってる動画観たことなかったのか? フレイムブリザードドラゴンを倒した配信動画。結構、有名なんだがな」
「ゲハハ。
おいおい。知ってるのかよ。
俺は
「だったら、やめておけ。もうおまえの負けは確定したんだ」
「ぎゃははは! 反射できるのはせいぜいギガファイヤーだろうがよぉおお!! 死ねぇえええ!! テラファイヤーボーーーールゥウウ!!」
やれやれ。
俺は全ての魔法壁を強化できるんだよ。
「
魔法攻撃を反射してそのまま返す。
俺の魔法壁は強固な側面でテラファイヤーボールを跳ね返した。
「なにぃいいいい!? 俺のテラファイヤーボールがぁああああああ……返っでぎだぁあああああああああッ」
反射した火球は赤木に接触して大爆発を起こした。
「ギャァアアアアアアアアアアアアッ!!」
だから、やめろと言ったのに。
爆風の影響は物理と魔法の防御が必要だ。
よって、
「
俺はその魔法壁を使って爆風からみんなを守った。
「ありがとうございます社長!」
「ありがとう
「2人とも怪我はない?」
「ええ! 擦り傷一つありませんよ! 流石は社長です!」
「私も全然、平気!」
よし。
なんとか、2人を守れたな。
俺は瓦礫に目をやった。
煤と化した赤木はあの岩屑の下か。
バカな奴だな。助かるチャンスを与えてやったのにさ。
紗代子さんと協力して周囲で気絶している黒装束の者たちを縛り上げた。
俺は岩陰の奥に気配を感じる。
なんだろう?
「なに!? どうして!?」
それは拘束された若い女たちだった。
全身傷だらけ。
5人いる。顔が似てるから姉妹かもしれない。
互いに縄で縛られて繋がってるな。移動している最中だったのか。
女性の肌は褐色で、全員の耳が尖っていた。
褐色のエルフだ……。
全員が猿ぐつわを嵌められて声が出せないでいた。
赤木たちが運んでいたのか?
俺は女の猿ぐつわを外した。
「あなたたちは、奴らに捕まっていたんですか?」
「うう……」
言葉はダンジョンの力で通じるんだけどな。
よほど怖い思いをしたんだろう。
すぐには心を開いてくれそうにないぞ。
まずは、怪我の治療だよな。
「
2人はエルフを見て驚く。
ここから役割分担が始まった。
俺は彼女たちの縄を解きながら感慨に耽る。
まさか、紗代子さんの回復魔法が役に立つとは思わなかったな。
やはり、必須魔法だったか。
それにしても酷い傷だ。暴力で弱らせて、拘束したんだな。一体どうしてこんなことを? 黒装束の奴らを尋問するべきだな。
「
6人だと?
それだと赤木を入れても7人だ。
おかしいな。
奴らは全員で8人だったはずだが?
突如。
周囲が霧に覆われる。
こ、これは!?
「
警戒するや否や。
ビュッ!!
風の流れに違和感を感じる。
「
グサァアアッ!!
壁には1本の槍が突き刺さっていた。
貫いたのか。
弾丸を跳ね返した強固な壁を、いとも簡単に。
魔法壁との距離があって助かった。
少しでも出すのが遅れていたら串刺しか。
やれやれ。
とんでもないピクニックになったな。
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